契約書業務マニュアル

平成15年から契約書だけをつくり続けてきた契約書専門の行政書士

相手に「契約書を修正してほしい」 といわれたときのストレス対処法

契約書専門の行政書士の竹永です。

 

起業家、経営者、フリーランスの方が、 契約書で困らないようにアドバイスをしています。

 

取引相手から、「契約書を修正してほしい」といわれたら?

 

あなたなら、相手から言われた通りに修正しますか?  
いざ契約書の修正依頼をされると、案外当惑するものです。

 

相手にいわれた通りそのまま直すのがいいのか(不利にならないか?)、それともあくまでこちらの契約内容を押し通すべきなのか迷いますし、

 

あまり一方的に言われたりするとなんだか言いがかりをつけられたように感じて腹が立つこともあります。契約書の修正のやりとりは結構強いストレスを感じるものです。

 

相手は大企業だから大丈夫?

 

特にフリーランスやひとりで起業されている方などには、大手企業との契約だからいわれるままに修正してもいいんだろうとか、そのままサインしてOKだろう、と考えていらっしゃることが意外と多いようです。下請企業などだと選択の余地がないと考えていることもあります。でも大企業から提示された契約書だから正しいとか、平等だということはありません。逆のこともあります。

 

たしかに、大企業の使用する書式は、法的観点からだけ考えれば「間違った」契約書である可能性はとても低いのですが、だからといって平等とはかぎりません。本当に自社にとって不都合がないのかは、よく確認すべきです。

 

企業の法務部からの指摘は、ときに厳しく、客観的で「ドライ」な印象を受けるものです。こちらの要望が伝わっていないように感じることもあるし、些細なリスクにも容赦なく指摘をしてくることもよくあります。

 

こうしたストレスへの対処法として私が思うことは、

 

①修正依頼は「必ずあるもの」と考えて心の準備をする

②契約書に関する正しい知識をもつ

③自社の都合を具体的に、明確にしておく

 

の3点があります。

 

①は、気持ちの問題です。「そういうものだ」と思えば少しは気が楽です。

 

実際ビジネス契約は締結までに、何度も修正をし合うのが普通です。相手が修正してきたり、なにか要望を言ってくるという前提で心の準備をしておかないと、心理的ダメージが大きいですので、「何度も直されたりするが、ビジネス契約とはそういうものだ」くらいの気持ちで、焦らず、どんと構えておきましょう。

 

②ですが、相手の主張をうのみにしないためにも、やはり自分でも契約書の正しい知識を身に着けることが必要ということ。よく、「法律ではこうなっている」とか「判例」がどうとかいう、いかにももっともらしい主張をする人がいますが、みだりに法律を持ち出す人に限って法律をよく知らないことが多い印象があります。(法律はそんなに大雑把なものではありません。)

最近は契約書の基本的な解説書が数多く出版されているので、自社のビジネスモデルに関連しそうなものを一冊読んでみるだけでも、契約書の予備知識は飛躍的に高まります。

 

それと③は、最大のポイントです。契約書を読むときに最も重要なのは、実は法律上のこまかいルールではなく、自社にとってなにが都合がいいのか、どこまでが譲れない部分なのかを正確に把握しているかどうかです。

 

契約書の良し悪しは、絶対的に決まっているわけではなく、ひとことでいえばすべてはケースバイケースなものです。よって誤解をおそれずにいえば、かなり不利に見える契約条件があったとしても、自社にとってそれが「リスクではない」と分かっているならば、あえてスルーしたってかまわないわけです。結果的に自社が納得のいく取引条件で締結できればよいからです。

 

とにかくいったん話をまとめますと、相手から修正を申し出られたとしても、そのとおりに直さなければいけないという決まりはありません。契約条件は原則的には自由なもの。特にビジネス取引の契約であればお互いの交渉次第で、幅広いバリエーションが可能なものです。自社の都合というものをとにかく明確にして、そのうえで交渉、修正に挑みましょう。

  

多少は妥協や譲歩も大切

 

どんなに修正をくりかえしても、あるいは修正を拒んでも、絶対的に有利な契約書とか、完璧にリスクのない契約書、なにひとつ漏れがない契約にすることは難しいでしょう。

 

皆、どこかは譲っていますし、むしろどこまで譲れるのかを適切に判断できることも契約実務のうちです。こちらの条件をすべて飲ませることにこだわると失敗します。自社が譲ってもいいところがあれば、むしろ譲ることで着実にメリットを取りに行ったほうがよいことも多いはずです。

  

実際にはどんな修正依頼が多いのか?

 

修正の多い内容(いいかえれば、それだけこだわるべき内容ということでもあります。)としては、たとえば「サービスの範囲」を定める規定群があります。

 

なにをどうするための契約なのか、前文や目的、定義条項や別紙などに表されます。ここは言ってみれば、「メニュー」や「仕様」をあらわす部分です。ここが客観的にみて十分に具体的でわかりやすいことが大切です。

 

カフェやレストランでも、メニューを見てよくわからなかったときなどは、どんな料理か、量はどれくらいなのか、などを聞いてみたくなると思います。

 

契約においても、相手方から「いくらで何が提供してもらえるのか」はとても重要な契約事項です。そこが曖昧にならないよう、できるだけ具体的に記載する、記載によって特定されるということが、契約書では大変重視されています。

 

お客さんからみれば「自分が満足できる商品・サービスの提供が受けられるのかどうか」は非常に重要だし、逆に売主側の立場からみても、この値段で「どこまでのパフォーマンスを約束できるか」あるいは「約束しないべきか」をはっきりさせておくことは肝心だからです。

 

もし、ここが曖昧だと、お互いに「期待のすれ違い」がおこります。

 

(期待通りに)

やってくれるだろう

認められるだろう

払ってくれるだろう

連絡がもらえるだろう

普通はこう考えるだろう

 

こうした考えがすべて、お互いのすれ違いのもとになるのです。

 

たとえば井戸を掘ってもらう契約があったとしましょう。

 

頼んでみたらたしかに井戸は掘ってくれたが、水は出なかったという場合、頼んだ人は代金を払うべきなのでしょうか? それとも払わなくてよいのでしょうか? 水は出たが十分な量ではなかったという場合はどうでしょう? ここまで極端ではないにせよ、似たような事例は実際にいくらでもあるのです。

 

もちろん、取引の内容がもっとシンプルなら、それほど問題になりません。

 

たとえばスーパーで野菜を買うときのように、単純に手に取って選んだ品物を購入するような取引は、「期待がすれ違うリスク」も小さいといえます。だからいちいち契約書を交わさなくても済むわけです。

 

しかし実際のビジネス取引は、もっと複雑です。業務委託契約などでは、もともと存在するものではなく、注文してから具体的な仕様や内容が決まっていく場合が多くあります。

 

なぜトラブルになりやすいのか?

 

顕著な例は、システム開発の契約でしょう。システム化の目的やどんな機能がほしいかくらいは最初に決めるでしょうが、実際の詳細な仕様は契約締結後、現実にプログラムをつくったりこわしたりして、クライアントと確認しながら徐々に決まっていくのが実態です。

 

あるいは、ベンチャー企業が画期的なアイデアをつかって、まだ世の中に無い便利な製品を生み出そうとする場合、試作品をつくってくれそうな工場に、製造を依頼します。イデアを書いたメモ、議事録、仕様書、図面などを渡して、見本を作ってくれるよう頼むわけですが、このような場合、そもそも世の中に無いものをつくることになるため、「ゴール」を事前に決定することが難しいはずです。むしろできあがるかどうかすら定かではありません。何か月か待っていて、結果的につくれないことがわかった、などということも珍しくはないのです。

 

最初からすべてを決められない、後出しになるタイプの契約もあるということです。そういうときはなおさら、自社の希望や期待を文書化しておかないと、やはり困ることになります。

 

クライアント側は仕事が期待どおりでなかった(完成しなかった)などといって「請負代金を支払わない」と主張し、逆に受託者側は、そこまでは約束していないとか、むしろ当初は予定していなかった作業をさせられたといって「追加料金」を主張するというトラブルが典型です。

 

一方は約束が違うと言い、もう一方はそんな約束はしていないと言う、まさに言った言わないのトラブルに発展しがちなのです。

 

やはり具体化、細分化で対応 

 

ではどうすればよいかですが、できるだけサービスの具体化をするために、何をした場合にいくらの請求になるのかという計算の根拠を記載をしていきます。はっきりした完成形がわからないとしても、目的や趣旨、最低限の仕様、途中で確認をさせてもらえるかどうかなど、手掛かりはあるはずです。そういった項目を箇条書きにします。

 

契約書の中に書き入れるのが難しい場合は、別紙として「明細」をつけても構いません。その方がきっとわかりやすいと思います。あるいは契約書を基本契約書と個別契約書に分けておき、おおまかな規定は基本契約に、より具体的なことは個別契約に記載するかたちにしてもよいでしょう。

 

イメージとしては、基本契約の方に以下のように規定しておきます。

 

受注者が製造する製品の品名(成果物)、機能、作業人員、作業内容、スケジュール、納期、納入場所、委託料(開発料)、数量、単価、荷姿、納期、納入場所、検収期間、代金支払期日その他製造に必要な条件は、本契約に定めるものを除き、個別契約をもって定める。

  

損害賠償条項もあぶない

 

もうひとつ揉めることが多いものの代表格を挙げれば、「損害賠償の条項」です。

 

契約書における損害賠償の条項というのは、万が一契約が守られなかった場合にどうしてくれるか、という意味のことで、つまり生じた損害は賠償してもらえるのか、あるいは賠償されない(責任が免除される)のか、ということを契約書で決めておくことができるわけです。

 

(わざわざ契約書で決めなくても、法律で大枠は決まっているのですが、やはり契約書で具体化しておくことで、民法よりも有利な条件を定めることもできるし、お互いにリスクを見える化できるという利点があります。)

 

当然、買い物をしたお客さんの側とすれば「しっかり賠償を受けられるような条件」を望みますし、逆に売主側は、賠償を不要(免責される)と規定したり、仮に賠償することになったとしてもかなり限定する(上限を設けたり、範囲を狭くする)という契約条件を設定しようとするからです。

 

ようするにお互いの利害が真逆になるため、「綱引き」状態になるポイントだといえます。よく、「有利な契約」というフレーズがありますが、有利性の判断にはこの損害賠償の条項が大きなウエイトを占めます。損害賠償の条項をみて、自社にとって都合がよければ有利な契約書に近づくし、都合が悪い(賠償の義務を大きく、あるいは広い範囲に渡り負っているような)場合は不利な契約書の方に大きくバランスが傾くわけです。

 

結果、どういう問題がおきるでしょうか

 

このように有利、不利がはっきりしてしまう条項をみつけると、不利な立場にある当事者はなかなかサインしたくなくて、いつまでも損害賠償条項の修正を希望することがあります。契約ができないということは、取引が成立しない、つまりは売れないということですので、死活問題です。

 

解決法としては、売主(受託者)か買主(委託者)かでも異なりますが、ひとまず想定される損害を具体的に予測してみることが大切です。

 

なぜなら実際にどのような「損害」が発生しうるのかは取引の内容や金額によって全く異なるはずだからです。

 

単純に「約束が守られなかったらそれによって生じた損害を賠償せよ」という条文だと、抽象的でリスクの大きさが判断できません。賠償するかしないか、という話になります。

 

しかし、「購入者が購入した製品の納入が、決められた納期に間に合わなかった場合には、納入期日から実際に納入される日までの間、販売者は、補償に代えて、購入者に無償で同等の代用品を提供しなければならない」という条項であれば、お互い具体的に検討でき、納得できるかもしれません。

 

修正に疲れてしまうことも

 

そのほかにも契約書には、管轄の裁判所(万が一の際にどこの裁判所で争うこととするか)や、成果物の権利帰属(イラストやプログラムなど、制作したものの著作権が買主のものになるのか、それとも売主にとどまるのかなど)といった、揉めやすいポイントがあり、ともかく契約書の修正のやりとりはとても根気のいる、大変な作業です。

 

一人で対応していると疲れるし、嫌気がさすとおっしゃる経営者の方もいらっしゃいます。また、自分としてはあまり納得していないが、相手が大企業だから直してもらえないだろうなどと考えて修正をあきらめてしまうこともあります。本来は、納得いかない点があるのならば修正を提案して、感情的にも合意して契約できるのがベストです。

 

契約書修正のやりとりで関係が「ぎくしゃく」してしまったために、取引自体をあきらめてしまうケースもあります。あまり契約書の修正ばかり言ってこられると正直投げ出したくなる気持ちはとてもよくわかります。

 

ただ、締結前の段階でその契約自体をやめてしまうかどうかは、やはり自社の譲れないポイントがはっきりしているかで判断すべきです。

 

揉めた事例

 

たとえば、契約書上の交通費の支給をめぐって利害が対立してしまい、締結をあきらめかけた事案がありました。

 

つまりは依頼された仕事をするために遠方の現場へ向かうときは、当然「交通費」がかかるので、依頼主にこれを請求できるよう規定したケースです。依頼主は交通費は払いたくないと言って、修正を主張してきました。(経費負担にこだわる当事者は多いものです。)

 

締結を優先するならば、契約書に、交通費が支給されるかどうか定めなかったり、あるいは「別途話しあう」などとしてやりすごせば、締結はできたかもしれません。ただ、そのかわり実際の業務に入ったときに、交通費が払われるのかどうか判断がつかなくてお互いに困ることになるでしょう。

 

疑問点はなるべく先送りにしないほうがいいですし、運営上交通費が必要であれば、やはり請求すべきではないでしょうか。

 

結局どうなったかというと、契約を断念することも選択肢の一つでしたが、もうひと頑張りして、セオリー通り、交通費の細分化を検討しました。つまり、受任者の本社から特定の現場までの交通費のみ(つまりA地点からB地点までの具体的交通手段にかかる交通費部分のみ)を、依頼者にご負担いただくことを明記したのです。そのケースではこれがうまくいき、無事締結となりました。

 

 

まとめ

 

契約書のチェックや修正は本来時間のかかるものであるし、専門的な知識をもっていてもなお迷いも多いところですから、ストレスを感じてあたりまえです。そこを頑張って乗り切れば、細部を曖昧にしたまま契約をして後になって揉めるよりも、最初にしっかり交渉しておいたおかげで、その後の取引がスムーズになったほうが良いとも言えます。

 

 

ビジネス契約で特に揉めやすい(修正のし合いになりやすい)点は

  1. そもそもの商品、サービスの特定、内容、仕様(具体的になにをするのか、どこまでやるのか、どこからは範囲外なのか、明確にしましょう。)
  2. 値段、支払、金額に関すること(いつまでにいくら支払うかきちんとわかるように書きましょう。)
  3. 解除に関すること(どういうときに解除できるか、またはできないのか)
  4.  損害賠償に関すること(どこまで責任を負うのか、負ってくれるのか確認しましょう。)
  5. 知的財産権の帰属に関すること(マネされないか、勝手につかわれないか、そもそも著作権はどちらのものになるのか、などを事前に決めましょう。)

 

適度に明細化、細分化して考え、自社の都合を反映させた契約書で、スムーズなビジネスを目指したいですね。

 

 

 

 

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行政書士 竹永 大 

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