契約書は、3か所読めば9割分かる!

契約書が難しいというイメージを打ち砕く

契約書は、3か所読めば9割分かる! その4(具体的なチェックポイント③)

契約書専門の行政書士の竹永です。

 

「3か所読み」の具体的な方法について説明します。

  

この3か所だけは絶対チェックしよう

 

チェックポイントは、次の3点です。 

 

状況説明を読もう(誰が誰に、何を、いくらで)

解除を読もう(どんなときに解除できる/されるのか)

損害賠償を読もう(どの程度賠償してもらえるか/させられるか)

 

 

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前回までで①と②を説明しましたので、最後のチェックポイントとして、

③損害賠償をみていきます。

 

相手の契約違反による損害は賠償してもらえるか?

 

三つ目に、損害賠償に関する条項のチェックをします。これは万が一賠償の問題になった際に重要な条件ですが、「もし」そうなったらという仮定の話であるがゆえに、かえって契約書の交渉で問題になりやすい部分でもあります。実際に今目の前にあることではなく、そうなった場合という話なので、結論しづらいのです。

 

ビジネス取引において、たとえば成人式に着物をレンタルしてくれるという業者が、当日になっても着物を提供してくれず「たいせつな成人式が嫌な思い出になってしまった」というケースのように、売主が契約上の義務を履行しなかったことによって、買主が何らかの損害を被ることはあり得ます。

 

そもそも相手方が約束を守ってくれなかったこと(債務不履行)により、損害が生じたら、賠償はしてもらえるのでしょうか? 本当に相手のせいであれば、当然賠償されるべきということになります。

 

民法ではどう考えるか

 

民法を読むと、債務不履行にもとづく損害賠償のルールが書いてあります。

 

債務不履行による損害賠償)【全部改正】
第415条  債務者がその債務の本旨に従った履行をしないとき又は債務の履行が不能であるときは、債権者は、これによって生じた損害の賠償を請求することができる。ただし、その債務の不履行が契約その他の債務の発生原因及び取引上の社会通念に照らして債務者の責めに帰することができない事由によるものであるときは、この限りでない。
2  前項の規定により損害賠償の請求をすることができる場合において、債権者は、次に掲げるときは、債務の履行に代わる損害賠償の請求をすることができる。
一  債務の履行が不能であるとき。
二  債務者がその債務の履行を拒絶する意思を明確に表示したとき。
三  債務が契約によって生じたものである場合において、その契約が解除され、又は債務の不履行による契約の解除権が発生したとき。 

 

このように「相手がちゃんと履行しなかったのだったら、それによる損害の賠償を請求することができる」という意味のことが書かれています。

 

もう少し具体的にいうと、民法上、債務不履行による損害賠償には3つの要件があります。つまり「債務不履行」があること、「債務者の帰責事由」があること、「損害の発生と因果関係」があること、という3つのポイントが揃うと、賠償を請求することができる、というものです。

 

そこで一応、これらの用語の説明をしておきます。

 

債務不履行とは

 


債務不履行は伝統的に、「履行遅滞」、「履行不能」、「不完全履行」の3種類があると説明されています。

 

履行遅滞」とは、履行が可能であるのに履行期に履行がないこと。①確定期限がある場合にはその期限が経過した時、②不確定期限がある場合には(請求を受け取った時又は)債務者が期限の到来したことを知った時、③期限の定めがない場合は債務者が履行の請求を受けた時から、遅滞の責任を負います。ようするに、仕事の納期や、締め切りに間に合ってないという状態です。

 

履行不能」とは、債務の履行が不可能となっていることです。そもそも仕事自体ができない状態です。

そして「不完全履行」とは、一応履行はあったけれども、それが債務の本旨に従ったものとはいえない場合です。納品はあったけれどもなにか足りなかったというような場合ですね。このように、納期に遅れているとか、納品できなくなってしまったとか、納品しても何かが間違っていた場合、債務不履行になり得ます。

 

帰責事由とは

 

債務者の帰責事由とは「債務者の責めに帰すべき事由」とか「故意または信義則上これと同視すべき事由」といわれていますが、ようするに「わざと」か、「わざとではないにしても注意不足」によって債務不履行を招いてしまうことです。

 

ところで、わざとかどうか、注意不足だったかどうかはどうすればわかるのでしょうか。実は客観的な立証は難しいです。そこで結局はお互いが主張立証し合うしかないわけですが、このとき当事者のどちらがそれを証明すべきか、を、法律用語では「立証責任がどちらにあるか」といいかえます。

 

そして帰責事由の立証責任については債務者の側にあります。つまり自分がわざとではない、不注意ではないということ(故意過失または信義則上これと同視すべき事由がないこと)を立証しなければならないのです。言い方を変えれば、債務不履行があったとして、債務者は自分でその帰責性が「なかった」と証明できないと、損害賠償責任を負うことになります。

 

ちなみに損害という言葉ですが、ここでいう損害は、「債務の本旨に従った履行がなされたならばあったであろう財産状態と、債務不履行の結果生じた財産状態との差を金額にあらわしたもの」です。

 

 

因果関係とは


因果関係とはもちろん、債務の不履行がその損害の原因になっているという意味ですが、因果関係のある損害をすべて賠償しなければならないとすると、考えようによっては果てしなく膨大な範囲の損害がすべて賠償の対象になってしまいます。そこで、民法でもある程度範囲がしぼられています。

 

民法416条を読むと、相当因果関係の原則が規定されています。

 

(損害賠償の範囲)【一部改正】
民法第416条
1 債務の不履行に対する損害賠償の請求は、これによって通常生ずべき損害の賠償をさせることをその目的とする。
2 特別の事情によって生じた損害であっても、当事者がその事情を予見すべきであったときは、債権者は、その賠償を請求することができる。

 

つまり損害には「通常損害と特別損害」とがあって、債務不履行があった場合は「通常損害」が賠償され、「特別損害」についても債務者が予見すべきだったら賠償されるということです。

 

契約書ではどう書くのがいいか

 

民法が、債務不履行による損害の賠償についてどのようなルールになっているかわかったところで、契約書ではどうあるべきでしょうか。損害賠償ですから、これは予定されていることというよりも、万が一の際の想定です。それでも契約書に書いておくべきなのかどうかは、売主と買主とで意見が分かれるかもしれません。もちろんそんなにまずいことは起こらない前提で、取引をスタートさせるからです。

 

実際この点で契約交渉が難航することがあり、「もしものときは民法のとおりでいいのではないか」というのがひとつの決着の仕方です。その場合、損害賠償の条項は非常にシンプルなものになります。

 

よくあるシンプルな条文とは以下のようなものです。

 

甲又は乙が本契約の条項に違反した場合には、甲又は乙は、相手方が必要と認める措置を直ちに講ずるとともに、その損害を賠償しなければならない。

 

簡単にいえば「契約に違反したら賠償せよ」とだけ書いてあります。これくらいシンプルだと、ほとんど民法どおりといった感じです。実際、このような記載にとどめていることはよくあります。お互いが納得の上であれば、素早く契約書を完成させられるメリットがあります。

 

逆に言うと、この条文だとシンプルすぎて、いざほんとうに債務不履行が起きてしまった場合には、契約書によるリスクコントロールはほとんど期待できないデメリットがあります。裁判を含めた通常の手続きによらざるを得ません。では、より具体的な条文にするとしたら、どうすればよいのでしょうか?

 

損害賠償にこだわるならこうする

 

損害賠償で問題になるのは、いったいどの程度の損害が、どれくらいの金額で賠償されるかです。そこで損害の「範囲」と「金額」とに分けて考えるとわかりやすくなります。

 

 

分けて考える

  • (A)損害の範囲を考える
  • (B)賠償額を考える

 

つまり契約書において、損害賠償について定めるときは、大きくわけると「損害の範囲」を決めてしまうか、「賠償額の範囲」を決めてしまうというセオリーがあります。

 

つまり、範囲としてどこまでを損害と認めるのか、ということと、金額的にどれくらいまで賠償されることにするか、という言い方をします。

 

範囲を決めるやりかた

 

たとえばよく見かける条文は「通常かつ直接の損害に限り」賠償すると規定します。「通常かつ直接」の損害ですから、債務の不履行そのものだけが賠償の範囲です。いいかたをかえれば、特別にまたは間接的に生じた損害は対象外という意味になります。たとえばその損害が原因となって、売り逃しがあったかもしれないとか、クレームが起きて、そのクレームにかけた謝罪対応の人件費がかかったとか、事態の処理に弁護士費用がかかった・・・などというような損害部分については賠償の対象に含めないということです。

 

ようするに範囲を限定しておくことで、損害額が大きくなりすぎるのを防ぐ意図があります。このように損害の範囲を限定する規定は、一般的に売主にとって有利な規定と言えます。

 

賠償額を決めるやり方

 

次に、範囲ではなく賠償額を限定することがあります。簡単にいえば、賠償額そのものを「〇〇〇円」とか「〇〇〇円を上限とする」などと予定してしまう条項です。万が一損害が発生したとしても、現実の損害額によらず、一定の金額の範囲内に賠償額を収めてしまおうという意図があります。

 

そんなことをしても構わないのかですが、民法も、損害賠償額の予定ができることは認めています。

 

(賠償額の予定)【一部改正】
民法第420条
1 当事者は、債務の不履行について損害賠償の額を予定することができる。
2 賠償額の予定は、履行の請求又は解除権の行使を妨げない。
3 違約金は、賠償額の予定と推定する。

 

契約書の条文では、例えば次のように規定します。

 

損害賠償の累計総額は、帰責事由の原因となった個別契約に定める〇〇〇の金額を限度とする。

 

たとえば業務委託契約であれば、損害賠償が生じた場合でも、その賠償額は受託者が受け取った「委託料」を上限額とするなどです。(必ずしも委託料等の金額を上限にしなければならないわけではありません。具体的金額を指定することもあります。)

 

お分かりだと思いますが、範囲にしても金額にしても、制限をつけるということは、万が一の際の賠償額に制限をつけるということです。これは売主にとっては有利ですが、買主にとっては賠償額が限定されてしまうというリスクになります。

 

つまり買主としては、万が一の際に十分な賠償が受けられるような規定が望ましいわけです。極端にいえば、範囲は限定せず、金額も無制限に補償されるのが理想ですが、なかなかそうした規定が受け入れられることはありません。

 

まずは損害賠償の条項を自社の立場で読むことにより、理論的に見て有利なのか不利なのか、みわけられるようになりましょう。そのうえで、実際の取引の内容やリスクの大きさにより、具体的な条文の許容度をはかっていくようにします。

 

機械的「こう書いてあるから不利」とか「こう書いてあるから間違い」という風に、文言だけで判断してしまうことは危険です。契約書に書いてあることが同じでも、具体的シチュエーション、取引相手は千差万別です。相手は長年のお付き合いのあるお得意様かもしれませんし、今回がはじめての取引となる新規顧客かもしれません。取引額も、取引の頻度も、想定されるリスクも、全く違うはずですので、一概に損害賠償の条文だけで契約のリスクがはかれるわけではありません。

 

そこでまずは契約書に書いてあることの意味を正確に読みとれるようになり、そのうえで、取引の実態や自社の立場にあわせて、好ましいかどうかを考えるようにしたいものです。

 

 

損害賠償の読み方のポイント

  • 債務不履行時の賠償についてふれられているか
  • 賠償の範囲が決められているか
  • 賠償の金額(上限など)が決められているか
  • 自社にとって有利か不利か

 

 

数回に分けて書きましたが、以上が「3か所読み」の基本的な着眼点となります。まずはこの三点に着目して、契約書の概要をつかめるようになると、細かい論点についても自然に検討できるようになるはずです。

 

 

つまり契約書理解の流れは

  • 前提となる知識を知る
  • まずは3か所読みができるようになる
  • そのうえで契約のタイプ別の各論を学ぶ

 

という順番に学んでいただくといいと思います。

 

一般的な3つの要点がわかったら、あとは契約書のタイプ(①渡す契約、②提供する契約、③貸す/許可する契約、④条件を付ける契約)別に、それぞれ問題になりやすい具体的なポイントを追っていけば、効率的に契約書のチェックが行えるようになります。

 

①渡す契約では、物を渡す場合と権利を渡す場合とで、それぞれ特有の契約書チェックポイントがあります。

②提供する契約では、請負型と委任型という、契約類型の差に着目した判断ポイントがあります。

③貸す/許可する契約では、特別法の知識もリンクさせて契約書をチェックする必要があります。

④条件を付ける契約では、特にNDAのチェックができるようになる必要があります。

 

これらの道筋をたどるなかで、民法改正、印紙税法、下請法や著作権法といった、特に関連の深い法律も並行して学んでいかれると、より深く契約書が読めるようになっていきます。これらについても例によって学ぶ順番とポイントがありますので、いずれ整理したいと思います。

 

 

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行政書士 竹永 大 

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