契約書業務マニュアル

平成15年から契約書だけをつくり続けてきた契約書専門の行政書士

著作権の問題を、あらかじめクリアしてしまう方法

著作権 ということばは一般的にもよく知られているが、 具体的には結構むずかしい法律である。

TPPとのからみでも、 さかんに議論されているし、 著作権侵害のはなしは、 あちこちで見かけない日はない。

それくらい身近で、 しかし複雑でよくわからない話題なんである。

著作権は、 ビジネス取引の契約書では、 特に 納入物の著作権の権利帰属や 利用のためのとりあつかいが問題になってくる。

ウェブサイトにしても、 プログラムにしても、 その著作権はどこがもってるの? っていうところまでは 結構頻繁に目にする話題だ。

つまり、 なにかしら著作物を作った人には、 著作権がはたらくのが原則である。

簡単にいえば 自分がつくったもんなんだから、 自分がその取扱いを決める権利がある、 というわけだ。

この権利が著作権という一定の範囲で 認められているため、 他人は勝手なコピーや、マネや、 その他の利用ができないことになっている。

よって 業務委託でプログラムや、 ソフトウェアを作った場合にも、 作成した人(受注した人)には、 その納品する商品(ソフトウェアなど)にたいして 作成した本人(著作者)としての著作権がはたらくわけだ。

ところがそのソフトを注文した人は、 そもそもそれを利用したいから発注したわけなので、 その著作権を手に入れるか、 利用の許可を得なければいけない、 ということになるだろう。

その辺の理解というか解釈が、 当事者間で異なっていると大変だ。 そこで契約書の出番となるわけである。

じゃあ 契約書では、 どう規定したらよいだろうか?

もちろん 当事者がはなしあって 著作権の帰属をきめるわけだが、 そもそも権利帰属について込み入った部分ということもあって、 事実上は話し合うというよりも、 契約書の下書き(ドラフト)を見せて、 それにサインするかどうかというやりとりになる。

そこで 著作権取扱いについて、 具体的にいくつかパターンを考えてみよう。

まず1案は、 納入物の著作権について、 (発注者又は第三者が従前から保有していた著作権を除き)、 作成者にすべての著作権を帰属させるパターン。

この場合は 当然、 相手に利用許諾することとなる。

ようするに 権利は作成した人が 留保するわけだから 著作権法第47条の2に基づき 発注者側が行う 自己使用のための複製又は翻案 についても定めておく必要がある。

また、実際問題として、 一定の第三者に使用させることを 契約の目的として特掲した上で(それを「特定ソフトウェア」などと定義しておいて)であるが、 そうしたソフトウェアがある場合には、 当該第三者に対しても利用許諾できるというふうに、 さだめておかなければならないだろう。

次に 第2案としては、 単独で作成した著作物の著作権について 発注者側に譲渡し、 権利を帰属させるパターンが考えられる。

結局は これが多いんじゃないかと思うが、 受託して作成したんだから、 著作権もあげちゃうよ というバージョンだ。

ただしすべての権利を明け渡してしまうと、 たとえばソフトウェアの土台となる部分まで 理論的には渡してしまうことになる。

権利の譲渡には慎重になったほうがいいのである。

そこでこの場合は、 将来のソフトウェア開発に再利用できるように、 同種のプログラムに共通に利用することが可能なプログラムに関する権利及び 従前から保有していたプログラムに関する権利なんかは、 留保されることとしておく必要がある。

また、 譲渡する場合の注意としては、 著作権法第27条(翻訳権、翻案権等)及び 第28条(二次的著作物の利用に関する原著作者の権利)の権利については、 特掲されていなければ譲渡した者に留保したものと推定される(著作権法第61条第2項)点があるので、 おぼえておかれたい。

面倒でも、 契約書で 「これらの権利も譲渡される」ことを 明記しておこう。

著作権の移転については、 著作権の価値に見合った対価が支払われる必要がある。

これもよく問題にされう点だが、 ソフトウェアなりの開発に関する委託料とは別に 対価を定めるかどうかである。

定めるのも もちろんもありだが、 発注者側としては当然、 著作権移転の対価も委託料に含める、 としたいところだろう。

ここはぜひ早めに合意をとりつけて、 決着しておきたい部分である。

なお プログラムの著作権については ソフトウェア情報センター(SOFTIC)における登録 (著作権法第77条、第78条の2)が、 権利移転の対抗要件である。

また必要に応じて、 創作年月日の登録(著作権法第76条の2)を行っておけば、 訴訟になった時なんかは 「先行して創作したこと」 の立証が容易になるという意味では、 メリットがある。

そこで 権利移転の登録は、 原則として共同申請となるので、 確実に作成者側の協力が得られるようにしておきたい。

念のため、 「移転登録手続に協力する」、 などといった条項で、 契約であらかじめ規定しておくことも考えられる。

そしてその際に注意しておくべきは、 手続費用の負担をだれがするのか、 忘れずに規定することだろう。

さて 著作権の帰属のさせ方のパターンとして、 留保、譲渡とみてきたわけだが、 新たに生じたプログラムに関する著作物の著作権部分については、 理論的には 共有するということも考えられる。

つまり 汎用的な利用が可能なプログラムを除き、 当事者間で著作権を持分均等で共有するのだ。

もちろんかなりテクニック的なはなしであり、 共有著作権の行使は 全員の合意が必要である(著作権法第65条第2項)など、 機動的なビジネスにはたして現実的かと考えると、、 実際にこうした合意ができるかどうかは別問題だが、 こうした理論上のとりあつかいが可能になるのも、 契約書のおもしろいところだろう。

それぞれ規定例を載せておく。

(受注者にすべての著作権を帰属させる場合の書き方例)

「納入物に関する著作権著作権法第27条及び第28条の権利を含む。)は、発注者又は第三者が従前から保有していた著作物の著作権を除き、受注者に帰属するものとする。 2. 発注者は、納入物のうちプログラムの複製物を、著作権法第47条の2に従って自己利用に必要な範囲で、複製、翻案することができるものとする。また、本件ソフトウェアに特定ソフトウェアが含まれている場合は、本契約及び個別契約に従い第三者に対し利用を許諾することができる。受注者は、かかる利用について著作者人格権を行使しないものとする。」

(汎用的な利用が可能なプログラム等の著作権を受注者へ、 それ以外は発注者に権利を帰属させる場合の書き方例)

「納入物に関する著作権著作権法第27条及び第28条の権利を含む。以下同じ。)は、受注者又は第三者が従前から保有していた著作物の著作権及び汎用的な利用が可能なプログラムの著作権を除き、発注者より受注者へ当該個別契約に係る委託料が完済されたときに、受注者から発注者へ移転する。なお、かかる受注者から発注者への著作権移転の対価は、委託料に含まれるものとする。 2. 発注者は、著作権法第47条の2に従って、前項により受注者に著作権が留保された著作物につき、本件ソフトウェアを自己利用するために必要な範囲で、複製、翻案することができるものとし、受注者は、かかる利用について著作者人格権を行使しないものとする。また、本件ソフトウェアに特定ソフトウェアが含まれている場合は、本契約及び個別契約に従い第三者に対し利用を許諾することができるものとし、かかる許諾の対価は、委託料に含まれるものとする。」

(汎用的な利用が可能なプログラム等の著作権を受注者へ、 それ以外を共有とする場合の書き方例)

「納入物のうち本件業務によって新たに生じたプログラムに関する著作権著作権法第27条及び第28条の権利を含む。)は、汎用的な利用が可能なプログラムの著作権を除き、契約において定める時期(当該個別契約に係る委託料が完済されたとき ・ 納入物の検収完了時)をもって、発注者及び受注者の共有(持分均等)とし、いずれの当事者も相手方への支払いの義務を負うことなく、第三者への利用許諾を含め、かかる共有著作権を行使することができるものとする。なお、受注者から発注者への著作権移転の対価は、委託料に含まれるものとする。また、受注者は、発注者のかかる利用について著作者人格権を行使しないものとする。 2. 発注者及び受注者は、前項の共有に係る著作権の行使についての法律上必要とされる共有者の合意を、あらかじめこの契約により与えられるものとする。 3. 発注者及び受注者は、相手方の同意を得なければ、第1項所定の著作権の共有持分を処分することはできないものとする。」