契約書業務マニュアル

平成15年から契約書だけをつくり続けてきた契約書専門の行政書士

契約書は、3か所読めば9割分かる! その1(契約書は〇〇を守ってくれるもの)

契約書専門の行政書士の竹永です。

 

契約書は、3か所読めば9割分かる!

 

契約書は隅々まで全部読むべきものだけど、実際ちゃんと読んでいる人はとても少ないのが現状だと思います。

 

じゃあどうしたらいいのか? 

 

最初から完璧を目指すよりも、まずは「ここだけは絶対に読むべき」ポイントを決めて取り組んだ方が現実的です。

 

いきなり難しい法律本を読んでも無駄!

 

一般的に契約書になじめない理由は、法律的に高度な問題というより、とっつきにくさではないでしょうか。なにも、すべての人が契約書に詳しくなる必要はありません。多くの人にとって必要なのは、ザっと要点だけ読めること

 

だから、いきなり難しい法律本を読んでも、初心者にはかえって遠回りになります。逆に、基礎的な読み方がわかっていれば、要点を知ることができ、どんなに細かい論点にもその都度対応できるようになります。

 

契約書がわかるためには最初に基本的なロジックを知る必要があります。有名な「パレートの法則」によれば、全体の2割に8割の重要なことが含まれているそうです。契約書にも、効率よく読めるようになるポイントがあるのです。

 

一般的なビジネス契約書(業務委託契約書等)の場合、ポイントはそれほど多くはありません。ある「3つの箇所」をおさえれば9割の要点はつかめます。

 

契約書でまず読むべき3か所とは?

 

契約書を見たら、以下の3か所を読みましょう。誰でも、もっと簡単に契約書を解読できるようになります。

 

状況説明(誰が誰に、何を、いくらで)

解除(どんなときに解除できる/されるのか)

損害賠償(どの程度賠償してもらえるか/させられるか)

 

 

少なすぎる気がするかもしれませんが、この3か所は、私が実際に契約書の相談にのっていくなかで、多くの契約で共通して問題となるところです。まずは3点に絞ることで理解しやすくなります。

 

3ヶ所をきっちり読めるようになるために知っておきたいこと

 

先に、契約書の前提知識を説明します。

 

もしも契約書がなかったら?

 

民法上は口約束でも契約は成立します。しかし実際には、口約束だけでは証拠が残らないため、以下のような問題が起こります。

 

A 仕事内容でもめるケース

契約がはっきりしていないと、代金を請求するのが困難になります。 

 

仕事をすれば代金はもらえるはずですが、業務委託(フリーランスの方が文章やデザインを納品したり、下請業者がメーカーに製品を納めたりする取引)などでは、成果物や製品のクオリティに買主が納得せず、代金がなかなか支払われないというトラブルがよくあります。これが買主のわがままなのか、それとも契約上の正当な言い分なのかは、あとから「言った」「言わない」になるともうわからなくなります。

 

業務委託取引では、注文されてからはじめてなんらかの製作をはじめることが大半です。ゆえに、「いつまでに」「どのようなものを」つくるのか、「仕上がりが注文と違っていた場合」はどうするのか、「報酬はどのタイミングで支払うのか」などを、スムーズな支払のために契約で決めておくべきです。

  


B 代金額でもめるケース

 

作業内容や製品には納得しても、金額が思ったより高かった! というトラブルもよくあります。

 

本来は事前に見積書を検討してもらい、契約書を交わし、それから作業にとりかかるのが理想ですが、後回しになってしまうことがあるのです。

 

そうするとあとになって、請求された金額が高くて「こんなにかかるとは思っていなかった」「おかしいのではないか」などの言い争いになります。業者がふっかけているのか、発注者の認識が足りないだけなのかは、やはりあとからだとよくわからなくなります。事前に「簡単な」ものでも請負契約書を交わせば、お互いにメリットになります。

 

契約書にデメリットはあるか?

 

タレントや芸能人の方は、事務所ときちんとした契約書を交わしていないと聞くことがあります。あったとしてもごく簡単な内容だそうです。また、フリーランスのデザイナーさんは、企業からオファーがあると、自分に不利な契約であっても受け入れてしまうことが多いようです。

 

なぜなら、その方が話が早いし、依頼がもらいやすいからでしょう。クリエイティブな仕事にとって、契約は「足かせ」みたいに感じられるのかもしれません。空気を読んで、目の前のお仕事を優先してしまう気持ちもわかります。

 

しかし契約が意識されないと、いつまでも受注者側・売主側は弱い立場におかれたままですし、発注者側・買主側にしても、いずれはコンプライアンスの問題を生じるはずです。一見デメリットにみえたことが、長い間にはメリットに転じることがあるものです。

 

 

あえて契約書にする理由とは?

 

もちろん、契約書が無くても(口約束でも)取引はなりたちます。そもそも取引には民法をはじめとする法律が適用されるからです。

 

たとえばあなたの取引相手が約束を守らないので、いっそ契約を解除したいと考えていたとします。契約は守るのが原則ですから、普通は勝手にやめることはできません。そこで六法全書を買ってきて読んでみたら、民法には「相手が約束を守ってくれなかったら、前もって期間を定めて催告したうえでなら契約を解除できる」という意味のことが書いてあります。ということは「別に契約書が無くっても、民法等のルールに従えば契約の解除はできるんだな」とわかるわけです。

 

たいていの問題は契約書がなくても、法律を頼りに解決できます。それなのになぜわざわざ契約書をつくるのでしょうか?

 

それは、契約書があれば、原則として当事者間においては法律よりも優先して適用されるからです。民法などの法律だけに従っていると、あなたにとって不都合があるかもしれません。それにもし法律がカバーしていないことや、カバーしていてもあまり具体的には決められていないことがあったとき、どう解決してよいかわかりません。さらに民法の規定の方があなたに不利だったら、その不利なルールに従わなければなりません。

 

契約自由の原則をフル活用する方法

 

民法には契約自由の原則というものがあります。基本的にはあなたが誰とどういう契約をどのような方式でしようと自由ですよという原則です。

 

しかも、民法に無い独自ルールを作っても構わないし、それがたとえ民法とは異なるルールであっても原則としてOKです(ただし例外として、強行法規といって絶対的に従わなければならない規定もあります)。

 

たとえば民法に「相手が約束を守らなかったら、前もって期間を定めて催告したうえで契約を解除できる」というルールがあり、あなたもそれでよければ、この点においてはわざわざ契約書を作る必要はありません。

 

ですが「前もって期間を定めるといっても、どれくらいの期間なのかはっきりしないのは困るな」とか、そもそも「前もって期間を定めて催告するなんて、時間がかかって不便だな」と思うかもしれませんよね。

 

その場合は、じゃあ「わざわざ催告なんてしなくっても解除できる」という契約をしておくこともできます。契約ですから、当事者間ではそのルールの方が優先適用されます。当事者の間でだけ通用するあたらしいルールです。

 

このように「契約自由の原則」のおかげで、私たちは原則として民法のルールを補充したり、変更したりしても構わないことになっているのです。だったら、自分に有利なように、あるいはなにか起きたときに法律よりも具体的でスムーズに対応できるように、自由な契約を結んでおきたいもの。契約書をつくるのは、契約自由の原則をフル活用して、当事者間でもっと都合の良いルールを設定するためなのです。

 


契約書は〇〇を守ってくれるもの

 

ここであらためて、なぜ契約書をつくるのかを考えます。

 

「契約書を作る理由はなんだと思いますか?」と問いかけると、たいていの方が「会社を守るため」、「リスクから守るため」とおっしゃいます。もちろんそれは間違いではありませんが、より大きな目的があります。

 

結局のところ契約書は、個人の「資産を守る」ため、会社の「利益を守る」ために存在していると思います。つまり最終的にはあなたの「お金を守る」ためです。

 

具体的に契約書の条文を読んでいくとわかりますが、 ビジネス取引において、きちんとお金が入ってくるように、あるいは、必要以上にお金が出ていかないように、そのための調整弁として契約書は機能しているのです。

 

紙に書かれた言葉がそんな役割を果たしているところが面白いですね。

つづく

 

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行政書士 竹永 大 

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