契約書業務マニュアル

平成15年から契約書だけをつくり続けてきた契約書専門の行政書士

契約書を2020年新民法にあわせて改訂する方法 【利用規約を見直したほうがいい理由】

 

 行政書士の竹永大です。

 

民法の定型約款についてです。

 

 

約款とは不特定多数との契約

 

約款とは、「不特定多数」との間に「画一的」に用いられるべき契約のことです。ひとりひとりと個別に合意形成していたのでは成り立たないような、一対多数の取引(例えば、鉄道やバスの運送、電気・ガスの供給、保険、一般消費者向けのインターネットサイトの利用などの取引)において、大量の取引を迅速に行うために「画一的な取引条件等」を定めた契約が「約款」であるということができます。

 

約款の何が問題だったのか?

 

約款は従来から用いられてきましたが、もともと画一性を優先したやり方のため、普通の契約書のような交渉や締結のプロセスがありません。極端にいえば、約款なんてほとんどの人が読んでないのです。そのため、ほんとうに合意したのかどうかがよくわからないという弱点がありました。

 

一方で民法では「契約の当事者は契約の内容を認識しなければ契約に拘束されない」というのが原則でした。仮にこの原則をそのままあてはめようとすると、約款を読んでない利用者は契約を守らなくてもいいことになってしまいます。しかし、もちろんこれは取引の実情には合いません。

 

このギャップを解消するために、新民法には「約款に関する規定」が新設されました。

  

定型約款に該当するかどうか

 

民法は、これまでの約款全般と区別するために、「定型約款」という言葉を用います。「定型約款」とは、新民法がとりいれた新たな概念です。

 

そしてまず、

 

①ある特定の者が「不特定多数」の者を相手方として行う取引で、

②取引内容の全部または一部が「画一的である」ことが双方にとって合理的なもの

 

の2つの要件を満たすような取引を「定形取引」とします。相手が「不特定多数」であることと、「合理的画一性」があることがポイントです。

 

そしてこの「定型取引」において「契約の内容とすることを目的として、その特定の者により準備された条項の総体」が「定型約款」です。(新民法548条の2)

 

不特定多数 + 合理的画一性 = 定形取引 

定形取引の条項の総体 = 「定型約款」 

 

定型約款に該当する例・しない例

 

  • 【定型約款に該当する】 鉄道・バスの運送約款、電気・ガスの供給約款、保険約款、インターネットサイトの利用規約

 

  • 【定型約款に該当しない】 一般的な事業者間取引で用いられる一方当事者の準備した契約書のひな型、労働契約のひな形 等

 

 

定型約款に該当するとどうなるの?

 

定型約款には、一定の場合に「みなし合意」が認められます。つまり「約款が当事者を拘束できるのか」という議論があったところ、次のいずれかのルールを守れば約款に合意したものとみなされます。(契約の内容に組み入れられる、という意味で組入要件といいます。)

 

組入要件

① 定型約款を契約の内容とする旨の合意があった場合
② (取引に際して)定型約款を契約の内容とする旨をあらかじめ相手方に「表示」していた場合

 

定型約款で契約するという合意があるか、そう表示していた場合は、定型約款の全体に合意したことになります。逆の言い方をすれば、定型約款に該当する以上は、ちゃんと「合意」があったのか、あるいはちゃんと「表示」していたか、が今後重要な問題になります。定型約款なのに、合意や表示がなかったとなると、みなし合意にあてはまらないため、契約に組み入れられないリスクがあるともいえるわけです。

 

 

(定型約款の合意)
第548条の2 定型取引(ある特定の者が不特定多数の者を相手方として行う取引であって、その内容の全部又は一部が画一的であることがその双方にとって合理的なものをいう。以下同じ。)を行うことの合意(次条において「定型取引合意」という。)をした者は、次に掲げる場合には、定型約款(定型取引において、契約の内容とすることを目的としてその特定の者により準備された条項の総体をいう。以下同じ。)の個別の条項についても合意をしたものとみなす。
定型約款を契約の内容とする旨の合意をしたとき。
二 定型約款を準備した者(以下「定型約款準備者」という。)があらかじめその定型約款を契約の内容とする旨を相手方に表示していたとき。
2 前項の規定にかかわらず、同項の条項のうち、相手方の権利を制限し、又は相手方の義務を加重する条項であって、その定型取引の態様及びその実情並びに取引上の社会通念に照らして第一条第二項に規定する基本原則に反して相手方の利益を一方的に害すると認められるものについては、合意をしなかったものとみなす。

 

みなし合意は、一定のルールのもとであれば約款にも拘束力があることを明確化しているので、悪用されては困ります。そこで(定型取引の特質に照らして)相手方の利益を一方的に害する契約条項であって信義則(民法1条2項)に反する内容の条項については、合意したとはみなさない(契約内容とならない)ことが明確化されています。

  

合意、表示の要件のもと「みなし合意」

→ ただし「不当条項・不意打ち条項」はみなし合意の効力否定

  

2 前項の規定にかかわらず、同項の条項のうち、相手方の権利を制限し、又は相手方の義務を加重する条項であって、その定型取引の態様及びその実情並びに取引上の社会通念に照らして第一条第二項に規定する基本原則に反して相手方の利益を一方的に害すると認められるものについては、合意をしなかったものとみなす。

 

さらに取引の相手方には定型約款の開示請求権も認められており(548条の3)、いわゆる不意打ちを排除しています。

 

(定型約款の内容の表示)
第458条の3 定型取引を行い、又は行おうとする定型約款準備者は、定型取引合意の前又は定型取引合意の後相当の期間内に相手方から請求があった場合には、遅滞なく、相当な方法でその定型約款の内容を示さなければならない。ただし、定型約款準備者が既に相手方に対して定型約款を記載した書面を交付し、又はこれを記録した電磁的記録を提供していたときは、この限りでない。
2 定型約款準備者が定型取引合意の前において前項の請求を拒んだときは、前条の規定は、適用しない。ただし、一時的な通信障害が発生した場合その他正当な事由がある場合は、この限りでない。

  

定型約款は後で変更できるか?

 

ところで、いったん合意された約款は、あとで変更できるのでしょうか?

 

値上げや、ポイント制度の見直しなど、サービスを申し込んだ当時とは規約を変更する必要がでてくることはよくあります。一度は決めたルールを後から変更するわけですから、理想を言えば、個別に合意を得なければならないはずです。しかし不特定多数の相手方がいるという取引の性質上、現実にまたひとりひとりと個別の合意を取り直すことは困難です。

 

民法には、次の場合には、定型約款準備者(事業者側)が定型約款を変更できることも明確化されました。つまり合意を取り直さなくても(誤解を恐れずにいえば、利用者の同意がなくても)契約内容を変更できることになります。

 

(定型約款の変更)
第548条の4
1.定型約款準備者は、次に掲げる場合には、定型約款の変更をすることにより、変更後の定型約款の条項について合意があったものとみなし、個別に相手方と合意をすることなく契約の内容を変更することができる。
一 定型約款の変更が、相手方の一般の利益に適合するとき。
二 定型約款の変更が、契約をした目的に反せず、かつ、変更の必要性、変更後の内容の相当性、この条の規定により定型約款の変更をすることがある旨の定めの有無及びその内容その他の変更に係る事情に照らして合理的なものであるとき。
2.定型約款準備者は、前項の規定による定型約款の変更をするときは、その効力発生時期を定め、かつ、定型約款を変更する旨及び変更後の定型約款の内容並びにその効力発生時期をインターネットの利用その他の適切な方法により周知しなければならない。
3.第一項第二号の規定による定型約款の変更は、前項の効力発生時期が到来するまでに同項の規定による周知をしなければ、その効力を生じない。
4.第五百四十八条の二第二項の規定は、第一項の規定による定型約款の変更については、適用しない。

 

つまり、同意を得ずに定型約款の変更が認められる場合は、

 

① 変更が相手方の一般の利益に適合する場合

 又は

② 変更が契約の目的に反せず、かつ、変更の必要性、変更後の内容の相当性、定型約款の変更をすることがある旨の定めの有無及びその内容その他の変更に係る事情に照らして合理的な場合

 

に限られるということです。

 

さらに、この場合必要な手続きについても、

 

①変更後の利用規約効力発生時期を定め、
定型約款を変更する旨と変更後の利用規約の内容と効力発生時期をインターネットの利用その他の適切な方法により周知する

 

ことが必要です。効力発生時期を定める義務や周知義務が規定されているので、定型約款には将来的な変更を見越して、変更に関する条文を入れておく必要があるでしょう。

 

このようなシチュエーションに考えられる条文例は、

 

第〇条(本規約の変更)
1 弊社は以下の場合に、当社の裁量により、本規約を変更することができる。
①本規約の変更が、利用者の一般の利益に適合するとき
②本規約の変更が、契約をした目的に反せず、かつ、変更の必要性、変更後の内容の相当性、変更の内容その他の変更に係る事情に照らして合理的なものであるとき

2 弊社は前項の変更にあたり、変更後の本規約の効力発生日の3か月前までに、本規約を変更する旨及び変更後の本規約の内容とその効力発生日を弊社ウェブサイトに掲示する方法、またはユーザーに電子メールを送信する方法により通知するものとする。
3 変更後の本規約の効力発生日以降に利用者が弊社のサービスを利用したときは、利用者は、本規約の変更に同意したものとみなす。

 

です。

 

通常の契約書への影響は少ないが・・・

 

ところで、定型約款に関する新民法への規定の新設は、通常のビジネス契約書(基本契約とか業務委託契約といったビジネス取引契約書)へはほとんど影響しないでしょう。これらはそもそも定形取引に該当しないため、定型約款の規定はあてはまらないからです。 

 

一方、いわゆる利用規約と呼ばれているものについては、定型約款に該当することが多いと思われますので、条文の内容と実際の手続きの両方を見直したほうがよいと考えられます。

   

 

 

 

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