契約書業務マニュアル

平成15年から契約書だけをつくり続けてきた契約書専門の行政書士

契約書は、3か所読めば9割分かる! その2(そもそも契約書には何が書いてあるのか)

契約書専門の行政書士の竹永です。

 

「3か所読み」について。続きです。

 

 

そもそも契約書には何が書いてあるのか?

 

契約書にはビジネスで当事者間が決めたことが、主に時系列で書かれています。ただし全部を書くわけにはいかないので、おのずと重要な事柄に絞られます。

 

代表的な事項を三つ挙げます。

 

 
①いくらで何を売るのか

 

契約書には取引を正確に描写する役割もあります。誰が誰に、何を売るのか、いつ届けるのか、という「状況説明」が必須です。そして当然、いくらなのか(対価)も非常に重要です。

 

それらを交渉によって決定したとき、売主は商品を届けるかサービスを提供する義務を負い、買主は主に代金を支払う義務を負います。逆にいえば、売主は代金を請求する権利が得られ、買主は商品やサービスを受け取れるという権利が得られるともいえます。つまり契約によって当事者の間に「権利と義務」が発生したことになります。

 

ようするに契約書には、まず当事者とその間にある債権債務のあらましが書かれていると言えます。

 


②契約は解除できるか

 

状況説明だけでも契約書ではあるのですが、それだけで終わることは少なく、契約書には様々な条件(もしこうだったら・・・)がくっついています。たとえば継続的な取引になる場合はあらかじめ解除についても定めておくことが普通です。これは契約書がネガティブにとらえられる原因のひとつかもしれませんが、たとえ好ましくないことでも先に想定してルールを決めておくことができるのが契約書の機能です。

 

ちなみに、契約の解除にもメリットがあります。たとえば顧問契約を締結してみたけれど、仕事ぶりに納得がいかなかったとか、なにか不便や不満を感じて「もうやめたい」となるかもしれません。そうなったらすぐにでも解除して、新たな依頼先を探したいと考えるはずです。一方の売主側にしても、もしかしたらお客さんの支払能力に問題があることがわかったりしたら、早めに取引をやめてリスクを回避する必要があります。こうしたリスクに対応するのが、解除に関する取り決めです。

 

ようするに契約書には、アクセルに対応するブレーキのように、積極的に契約を継続するだけでなく、取りやめることを想定した条文も書かれています。

 
③損害が生じたらどうするのか?

 

さらに念の為、相手方の約束違反などに対する「ペナルティ」についても定めることがあります。買主側は、もし約束の品物が届かなかったり、約束通りのサービスが受けられなかったりしたときには、損害賠償という形で補償してもらえるように、あらかじめ取り決めておきます。

 

売主側も、あまりに賠償額が大きいと経営のリスクが大きくなりますので、賠償の上限額を設定して、損害の拡大を防ぎます。 

 

状況説明や、もしもの条件設定、取引に関するこれらの要素を「ことばにしたもの」が、契約書です。複雑な取り決めも、ことばにすることで確認しやすくなるし、証拠として保存しやすくなります。

 

 

この三つの事柄が、ビジネス契約書には共通的に書かれています。

 
ビジネス契約には4つのタイプがある

 

もうひとつ、初心者を混乱させてのは、契約にはたくさんの種類があるということです。いったい契約にはどれだけ種類があるのでしょうか? 取引の数だけ無限にある、ということもできますが、ある程度パターンもあり、それによってグループ分けすることができます。

 

分類の仕方は何に着目するかによって違いますが、おおまかにいえば「渡す契約」「提供する契約」「貸す/許可する契約」「条件を決める契約」と分ければ、ビジネスで登場する契約のほとんどをカバーできます。

 

①渡す契約(売買、譲渡、販売店、М&A等)

 

渡す契約は、オーソドックスな契約です。

物や権利を相手に渡すタイプの契約があります。民法にも、贈与契約、売買契約、交換契約という3種類が定められています。贈与とは、無償で財産権をあげてしまう契約です。売買とは、文字通り対価を支払うことを約束して財産権を渡すものです。交換とは、わかりやすくいえば物々交換をすることです。単純な売買だけではなく、販売店契約書も、株の譲渡やМ&A契約も、渡すタイプの契約といえます。

 
②提供する契約(請負、委任、業務委託、代理店等)

 

提供する契約は、変幻自在な契約です。 

これは完成した「物」をやりとりするのではなく、なんらかの労務、サービス、つまり「何かしてあげる」契約です。民法に書いてあるのは雇用契約、請負契約、(準)委任契約の3種類です。委任と準委任は同じと考えて差し支えありません(委任は法律事務の委託を意味し、法律事務以外の事務の委託を準委任といいます)。

 

雇用契約は、給料を支払って、労働者を雇うタイプ。雇用主が指揮命令する立場に立ちます。請負契約は、仕事の完成に対して代金を支払いますよという契約です。仕事の完成、というところが重要なポイントになります。というのも、(準)委任契約となると、結果については約束しないけれども、プロになんらかの事務を委託して任せるものを指します。労務を提供しているところは変わりませんが、それぞれに若干の特長があることがわかります。

 

サービスを提供する契約で多いタイトルは「業務委託契約」です。代理店契約、顧問契約、コンサルティング契約、〇〇サービス契約書など、対象となっている労務の性質にあった名前で呼ばれることも多いです。すべて、相手になんらかの労務やサービスを提供する契約です。


③貸す/許可する契約(賃貸、ライセンス、フランチャイズ等)

 

貸す・許可する契約は、権利ビジネスの契約です。

貸す契約は、アパートの賃貸をイメージするとわかりやすいと思います。民法に規定があるものでいうと、消費貸借契約、賃貸借契約、使用貸借契約の3種類は、貸す契約です。

 

消費貸借とは、借りたものは使って、あとで借りたものと同等のものを返すためこういう名前になっています。典型例はお金の貸し借りで「金銭消費貸借」といわれていますね。賃貸借契約は、レンタル品やアパートなどを、賃料を支払って借りる契約です。(宅地建物の賃貸借契約の場合には、民法だけではなく借地借家法の適用があるので、借地借家法の知識が必要になります。)使用貸借は、無償で借りるタイプです。

 

ほかにもビジネスでは様々な物品の「リース契約」が行われています。また、許可するタイプというと「ライセンス契約」や「フランチャイズ契約」があります。ライセンス契約とは知的財産権の使用を許可するわけです。また、フランチャイズは商標やノウハウの使用を許可してフランチャイジーからロイヤルティを得る契約です。


④条件を決める契約(NDAなど)

 

ちょっと特殊なタイプの契約です。

何も渡さないし提供もしない、何も貸さない契約もあります。単純になんらかの条件をつける契約です。典型例は、秘密情報を守ってもらうための秘密保持契約(NDA)です。これは秘密情報を決めて、それを外部に漏らしてはいけないとか、勝手に利用してはいけないなどといった取扱いルールを定めるものです。

  

 

もちろん学問的には非常に細かい分類があります。が、まずはこれくらいシンプルなグループ分けで理解しておいたほうが、実践的だと思います。

 

 

つづく

 

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行政書士 竹永 大 

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