契約書業務マニュアル

平成15年から契約書だけをつくり続けてきた契約書専門の行政書士

損害賠償はいくらくらいとれるのだろうか?

債務不履行によって契約を
解除できることがあることはすでに書いた。

つまり

a 債務不履行があり
b 不履行が相手方の責に帰すべき事由によることであり
c 解除が541条の手続(相当の期間を定めた催告)に従ってなされている

ことが民法上の「契約解除」のポイントである。

ただ「催告(さいこく)」は、
原則的には、
当事者の合意でこれを不要とする特約をすることができるので、
契約でそのように定めておくといい、
といった点がポイントだ。


さて、
相手方の債務不履行があると、
不履行をされた側に「解除権」だけではなく
「損害賠償請求権」が発生する。

(=解除によって被った損害の賠償を請求できる。)

かんがえかたとしては、
契約によって被った、
本来なら得られたであろう経済的利益を実現してもらうため、
損賠賠償の請求ができないと不公平になるからである。

民法には

民法第415条:債務者がその債務の本旨に従った履行をしないときは、
債権者は、これによって生じた損害の賠償を請求することができる。
債務者の責めに帰すべき事由によって履行をすることができなくなったときも、同様とする。」

とある。

債務の本旨に従った履行をしない、
とは、
ようするに契約通りじゃなかったときは、
というようにおきかえるとわかりやすいかもしれない。

債務者の責めに帰すべき事由によって履行をすることができなくなった、
というのはようするに
債務者のせいで約束が守られなかったとき、
とでもいおうか。

これを帰責事由といったりする。


さてそんなわけで、
原則的には、

債務不履行の事実があり、
・債務者に帰責事由があり、
債務不履行によって損害が発生したこと(因果関係)があれば、

損害賠償請求権が発生するといえる。


問題は
どこまで賠償されるか?
である。

いいかたをかえれば
債務不履行による損害であれば、
いくらでも賠償請求できてしまうのだろうか?

これにも原則がある。

すなわち
賠償されるのは

債務不履行によって通常生ずべき損害」であり、
「特別の事情によって生じた損害」については、
当事者がその事情を予見し、または予見することができたときは含めることができる」
というのが原則だ。

つまり民法の立場でいえば、
約束違反があったことによって、
あきらかに生じたといえる損害は、
賠償されるべきで、
それ以外の部分でも、
当事者が予見しているようなものは、
賠償される、
と考えられる。

とはいえ、
何が通常損害で、
何が特別損害かは、
考え方にもよるだろうし、
それを金銭に換算するとなると、
もはやどういう結論がただしいのかは、
事前に完全には予測できない。

そこで契約書でよくつかわれるテクニックとしては、
賠償額の予定がある。

契約により、
損害賠償額を予定しておくこわけだ。

これは民法にもちゃんと根拠があるのであって

民法第420条: 当事者は、債務の不履行について損害賠償の額を予定することができる。
この場合において、裁判所は、その額を増減することができない。
2 賠償額の予定は、履行の請求又は解除権の行使を妨げない。
3 違約金は、賠償額の予定と推定する。」

実際多くのビジネス契約で使われる手法だ。

たとえば
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「乙は、この契約に関して、第○条第○項各号のいずれかに該当するときは、甲が契約を解除するか否かを問わず、賠償金として、契約金額の10分の1に相当する額を支払わなければならない。業務が完了した後も同様とする。」

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といったふうだ。

つまり賠償額の予定とは、
民420条を根拠に、契約書に特約として、
賠償額を予定しておくこと。

実際に損害金額を計算するのは、
実際にトラブルになった場合は特に難しいため、
損害証明の手間を省くためにつかわれる。


また、
賠償額があらかじめ決められていれば、
場合によっては超高額になり得る賠償を予め制限または把握できるようになり、
債務者にとってのリスク計算に役立つ。

JRの運送約款には、
運行不能や、2時間以上の延着の場合に、
「切符の代金を払い戻す」と定められている。

これなどは
列車の遅れから発生する対応を予定しているが、
一種の損害賠償の予定だろう。

ただし
損害賠償額の予定には制限もある。

法律によって制限されている例としては
たとえば利息制限法では
遅延損害金利率が一定に制限される。

そしてやはり高額過ぎたり、
低額すぎる賠償額の予定は、
公序良俗違反(民法第90条違反)と判断される可能性があるので
気をつけなければならない。