【2020年4月から】 民法改正で契約書はこう変わる!
行政書士の竹永大です。
民法改正で契約書はどう変わるのでしょうか。
最も重要なポイントをまとめます。
改正のあらましとその影響、瑕疵担保条項、解除条項への反映を説明します。
- 民法改正で契約書はどう変わるのでしょうか。
- 民法改正? ⇒ 約200項目も変わった
- 新しい民法はいつから? ⇒ 2020年4月1日から
- なぜ契約書の対応が必要? ⇒ 公式ルールが変わるから
- 当事者間でルールブック(契約書)をつくるメリットは?
- どんな改正なのかを簡単に確認する方法
- すべての改正項目が契約書に影響するか?
- まずはこの2点だけをおさえる
- まずはこの2点だけ・・・①瑕疵から契約不適合へ
- 契約不適合とはなにか?
- 契約不適合だった場合の救済は?
- 追完請求ができる
- 代金減額請求ができる
- 損害賠償請求ができる
- 契約を解除できる
- 契約書にどのように反映すべきか?
- 瑕疵 ⇒ 契約不適合
- 救済手段のアレンジ
- まずはこの2点だけ・・・②債務不履行による解除
- 債務不履行なら解除できる
- 債務者の帰責性が必要 ⇒ 不要に
- 債務不履行であれば、必ず催告解除が可能なのか?
- 無催告で解除できる場合も
- 解除条項はどう変わる?
- 前文や目的条項を具体化する
- 解除事由をわかりやすく列記する
- 上記に加え、会社分割を解除事由に含めるかどうか
- 不履行が「軽微」な場合を想定した条文をおく
- まとめ
民法改正? ⇒ 約200項目も変わった
平成29年4月14日に衆議院、同年5月26日に参議院でそれぞれ可決され成立した、民法の一部を改正する法律(平成29年法律第44号)は、民法財産編が明治29年に制定されて以来約120年ぶりの抜本的な民法の改正だといわれています。
改正の対象となった事項はなんと約200項目にも及んでいます。
従来の学説や判例法理の明文化だけでなく、制度改正や新制度の導入も含まれています。「明文化」とは、これまで判例の蓄積によって定着はしていたけれども民法の条文には書いてなかったことが、法律に明確に書かれたということです。なおかつ「新しい制度」もつくられたという、非常にインパクトの大きな法改正なのです。
新しい民法はいつから? ⇒ 2020年4月1日から
ではその新しい民法はいつから開始するのかというと、2020年の4月1日から施行されます(附則1条本文、改正民法施行期日政令)。若干の例外はありますが、ほとんどは2020年の春から新しい民法に変わるわけです。
民法が変わると契約書も変わります。
大げさにいえばこれまでの契約書は使えなくなり、あたらしい内容の契約書で契約をしなければならない、というような部分もでてきます。契約書に与える影響が大きい改正でもあるのです。
なぜ契約書の対応が必要? ⇒ 公式ルールが変わるから
そもそもなぜ民法が変わると契約書も変わるのでしょうか?
野球でもサッカーでも、スポーツにはルールがあります。基本的な得点の仕方は変わらなくても、大きなルール変更があった場合、勝ち方や戦略は変わってくる可能性があります。たとえばこれまではセーフだったことが、アウトになっているかもしれませんから、知らぬ間に減点リスクを負っているかもしれませんよね。
ビジネスにも「法律」といういわば「公式ルール」があります。ルールの変更でスポーツの勝ち方が変わるかもしれないように、法律が変わるときも、ビジネスの条件に影響が出るはずです。
ただ、ここがスポーツとの違いですが、ビジネスの場合は当事者間で法律とは別の独自ルール(契約)を決めることが認められています。契約自由の原則といわれ、ビジネスの「ルールブック」はある程度まで当事者同士が自由に決めてよいのです。(例外として法律には「強行規定」といって、当事者の合意があっても逆らえないルールもあります。公序良俗に反するものなど、たとえ当事者がそれでいいと決めたとしても、強行規定の方が優先されます。)
当事者間でルールブック(契約書)をつくるメリットは?
当事者間でルールブックをつくれば、民法がどう変わろうと構わないのかもしれません。しかし独自のルールブック(つまり契約書)をつくるのは、意外と大変な作業です。
スポーツのたとえで言えば、もし変なルールをつくったら試合にならなくなるかもしれませんから、矛盾が無いようにつくらなければなりません。それに、独自ルールなわけですから相手の同意も必要です。
なので、あまり細かく定めないか、面倒だからということで、ときにはルールブック(契約書)をつくらずに(口約束などで)すませてしまうことも起こります。その場合は「法律通り」のルールでビジネスが行われることになります。
自分たちで独自のルールブック(契約書)をつくらないというのであれば、法律という「公式ルール」が、自動的に適用されるのです。これは便利な面もあります。あらかじめ公式ルールがあるので、当事者がわざわざルールブックをつくる時間も手間も省けるからです。
でもよく考えると、公式ルール(法律)が常に自分たちにとって有利なルールだとは限りません。(たとえば、自分は報酬を先に支払ってほしかったのに、法律のルールには後払いだと書いてあったら、自分にとっては都合が悪いですね。)
それに、公式ルールが常に具体的で、想定されるトラブルについてはっきりと対応しているとも限りません。むしろ法律は抽象的に、包括的に書いてあるため、いざというときはそれを「解釈する」段階が必要になります。これではトラブルに機敏に対応できないかもしれません。だからやっぱり面倒でも自分たちの独自ルールブック(オリジナル契約書)を決めてビジネスしたほうが安心なのです。
どんな改正なのかを簡単に確認する方法
今回の民法改正によって、土台となっていた「公式ルール」が大きく変わりました。それは自分たちにとって有利なのでしょうか、それとも不利なのでしょうか。それを知ったうえで、これまでの契約書を変更する必要がないかどうか点検する必要があります。
そこで、具体的にどこがどう変わったのかを、てっとりばやく確認する方法があります。それは、法務省のホームページをみることです。なかでも、「主な改正事項」という資料が特にわかりやすいと思います。
当該資料には、以下の項目がPDF資料の形でまとまっています。これをみておけば全体的な改正のイメージがざっとつかめるという優れものです。
(法務省資料「主な改正事項」:項目のみ抜粋。)
1.消滅時効に関する見直し
2.法定利率に関する見直し
3.保証に関する見直し
4.債権譲渡に関する見直し
5.約款(定型約款)に関する規定の新設
6.意思能力制度の明文化
7.意思表示に関する見直し
8.代理に関する見直し9.債務不履行による損害賠償の帰責事由の明確化
10.契約解除の要件に関する見直し
11.売主の瑕疵担保責任に関する見直し
12.原始的不能の場合の損害賠償規定の新設
13.債務者の責任財産の保全のための制度
14.連帯債務に関する見直し
15. 債務引受に関する見直し16.相殺禁止に関する見直し
17.弁済に関する見直し(第三者弁済)
18.契約に関する基本原則の明記
19.契約の成立に関する見直し
20.危険負担に関する見直し
21.消費貸借に関する見直し
22.賃貸借に関する見直し
23.請負に関する見直し
24.寄託に関する見直し
すべての改正項目が契約書に影響するか?
このようにたくさん改正項目があるため、すべての改正項目を契約書に反映させなければいけないのか・・・と考えると大変な気がしますが、そうではありません。契約書に影響を与える項目と、そうではない項目があります。また、当然ながら契約の種類や内容によっても、影響は異なります。
そこで、特に一般的なビジネス契約書(売買や業務委託など)にかかわりの深い改正項目を絞り込んでチェックするのが理解の近道となります。具体的には、次の2点が重点ポイントだと考えています。
まずはこの2点だけをおさえる
その2点とは、
①瑕疵という言葉がなくなり、契約不適合へと変わったこと
②債務不履行による解除が整理されたこと
の2つです。
もちろん他にも、定型約款の新設とか、保証人の意思確認制度の導入とか、法定利率の変動制導入も気になるところですが、関連書籍を読み漁った結果、まずは潔くこの2点に絞るのが効率的だと思っています。どういう改正か、どのように契約書に影響するのかをみていきます。
まずはこの2点だけ・・・①瑕疵から契約不適合へ
今回の民法改正によって「瑕疵(かし)」という言葉が削除されました。
「瑕疵」とは、簡単にいえば「欠陥」のこと。
もし買った品物に欠陥があったら売主になんとかうめあわせしてほしいと思うはずです。誰だって欠陥のある商品などほしくないですから、売主にある程度責任があるはずなわけです。そこで民法には「売主の担保責任」というルールがありました。有名な「瑕疵担保責任(かしたんぽせきにん)」です。
新しい民法ではこれまでの「瑕疵」に対応して「契約不適合(けいやくふてきごう)」という概念が登場します。
契約不適合とはなにか?
ひとつめの重要ポイントは、契約不適合の理解です。
契約不適合の定義は
「目的物が種類、品質又は数量に関して契約の内容に適合しないもの」(改正民562条1項等)や
「移転した権利が契約の内容に適合しないもの」(改正民565条)です。
ようするに「契約で決めた通りでないものや状態」のことです。
逆にいえば売主は「物の種類・品質・数量に関して契約の内容に適合した物を引き渡すべき義務」と、「契約の内容に適合した権利を供与すべき義務」を負っているともいえます。それらに違反すれば「契約不適合」になるのです。
今回、瑕疵から契約不適合という概念に変わったことによって、「契約に適合しているか、していないか」、つまり、当事者の合意(契約)を基準に判断する意識が強くはたらくので、より一層「合意重視」となり、契約書や資料によって目的物をしっかりと表現しておくことがますます大事になります。
契約不適合だった場合の救済は?
問題は売主がどう責任をとるべきかです。もしも引き渡された商品等に「契約不適合」があった場合、いわばその救済手段として、買主は売主に対してなにを主張できるのかを確認しておく必要があります。
先に結論だけいうと、この点について改正民法には次の規定があります。
・追完請求権(改正民562条1項)・・・修補請求、代替物引渡請求、不足物引渡請求
・代金減額請求権(改正民563条)・・・催告による代金減額請求、無催告による代金減額請求
・損害賠償請求権(改正民564条・415条)
・解除権(改正民564条・542条)
追完請求ができる
これはつまり、契約不適合があった場合に買主が売主に追及して救済してもらえる権利なわけです。
買主ができることとして、まず「追完請求権」があります。
つまり、正しくやり直してもらうことであり、引き渡された物に欠陥があれば、それを直してもらうか交換してもらう、あるいは数量が不足しているなら足りない分を充足してもらう権利があるということです。
あたりまえのような気もしますが、あたりまえのことであっても民法に明文化されたことで、議論の余地が減ったり、誰もがはっきりと確認できたりするメリットがあります。
当然ながら、その契約の不適合がもしも買主のせいで起きたことであれば、追完請求権はなくなります。(つまり「不適合が買主の帰責事由によるとき」は追完請求を行うことができません。)これも民法にちゃんと書いてあります(改正民562条2項)。
代金減額請求ができる
「代金減額請求権」(改正民563条)とは、売主が引き渡した目的物が種類、品質又は数量の点で不適合の場合に、追完請求をしても追完されないときに、その不適合の程度に応じて代金の減額を請求できる権利です。
つまり「追完できないのであれば、そのかわりに安くして」と言えるわけです。あくまで「程度に応じて」ですから、むやみやたらに値引き要求できるという意味ではありません。
この代金減額請求の行使には「催告」によるものとよらないものがあります。催告による代金減額請求とは、まず催告、つまり「いつまでに追完してくださいよ」と相手に伝え、追完請求の期間内に追完してもらえないとき初めて減額請求できるという意味になります。
このように原則は追完請求してから請求できる権利なのですが、例外として、そもそも商品がどっかへ行ってしまって追完が不能になってしまっているとか、もはや相手が追完する見込みがないことが明らかな場合のために「無催告での代金減額請求権」もあります。
仮に売主が「追完しない」と明確にしている場合などは、追完を催告する合理的な理由がありませんから、催告をせずに減額請求できることになります。あるいはまた、誕生日のケーキのような、もともとそれがある一定の時期や期間に行われないと意味をなさない類のビジネスなのであれば、これも「追完を催告」しても意味がないので催告は不要になります。
これまでの民法では、数量不足の場合を除いては代金減額請求権は(明確には)認められていなかったため、種類や品質に瑕疵があった場合の対応としては減額請求ではなく、損害賠償することで調整されたりしていました。
それが今回の改正によって、数量はもちろん種類や品質の不適合にも代金減額請求が認められうることになります。
ただもちろん、契約不適合が買主の帰責事由によるときは、代金減額請求もできません。(改正民563条3項)
損害賠償請求ができる
瑕疵担保責任のときもありましたが、買主には「損害賠償請求権」(改正民564条、415条)があります。損害賠償というのは、文字通りの意味ですが、契約不適合の場合には債務不履行の一般規定の定めるところにしたがって損害賠償の請求ができる権利です。
ポイントは、これを請求するのには売主の帰責事由が必要(=売主に帰責事由がなければ損害賠償請求も認められない)という点です。売主のせいで損害が発生したのでなければ、買主は売主に損害賠償請求ができません。
いいかえると、仮に売主が自らに帰責事由がないことを主張立証できた場合には、売主は損害賠償責任は負わないことになります。
契約を解除できる
「契約解除権」(改正民564条541条)もあります。契約不適合を理由として、文字通り契約を解除する権利です。売主が引き渡した商品に「種類、品質又は数量」の点で契約不適合があれば、買主は契約を解除できることになります。
買主が主張できることをあらためてまとめます。
①追完請求ができる!(改正民562条1項)
・・・修補請求、代替物引渡請求、不足物引渡請求(ただし、買主が請求した方法と異なる方法による履行の追完が認められている)
②まず追完請求して、できなければ代金減額請求ができる!(改正民563条)
・・・原則として相当期間を定めた催告による代金減額請求(例外として無催告による代金減額請求)
③損害賠償請求ができる!(改正民564条・415条)
・・・ただし債務者に帰責事由必要
④解除できる!(改正民564条・542条)
契約書にどのように反映すべきか?
さて「瑕疵から契約不適合に」変更されたのはわかりましたが、これらを契約書ではどのように反映すればよいでしょうか?
反映させる箇所は当然ながら、従来の「瑕疵担保条項」に修正を加えるかたちとなります。瑕疵担保条項は多くが、売主の担保責任を規定するためのものです。
たとえば瑕疵担保条項といえば、
「買主は商品の引渡しを受けた後1年以内に、商品に隠れた瑕疵があることを発見したときは、売主に対して代品の納入、瑕疵の修補を請求することができる。」
のような条項が典型的です。
例文は、引渡された商品に欠陥が見つかったら、代わりの品や修補を請求できることで救済をはかるという内容ですね。また、その請求は(上記の例文では)「引き渡しから1年以内に」しなければならないこともわかります。
ちなみにこの期間制限ですが、現在の民法(改正前民法)では、瑕疵担保責任の権利行使期間が「買主が瑕疵を知った時から1年以内にしなければならない」(570条・566条)ことになっています。ここは原則として当事者間のルールブック(契約書)で任意に変えられるので、例文では「引渡しから1年」となっていたわけです。(「知った時」からとするより、期間が明確なのであえてそうしているのだなと読めるわけです。)
ついでに改正民法では、不適合が種類又は品質に関するものであるときは、やはり「買主がその不適合を知った時から1年以内に」その旨を売主に通知する義務が規定されています(知った時から1年以内に通知しないと救済を受ける権利を失権する)。
この「通知」というのもひとつのポイントです。文字通り通知さえすれば不適合の責任を買主に追及できるからです。
現民法での瑕疵担保責任の判例が、瑕疵担保責任を追及するのに、事実関係を認識した買主に対して、具体的に瑕疵の内容とそれに基づく損害賠償をする旨を表明し、請求する損害額の算定の根拠を示すことまで要求しているのに比べると、改正民法では不適合があることの「通知」のみで足りるという点は、買主側に有利にはたらくだろうといわれています。
瑕疵 ⇒ 契約不適合
瑕疵担保条項に反映させるということですが、具体的にどうするのがよいでしょうか。
つまり条項の文言調整ですが、改正民法施行後は、原則として「隠れた瑕疵」の部分が、改正民法562条の「種類、品質又は数量に関して本契約の内容に適合しないものがあること」という表現にならって、言葉の置き換えがされるでしょう。
先ほどの例文でいうとどうなるか、ビフォア・アフターを考えてみますと、
Before
「買主は商品の引渡しを受けた後1年以内に、商品に隠れた瑕疵があることを発見したときは、売主に対して代品の納入、瑕疵の修補を請求することができる。」
↓
After
「買主は商品の引渡しを受けた後1年以内に、商品に直ちに発見することができない、種類、品質又は数量に関して本契約の内容に適合しないもの(以下「契約不適合」という)があることを発見したときは、売主に対して代品の納入、契約不適合の修補を請求することができる。」
救済手段のアレンジ
このように条文を変更するのと、もうひとつのポイントとして、契約不適合責任の条項では、救済手段の内容を検討するべきでしょう。
もちろん救済手段はすでに民法に規定されています。なので仮に、救済手段が改正民法通りでよければなにも契約書で定める必要はありません。
しかし、民法ルールでは契約不適合があっても買主が請求した方法とは異なる方法による履行の追完が認められ(改正民562条1項但し書)ますし、また、代金減額請求権は原則として相当期間を定めた催告後(改正民563条1項)だというのが原則でした。
この流れは、売主にとっては変更不要かもしれませんが、自社が買主の立場だったときは、少々不便だといえます。救済手段を必要とするとすれば買主なのですから、買主としてはこだわるべき部分といえるでしょう。
たとえば、追完請求よりも代金減額請求がしたい、あるいはいずれにするかはその時点で選択したいかもしれないからです。であれば買主としては「万が一契約不適合があったときは、追完請求か、あるいは直ちに代金減額請求も選択可能」という契約条件にできれば便利でしょう。
契約書は当事者間のルールブックですので、任意にアレンジして合理的に取引をしたいものです。
アレンジの例文としては、
「買主は・・・契約不適合があることを発見したときは、売主に対して、契約不適合の修補を請求することができる。」
↓
「買主は・・・契約不適合があることを発見したときは、売主に対して、契約不適合の修補又は代金減額を請求することができる。」
などが考えられます。
まずはこの2点だけ・・・②債務不履行による解除
契約不適合と並んで、もうひとつの重要改正項目は債務不履行による解除のルールの見直しです。契約において債務不履行による解除というのはとても重要な論点なのです。
「解除」とはもちろん、契約を破棄して、やめるということです。
本来は契約をすれば当事者はそれに拘束される(契約は守らなければならない)わけで、勝手にやめることはできないはずですが、解除はその例外です。そして解除にも種類がありますが、そのうちのひとつが「債務不履行による解除」です。
債務不履行なら解除できる
前提となるのは「債務不履行」つまり相手方が約束を守らないときは、契約を解除できるというルールです。
なぜそんなルールがあるのでしょうか? 相手が約束を守ってくれなかったとき、自分だったらどうするかを考えてみます。たとえば納品が期日に間に合わないとか、そもそも商品がどこかへ行ってしまって納品自体できなくなってしまったと言われたとして、自分が買主だった場合、「さっさと解除したい」と思うのではないでしょうか?
それには相手の「責任を追及したい」という気持ちもあれば、過去の契約など忘れて、すぐに次の取引先を見つけて「一刻も早く正常な取引を再開したい」という面もあるでしょう。
さてもう少し具体的に「債務不履行があれば解除できる」というルールについてですが、これまでの民法では、3つのパターンが規定されていました。「履行遅滞」「定期行為の履行遅滞」「履行不能」です。
改正前民法の規定
- 履行遅滞による解除権(民541条) 当事者の一方がその債務を履行しない場合において、相手方が相当の期間を定めてその履行の催告をし、その期間内に履行がないときは、相手方は、契約の解除をすることができる。
- 定期行為の履行遅滞による解除権(民542条) 契約の性質又は当事者の意思表示により、特定の日時又は一定の期間内に履行をしなければ契約をした目的を達することができない場合において、当事者の一方が履行をしないでその時期を経過したときは、相手方は、前条の催告をすることなく、直ちにその契約の解除をすることができる。
- 履行不能による解除権(民543条)(=債務者の帰責性必要) 履行の全部又は一部が不能となったときは、債権者は、契約の解除をすることができる。ただし、その債務の不履行が債務者の責めに帰することができない事由によるものであるときは、この限りでない。
債務者の帰責性が必要 ⇒ 不要に
ようするに履行が遅れたり不能になったりしたら解除できるよといっているわけですが、大きな改正のポイントとして帰責性(責めに帰すべき事由)が不要になったことがあります。
これまでの民法では債務不履行に基づいて契約を解除できるためには「売主の帰責性が必要」と考えられていました。簡単にいえば「相手のミスだった」場合に解除できるのであって、逆に売主に帰責事由がなければ、解除は許されないと考えられたのです。
しかし、債務不履行が売主の落ち度かどうかは実際はわかりにくく、また、買主にとっては売主への責任追及よりも、自分がいかに早く次の取引先を探して新たな契約にとりかかれるか、つまり既存の契約からの離脱のほうが重要ともいえます。
そのようなわけで改正民法では、債務不履行による解除に債務者の帰責事由は不要となっています。つまり債務者に帰責事由がなくても解除しうるわけで、解除は「債権者を反対債務から解放するための制度」に変わったともいえます。
それから解除の手順ですが、①催告による解除と、②催告によらない解除とに整理されています。
催告による解除(改正民541条)とは、売主が約束を果たさないときは、買主が「いつまでにやってくれ」という意味の通知を出し、そのうえでその期間内に履行がないときには解除することができるという原則的なルールです。「催告解除」といいます。
ところでこの催告解除ですが、債務不履行があったときは、催告すれば必ず解除できるということになるのでしょうか?
債務不履行であれば、必ず催告解除が可能なのか?
もう少し具体的にいえば、たとえばある会社が部品を製造したとして、納入する際、数量を間違えて、100個納める予定のところ99個で納品してしまったとします。数量が不足していますから、債務不履行だといえます。では、買主は催告すれば契約を解除できるでしょうか?
民法上、催告解除を使えば解除できそうに思えます。
一方で、たった1個の数量不足のために解除が認められるのは厳しい気もします。
改正民法には、催告解除において催告期間経過のときの債務不履行が「その契約および取引上の社会通念に照らして」軽微なもののときは、解除できないという決まりがあります。つまり、どうやら例外的に解除できないケースもありそうです。
問題は「100個納めるはずが99個だった」というのが、軽微かどうかです。単純に数量を間違えただけのときは、軽微といえる気がします。調達が容易で、すぐに残りの1個も届けられるようなものであれば解除できない可能性が高いです。
ただし、改正民法はあくまでも「その契約および取引上の社会通念に照らして」軽微なもののとき(解除できない)と言っているのであり、誤差が何個までは軽微だとか軽微でないなどと判定しているわけではありません。わずか1個の数量の差でも、仮にそれが99個ではまったく用をなさず、100個そろってはじめて完成するような性質のものなら、軽微な不履行とはいえない(解除できる)はずです。
民法の条文にも「その契約・・・に照らして」とあるくらいですから、つまり契約書を読めば不履行の程度、不履行の判断基準が明らかになるような書き方をすべきです。改正民法における契約の重要性がここにもあらわれています。
無催告で解除できる場合も
債務不履行にたいしては催告して解除するのが原則です。催告によらない解除(改正民542条)が使えるのは、履行不能などの場合です。履行不能なら、催告したところで意味がないからです。
たとえば債務の全部が履行不能になったとか、売主が明確に履行拒絶をしたとか、それらによってもはや契約目的の達成ができないときが無催告での解除に該当します。あるいは、「成人式当日の晴れ着のレンタルサービス」のような、特定の日時や一定の期間内に履行をしなければ契約の目的が達成できないケースで不履行があると、その時期を過ぎてしまったときはもはや履行できないわけですから、こういう場合も無催告解除に該当します。
解除条項はどう変わる?
債務不履行があったときは帰責性を問わずに契約を解除できる原則がわかりましたが、問題は、改正が契約書にどのように反映されるべきかです。具体的に、解除条項はどう変わるのでしょうか?
そもそも解除条項は、ほとんどのビジネス契約書に使われている典型的条項です。そして解除条項の主な役割は、催告解除の手順を明確化(あるいは催告を省略して簡略化)したり、解除できる理由(解除事由)を具体的に箇条書きしておくことで、必要なときに解除しやすく(あるいは解除事由をあらかじめ明確に)することです。解除のしやすさまたは予測可能性を高める条項といえます。
一般的な解除条項の例
無催告型の解除条項
買主又は売主は、相手方に次の各号のいずれかに該当する事由が生じた場合には、何らの催告なしに直ちに本契約の全部又は一部を解除することができる。
催告解除型の解除条項
買主又は売主は、相手方が本契約のいずれかの条項に違反し、相当期間を定めてなした催告後も、相手方の債務不履行が是正されない場合は、本契約の全部又は一部を解除することができる。
どういう解除条項が良いかですが、ようするに解除できるのか(できないのか)が明確になるほうが望ましく、解釈が分かれにい条文が望まれます。
そのためには、3つのアプローチが考えられます。①ひとつは目的条項で契約の趣旨を具体的にすることで、不履行の判断に役立てること、②ふたつめは、これまでの契約書でもそうでしたが、解除事由を具体的に列記することで解除事由の該当性をわかりやすくすること。そして③みっつめに、軽微な場合に催告解除が制限されるという改正民法の規定もカバーしておくことが考えられます。
前文や目的条項を具体化する
契約書の前文や目的条項を詳しく書くことは、これまでのビジネス契約ではあまり重視されてこなかったように思います。たいていは、ごく定形的な文言で済まされています。そもそも前文や目的条項は、各当事者の役割やその契約に至った経緯などを表現することにより、よりその契約の趣旨が明確になるように記載するものです。
契約の目的が明らかであれば、その契約にとってなにが「軽微」な不履行に該当するのか判断するのに役立つでしょうし、契約目的に沿った誠実な履行がなされたかどうかを評価する根拠にもなります。
解除事由をわかりやすく列記する
解除事由を列記する方法は、一般的な契約書の解除条項で用いられてきました。例えば以下のような例があります。
買主は、売主が次の各号の一に該当するときは、本契約の全部又は一部を解除することができる。
(1) 売主が天災その他不可抗力の原因によらないで、履行期限までに物件の給付を完了しないか、又は履行期限までに物件の給付を完了する見込みがないと買主が認めたとき。
(2) 売主が正当な事由により解約を申し出たとき。
(3) 本契約の履行に関し、売主又はその使用人等に不正の行為があったとき。
(4) 前各号に定めるもののほか、売主が本契約条項に違反したとき。
どんなときに契約を解除できるのかをあらかじめ具体的に明らかにする(予測可能性を高める)意味があります。また、多くのビジネス契約書では、支払いの停止といった、相手方の信用不安を理由に無催告で解除できるとする解除事由を列挙する形がとられます。
甲又は乙は、相手方に次の各号のいずれかに該当する事由が生じた場合には、何らの催告なしに直ちに本契約及び個別契約の全部又は一部を解除することができる。
① 重大な過失又は背信行為があった場合
② 支払いの停止があった場合、又は仮差押、差押、競売、破産手続開始、民事再生手続開始、会社更生手続開始、特別清算開始の申立があった場合
③ 手形交換所の取引停止処分を受けた場合
④ 公租公課の滞納処分を受けた場合
⑤ その他前各号に準ずるような本契約又は個別契約を継続し難い重大な事由が発生した場合
2. 甲又は乙は、相手方が本契約又は個別契約のいずれかの条項に違反し、相当期間を定めてなした催告後も、相手方の債務不履行が是正されない場合は、本契約及び個別契約の全部又は一部を解除することができる。
上記に加え、会社分割を解除事由に含めるかどうか
また、上記の例文にはありませんが「解散、会社分割、事業譲渡又は合併の決議をした場合 」のように、組織の重要な変化や支配権の移動を解除事由に加えることがあります。会社分割等によって実質的な支配権が変わってしまったときに、それを理由に契約を離脱できるようにしたり、契約を維持することを交渉材料にしたりするシチュエーションがあるからです。
複数の書式を見比べていると、会社分割を解除事由に挙げているものと挙げられていないものとが混在していますので、覚えておいて検討するべき項目です。
解散、会社分割、事業譲渡又は合併の決議をした場合
不履行が「軽微」な場合を想定した条文をおく
繰り返しになりますが、売主が履行をしない場合は相当期間を定めて催告すれば、契約を解除できるというのが民法のルールでしたが、改正民法では新たな催告解除の要件として、「債務不履行が契約及び取引上の社会通念に照らして軽微であるとき」は、契約を解除することができないという要件が入りました(改正民法541条ただし書)。これは判例上、軽微な契約義務違反や契約目的の達成に必須でない付随的義務違反の場合には契約の解除を認められないという考え方を明文化したものです。
だとすると、契約書で(たとえば以下のように)催告解除の条文を定めていたとしても、
甲又は乙は、相手方が本契約又は個別契約のいずれかの条項に違反し、相当期間を定めてなした催告後も、相手方の債務不履行が是正されない場合は、本契約及び個別契約の全部又は一部を解除することができる。
売主から、債務不履行が「契約及び取引上の社会通念に照らして」軽微であるので解除できないと主張される可能性が残ります。そこで、軽微性の有無を問わずに解除が可能という条文も検討されるようになると考えられます。
たとえば、
甲又は乙は、相手方が本契約又は個別契約のいずれかの条項に違反し、相当期間を定めてなした催告後も、相手方の債務不履行が是正されない場合は、本契約及び個別契約の全部又は一部を民法541条ただし書の規定によらず解除することができる。
のように追記します。
まとめ
- 民法が大きく改正された
- 原則2020年4月から適用される
- 契約書にも、一般的に言って瑕疵担保条項や解除条項の判断に影響する
- 契約不適合責任が重要
- 催告解除が重要
以上、民法改正と、それによる契約書への影響の一般的な部分をまとめました。瑕疵担保条項や解除条項というごく一般的な条項にも、いくつかの論点があり非常に興味深いですね。また判例の積み重ねなどによっても契約書の規定が変わっていきますので、今後もどのように契約書が影響を受けていくのか楽しみなところです。
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