契約書業務マニュアル

平成15年から契約書だけをつくり続けてきた契約書専門の行政書士

改正民法に対応 マンション賃貸借契約に最適な 連帯保証契約書(承諾書)のつくりかたとひな形

契約書専門の行政書士の竹永です。

起業家、経営者、フリーランスの方が、 契約書で困らないようにアドバイスをしています。 

 

新しい民法に対応した連帯保証の契約書類

 

マンションの賃貸借契約において、適切な連帯保証人をつけることは非常に重要です。そして改正民法により、この「保証のルール」も変わります。不動産管理会社や、マンションオーナーなど、賃貸借契約を取り扱う方は、新しい民法のスタート前に契約書類をチェックしておく必要があります。

 

 

 保証契約を書面にする理由は?

 

賃貸借契約は、物件のオーナーさんと、それを借りる賃借人との間の契約です。そこへなぜ「連帯保証人との契約書」も必要なのでしょうか? 口約束でも有効な契約なのだから、書面がなくてもきちんと合意だけできていればいいような気もします。 

 

保証契約を書面(又は電磁的記録)にしなければならない理由は、法律で「書面でしなければ効力がない(民法446条2項)」と決められているからです。

 

民法 第446条
1 保証人は、主たる債務者がその債務を履行しないときに、その履行をする責任を負う。
2 保証契約は、書面でしなければ、その効力を生じない。
3 保証契約がその内容を記録した電磁的記録(電子的方式、磁気的方式その他人の知覚によっては認識することができない方式で作られる記録であって、電子計算機による情報処理の用に供されるものをいう。)によってされたときは、その保証契約は、書面によってされたものとみなして、前項の規定を適用する。 

 

賃貸借契約書をみてみると、連帯保証の条項がたいてい入っているはずです。通常は、賃貸借契約書に連帯保証人の名前を書く欄もありますよね。賃貸借契約書を締結するのと同時に、連帯保証人との保証契約も締結できることになって便利だからです。

 

ただ、賃貸借契約書の条文に書いてあるといっても、安心はできません。手続きが簡単すぎると、後日になって連帯保証人のほうから「そんな契約をしたおぼえはない」などと主張されることだって、あるかもしれないからです。

 

不動産管理会社や、オーナーさん側としては、もっと確実に連帯保証人の「保証契約締結の意思」を確認し、証拠を残しておきたいところです。

 

そこで、賃貸借契約書の付属書類として、連帯保証人から別途「連帯保証引受の承諾書」を取り付ける対応があります。そしてこうした書面には連帯保証人の「実印」を押印してもらうことと、添付書類として「印鑑証明書」も提出していただくことが、重要な対応となります。

 

連帯保証人はなんでもかんでも保証する重い責任!

 

そもそも保証人をつけることの意味は、賃借人が家賃を払ってくれなかったら困るので、「代わりに支払ってくれる人」を決めておくということです。賃貸の保証人は法律的には「連帯保証人」であり、本来の借主の「代わりに支払う」ということからもわかるとおり、非常に重い責任を負います。ほとんど賃借人本人と同じように債務を保証する立場なのです。

 

(保証債務の範囲)

民法 第447条
保証債務は、主たる債務に関する利息、違約金、損害賠償その他その債務に従たるすべてのものを包含する。

 

軽い気持ちで保証人になってしまい、後で困る人が出てくるというのはなんだかバランスが悪いです。保証人からしてみると、なんでも代わりに払わされてしまうのは、トータルでいったいどれくらいの金額の責任があるのかわからないということでもあります。よって、法人ならまだしも、個人の保証人にそこまでリスクを負わせていいのだろうか? という問題がありました。

 

民法改正により、個人根保証には「極度額」を定めることになった

 

そこで改正民法では、こうした場合の「個人」の保証人に限っては、あらかじめ保証の限度額を決めてから保証契約せよというルールに変わりました。

 

民法 第465条の2
一定の範囲に属する不特定の債務を主たる債務とする保証契約(以下「根保証契約」という。)であってその債務の範囲に金銭の貸渡し又は手形の割引を受けることによって負担する債務(以下「貸金等債務」という。)が含まれるもの(保証人が法人であるものを除く。以下「貸金等根保証契約」という。)の保証人は、主たる債務の元本、主たる債務に関する利息、違約金、損害賠償その他その債務に従たるすべてのもの及びその保証債務について約定された違約金又は損害賠償の額について、その全部に係る極度額を限度として、その履行をする責任を負う。

  

これにより、賃貸借契約の保証人(連帯保証人)が「個人」の場合は、あらかじめ極度額を書面で定める必要があるということになります。ということは、改正民法のもとでは保証人は極度額の範囲で責任を負うことになります。これなら「最大でも〇〇円までの責任を負えばいい」等と事前にわかったうえで、保証人になることができるはずです。保証人の判断の材料になるため、保証人の保護につながる重要なルールといえます。

  

極度額というのは、ようするに金額的な限度のことですから、「何万円まで」と具体的金額で定めてもいいし、「賃料の〇ヶ月分」というようなわかりやすい計算の形で決め方でもかまいません。

 

ただし「賃料」を基準に定める場合は、もし将来賃料改定(賃料の値上げなど)があったら計算がまぎらわしく(不明確に)なるし、「極度額を明確に定めていないから無効」なんて判断されてしまうリスクもあるので、たとえば「〇〇年〇〇月〇〇日の契約締結当初の賃料の〇ヵ月分」のように表現を工夫するほうがよいでしょう。

 

極度額が決められてないと保証は無効になる?

 

ではもし、極度額を定めずに個人を保証人にしたらどうなるでしょうか? 民法の規定によると、この場合(保証契約書に肝心の極度額が書いていなかった場合)、保証契約自体が無効になると考えられます。もしそうなったら、せっかくたてた保証人がいなくなってしまうのと同じです。いかに重要なポイントかがわかります。

 

よって改正民法施行後は、個人が連帯保証人になる場合の契約書の連帯保証条項には、必ず極度額を記載することになるでしょう。たとえば賃貸借契約の連帯保証人の条項などは典型例です。

  

民法改正により、保証人に対する「情報提供義務」も新設された

 

もうひとつ改正にまつわる注意点として、保証人に対する情報提供義務が新設されたことが挙げられます。これも大変重要なルールです。

 

条文は、以下です。

 

 

(契約締結時の情報の提供義務)
第465条の10
1 主たる債務者は事業のために負担する債務を主たる債務とする保証又は主たる債務の範囲に事業のために負担する債務が含まれる根保証の委託をするときは、委託を受ける者に対し、次に掲げる事項に関する情報を提供しなければならない。
一 財産及び収支の状況
二 主たる債務以外に負担している債務の有無並びにその額及び履行状況
三 主たる債務の担保として他に提供し、又は提供しようとするものがあるときは、その旨及びその内容
2 主たる債務者が前項各号に掲げる事項に関して情報を提供せず、又は事実と異なる情報を提供したために委託を受けた者がその事項について誤認をし、それによって保証契約の申込み又はその承諾の意思表示をした場合において、主たる債務者がその事項に関して情報を提供せず又は事実と異なる情報を提供したことを債権者が知り又は知ることができたときは、保証人は、保証契約を取り消すことができる。
3 前二項の規定は、保証をする者が法人である場合には、適用しない。

 

 

これはどういう意味でしょうか? これも保証人をつける際の、事前に気を付けるべき条文です。

 

つまり改正民法は、事業のために負担する債務について個人が保証する場合には、主たる債務者(賃借人)が保証人に対して、自ら財産状況などについての情報を提供しなければならない、といっているのです。もしも財産状況が悪ければ、最初から保証人にならない判断もできるはずだし、まったく財産状況を知らされなかったり、うその情報を知らされてしまえば、保証人はあまりにも不利だからです。

 

事業目的 + 個人の保証人 の場合に適用される

 

条文には「事業のため」とありますから、この場合で言えばビジネス的な目的の賃貸借契約における保証人があてはまります。たとえば店舗の賃貸借契約とか、オフィス向けの賃貸借契約で保証人をつける場合ですね。

 

そしてこれは、法人ではなく個人の保証人がつけられる場合のルールです。つまり、賃借人の知人などが個人として保証人になってくれるような場合に問題になることです。(逆にいえば、住居使用を目的とする賃貸借契約の場合や、事業用の賃貸借であっても法人が保証人となる場合は適用の対象外です。)

 

 

情報提供義務の不動産オーナー側への影響は? 

 

そもそも、そういうこと(情報提供)は賃借人と保証人との間でやってくれればいいと思わなくもありません。保証人になってもらうときに、賃借人が自らよく説明すればいいことだからです。たしかに法律上も、「保証人に対する情報提供の義務」があるのは「主たる債務者」、つまり賃借人のほうです。

 

しかし、保証を取り消されて困るのは、むしろオーナーさん側です。なので不動産管理会社やオーナーさん側としても無関心ではいられません。もしも賃借人がこの情報提供義務を怠った場合、賃貸人がこれを知っていたり、知らないことについて過失があるときは、保証契約を取り消されてしまう可能性があるからです。

 

そこで契約締結の段階で、あらかじめ「保証人がちゃんと情報提供を受けたこと」を確認できるような書面が望まれることになります。

 

あたらしい連帯保証の契約書(承諾書)書式案

 

そんなわけで、以上の改正ポイントを反映して、あたらしく連帯保証の契約を保証人と確認するための書式を起案しました。

 

設定としては、賃貸借契約書を締結する場面で保証人からサインしてもらうための、賃貸借契約書付属の「連帯保証の引受承諾書」です。

 

ここでは、賃借人を甲とし、賃貸人を乙としています。

 

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          連帯保証契約書(案)

  (又は、「連帯保証の引受承諾書」など。)

 

私 (連帯保証人)は 下記の賃借人(以下「甲」といいます。)と賃貸人◯◯◯◯(以下「乙」といいます。)との間に別途締結された下記の賃貸借契約(以下「本件賃貸借契約」といいます)により、乙に対して甲が負担する債務について、次の通り連帯保証人としての責を負うことを確約いたします。


第1条(連帯債務引受の確認)

1 私は、甲の債務は、本件賃貸借契約から生じた賃料支払債務の他、当該債務に関する遅延損害金、本件賃貸借契約が解除された場合の損害賠償義務等一切の債務であることを確認します。

2 私は、本件賃貸借契約が更新された場合及び賃料、共益費、諸料金、その他本件賃貸借契約の定めが改定された場合にも、本契約が存続する限りは継続して、甲の債務を連帯して履行する責を負うことに同意します。

 

第2条(極度額)

私は、本件賃貸借契約により甲が乙に対して負担する一切の債務について、極度額●●●万円の範囲内で連帯して履行の責を負います。

 

                記

【賃借人 (甲)】

 

【賃貸人(乙)】


【物件の概要】
 「所在地」
 「建物名称」

 「部屋番号 」

 【賃貸条件】

 「契約内容」

 「賃料・共益費」

 「契約期間」


平成   年   月   日

住所

連帯保証人氏名

生年月日

続柄

                    実印  

(3ヶ月以内に取得した印鑑証明書を添付のこと)

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補足:事業用の賃貸で、個人が保証人になる場合

 

上記内容に加えて、店舗やオフィスなどの事業に用いる物件の賃貸借契約に、個人の保証人をつける場合には、前述のとおり主たる債務者(つまりこの場合の賃借人)は、保証人にたいする情報提供義務が課されることになります。そこでこの義務を適切に果たしていること(情報が提供されていること)を確認するため、以下のような条文を追加することが考えられます。

 

 

事業用賃貸借の場合に個人保証人をつける場合の確認条項

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第3条(情報提供の確認)

私は、甲より、民法第465条の10所定の、以下の情報を確かに提供されており、これらをよく読み理解したことを確認します。

①甲の財産及び収支の状況

②甲が主たる債務以外に負担している債務の有無並びにその額及び履行状況

③主たる債務の担保として他に提供し、または提供しようとするものがあるときは、その旨及びその内容

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まとめ

 

  • 保証人の契約書には極度額(要するに上限金額)を設定する必要あり
  • 事業目的の場合、賃借人には個人の保証人に対して情報提供義務がある
  • 適切な書式をつかわないと、保証契約が無効になったり、保証が取り消される可能性もあるから気を付けましょう!

 

 

 

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行政書士 竹永 大 

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