契約書業務マニュアル

平成15年から契約書だけをつくり続けてきた契約書専門の行政書士

委任契約と請負契約の違い どちらがいいのか?

 

 行政書士の竹永大です。

委任と請負という契約の種類の違いを説明します。もともと有名なテーマですが、民法改正もあってひときわ重要な論点になった点です。

 

 

委任契約と請負契約の違い

 

 

どちらも、「AさんがBさんになにかしてあげる」という契約です。ビジネスでは委任も請負も業務委託契約と呼ばれています。

 

ちなみに業務委託という呼び名は通称です。法的には委任や請負。たとえば事務処理を代行するとか、なにかアドバイスを提供するとかいった行為は法的には委任契約に該当します。もともとはお医者さんと患者さんとの間の信頼関係をベースにした約束が委任契約の典型でした。

 

委任契約とは

 

「委任」とは、当事者の一方が法律行為をすることを相手方に委託し、相手方がこれを承諾することによって成立し、効力を生ずる契約です。

 

「法律行為」でない事務の委託をすることを「準委任(じゅんいにん)」といいます。準委任にも委任の規定が準用されるため、特に分けて考える必要はありません。

 

あなたのためになることを「代わりにやってくれる」ような約束が準委任です。たとえば「保育園に子供を預ける」も「幼児の監護を委託する準委任契約」と考えられます。

 

委任された側のことを受任者といいますが、受任者には基本的に「委任の本旨に従い、善良な管理者の注意をもって、委任事務を処理する義務」があるとされます。ようするに任された以上はそれなりの責任がともなうという意味です。

 

見方を変えると、委任にはどんなに仕事の内容を細かく定めても、ある程度「受任者の裁量」があるという特徴があります。つまり本来的には受任者を信頼して「おまかせ」する契約であって、民法の条文にも「委任の本旨に従い」とか「善良な管理者の注意をもって」といった規定がそれを表しています。

 

請負契約とは

 

「請負」は、当事者の一方がある仕事を完成することを約束し、相手方がその仕事の結果に対して報酬を支払うことを約束することによって成立する契約です。この「完成義務」があるというのが大きな違いです。(委任には「ある仕事を完成させる」という概念はありません。)

 

完成とはなにかが問題ですが、大きく分けると仕事の目的物の引き渡しをするタイプの請負と、引き渡しを要しないタイプの請負があります。意外と請負契約は幅広い概念です。

 

引き渡しをするタイプの請負は、請負人が何かを製造する(建築物をつくる、部品を作る、洋服を作るなど)か、あるいは製造しないまでもなにかしらの行為をほどこして完成させるもの(こわれたものを直す、きれいにする、物品を運送するなど)です。

 

引き渡しをしないのに請負に該当することもあります。物以外の成果を出すもの(ソフトウエアのデータをつくる、セミナー講師をひきうける、演奏するなど)です。

 

 

いずれであるかを明記する

 

無形の成果を出す約束は、仕事の完成を約束しているのか(請負的)、事務の委任をしているのか(委任的)まぎらわしいです。法的性質の決定が難しいところですが、少なくとも「物」以外の成果を目的とした請負や、引渡しを要しない請負もあることを知っておいた方が良いでしょう。

 

逆にいえば請負は「物をつくる契約だ」とか「必ず引渡しのある契約だ」などと単純に考えてしまうと、すこし法律の定義とずれてくると思います。

 

そこで、契約が「請負なのか委任なのか」当事者間でも誤解の生まれそうなときは、あらかじめ契約書上でどちらに該当するのか明確にわかる記載をいれるべきでしょう。

 

(請負契約の例:総則)

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第1条 発注者及び受注者は、契約書及びこの約款(以下「契約書」という。)に基
づき、設計図書(別添の図面及び仕様書(この契約の締結時において効力を有する
工事標準仕様書が別に存在する場合は、これを含む。)をいう。以下同じ。)に従
い、日本国の法令を遵守し、この契約(この契約書及び設計図書を内容とする工事
の請負契約をいう。以下同じ。)を履行しなければならない。
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気になる報酬の支払時期

 

業務委託契約の条項では特に「報酬がいつ支払われるか」に注目すべきです。

 

理由は、とかくビジネスでは報酬に関するトラブルが多いことと、特に委任契約は成果物の納品が目に見えにくく、感覚的にも「いつ代金を支払うべきか」がわかりにくいからです。

 

もしあなたが売主であれば、契約をしたのに代金がもらえないという事態はなんとしても避けたいところです。委任は特に「いつ仕事が終わったのか」が不明確になりがちです。そして報酬というのは一般的に、売主は早く支払ってもらいたいもの、買主は遅く支払いたいものだと思われます。

 

では民法には、この点どう書かれているでしょうか。

  

いずれも原則は後払い

 

民法のルールでは、報酬のある委任の支払いは原則として「後払い」です。具体的には、委任契約でいうと「委任事務を履行した」、あるいは「期間によって定めた報酬は期間の経過に請求することができる」という規定になっています(改正前民法648条2項)。

 

もしも委任契約で報酬の前払いを契約しているなら、それは支払時期について特約がある状態といえるでしょう。もちろん、合意があれば契約書で前払いの規定をしても全く問題ありません。

 

請負の場合も、注文者が請負人の仕事の結果に対して報酬を支払う義務を負います(報酬支払義務)が、民法上、後払いです。具体的には、目的物の引渡しを要するときは、物の製造または物についてのその他の行為をした引渡しと同時に支払わなければならないとされています。引渡しを要しないときは、仕事が完成した後に支払います。

 

 引渡しと同時

 

ちなみに改正民法では、委任契約において委任事務処理そのものではなく委任事務の成果に対して報酬が支払われる場合について、新たな規定を設けています。事務処理履行の委任と、成果完成の委任というように、委任の概念を分け、そして成果完成型の委任では、成果の引き渡しを要しない場合は「成果の完成後に報酬の支払いを請求する」ことができ、成果の引き渡しを要する場合は「成果の引渡しと同時に報酬の支払いを請求する」ことができるとしています。

 

ようするに後払いであることに変わりありませんが、引渡しのある場合は引き渡しが基準になります。これはいわゆる成功報酬といえばわかりやすいです。典型例としては弁護士さんが訴訟の成功報酬を得る合意が挙げられます。あくまで委任事務の履行であり仕事の完成義務はありませんが、報酬の支払い時期については請負ととてもよく似ています。

 

中断した場合でも報酬は支払われるのか?

 

もし、これらの委任が途中で履行不能となったり、委任が終了したりした場合の報酬がどうなるでしょうか。たとえば、フリーランスの方が引き受けたお仕事を、途中でできなくなってしまったとしたら、報酬は全部もらえなくなるでしょうか?

 

従来の民法では、「受任者に帰責事由なく委任が履行の途中で終了した場合、受任者は、既にした履行の割合に応じて報酬を請求できる」こととなっています。つまり全額ではないけれども相応の報酬はもらえるわけです。

 

改正民法でも、「委任者の責めに帰することができない事由によって委任事務を履行することができなくなった場合、受任者は、既にした履行の割合に応じて、報酬を請求できる」としています。

 

また、成果完成型(成果報酬型)の委任においては、「委任者の責めに帰することができない事由により成果を得られなくなった場合、受任者が既にした委任事務の処理による結果のうち可分な給付によって委任者が利益を受けるときは、その部分を得らえた成果とみなし、受任者は、委任者が受ける利益の割合に応じて、報酬を請求できる」、とされています。

 

これらはようするに途中で委任契約が履行できなくなっても、原則的として履行の割合や、成果のもたらした利益の割合に応じて報酬は請求できることをあらわしています。

 

改正前の民法との違いに気づいたでしょうか?

 

受任者の帰責事由です。改正前は受任者に帰責事由がある場合には割合的な報酬請求権が認められていなかったのですが、改正民法では、受任者に帰責事由があってもなくても、割合的な報酬請求権はあることになります。

 

(委任者の責めに帰すべき事由によって委任事務の履行が不能になった場合はどうなのかというと、この場合は当然ながら報酬を全額請求できることになります。)

 

いつでも解除できる? 委任契約

 

請負との違いでもありますが、委任契約の特長のひとつに、任意解除権があります。

 

簡単にいえば委任契約というのは当事者のどちらも、いつでも解除できるという前提があるのです(民651条)。

 

契約は守られるべきものなのに、委任契約だけこのように当事者のどちらからでも一方的に解約できるというのは、驚きのルールです。例外はあるものの、委任がもともとは当事者間の信頼を基礎にした契約であるため、逆に言えば相手を信頼できなくなったら解除してよいはずだからと説明されています。

 

だからといってみだりに解除されては困ります(現実にはお客さんが途中から急にキャンセルを言い渡してしてきたら受任者は相当不利です)ので、任意解除権をコントロールするような規定や判例が存在します(相手方に不利な時期に解除したときは損害賠償が必要、受任者の利益をも目的とする委任について、原則的には解除できない、など)。

 

改正民法ではどうかというと、やはりいずれの当事者もいつでも委任契約を解除できるという前提は変わらず、相手方に不利な時期に解除したとき、または受任者の利益(専ら報酬を得ることによるものを除く)をも目的とする委任を委任者が解除したときは、やむを得ない事由があるときを除き、相手方に生じた損害を賠償しなければならないとなっています(改正民651条2項)

 

ようするに「解除はできる」という前提はそのままで、場合によっては損害賠償をすることで調整をはかっているのです。(ただし損害賠償が必要になりうるのは、相手方に不利な時期の解除と、受任者の利益をも目的とする委任を、委任者から解除するときです。)

 

請負と委任はどちらがいいのか?

 

請負と委任の違いを、極端にシンプルにいえば、

 

 

・請負契約

= 完成義務あり

 

 

・(準)委任契約

= 完成は目的でない

 

 

では請負と委任ではどちらがいいのでしょうか。サービス提供の種類によっては自社がクライアントと請負で契約すべきか、準委任で契約すべきかという選択がせまられることになります。「完成義務」が自社にとって有利かどうかを考えるからです。

 

仮に請負で受注した場合、もし期限内に仕事を完成させられなかったら・・・というリスクを負いますが、逆にうまく完成さえさせられれば、プロセスはどうあれ報酬を請求できるため、経営努力のしがいもあります。投入コストを下げる努力がダイレクトに利益率に反映し、つまり儲かるチャンスでもある。

 

そのかわり、完成義務があるということは、契約内容としても完成する仕事が具体的になっていなければなりません。完成義務があることの意味は「完成しなければ報酬がもらえない」のとおなじだからです。

 

委任の場合はどうでしょうか。言い方は悪いですが、極端にいえば完成しなくても作業さえ一定水準でなされていれば報酬がもらえます。法律上は完成義務がないので、極端にいえば仕事が完成しなかったからといってもそれだけで債務不履行とまではいえないし、予定よりも作業日程が延びてしまったとしても、理論的にはその分のコストはクライアント側にチャージされます。

 

完成する仕事が最初はあまり具体的でなく、仕事をすすめるなかで徐々にはっきりしていくタイプのビジネス(受注生産のもの、システム開発、デザインなど)ならば、受注者は委任で契約して、さまざまな条件の事後的な変更リスクに備えたいところです。

 

とはいえ実際には契約書で諸条件をきちんと決めておくことによって、極端な有利不利の差がつかなくなるので、請負かどうかよりも契約書のなかで自社が納得のいく条件を決めておくことがベストといえます。ベースとなっている請負の結果主義的な価値観や、委任のプロセス主義的な特徴を念頭におくことで、契約書の検討もスムーズになるでしょう。

 

 

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