どうすれば「契約書の更新」を忘れずにいられるのだろうか? 契約書の管理の方法
契約書専門の行政書士の竹永です。
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契約の更新を忘れることってありませんか?
契約の実務を任されていて、契約書の期限がきているのに更新手続きを忘れてしまうことはありませんか?
たとえば不動産の賃貸借をしているとして、複数の物件があると、どの物件でいつ更新の書類を送付していいのかわからなくなったり。
グーグルのカレンダーに期日を書き込んでおいても、エクセルで日付順に並べておいても、やっぱりミスは起きるもの。他の業務もあって忙しいというのに、いったいどうすればいいのでしょうか。
電子契約にして一元管理する方法
SaaS型、クラウド型のサービスで、電子契約の締結や管理を行えるものがたくさん登場しています。リーガルテックと呼ばれる分野が目覚ましい進歩を遂げているのです。これらをつかえば、これまで紙にプリントアウトしてから行っていたすべての契約書業務が、パソコン上、端末上のやりとりにおさまってしまいます。
つまり、ファイルのやり取りをするだけで、契約の締結ができ、管理ができ、保存ができてしまいます。サービスによっては編集履歴まで残ります。ゆくゆくは郵送の代行をしてくれるサービスも登場するはずです。
こうなると、契約の締結という時間と手間のかかる業務が、まるでメールのやり取りをするかのような感覚です。さらに、メールがそうであるように、検索や整理といった管理も楽です。印紙税も不要になります。いいことずくめなので、まだ導入していない企業があるのが不思議になるくらいです。
ここまで契約書のあつかいが楽になると、更新を忘れる可能性も少なくなるはずです。満了日が近づくとメールでお知らせするように設定することもでき、そもそも端末で一元管理できるので、より忘れにくくなるからです。
それでも多くの企業で電子契約の導入ができない場合
こんなにメリットがあっても、電子契約に踏み切れない企業が多いのもまた事実です。導入に踏み切れない理由を見聞きした中からいくつか紹介すると、
- 現在の業務が忙しすぎて、移行の計画が立てられない
- 移行が面倒
- 相手方が紙で欲しがる(だろう)
- 上層部の理解が得られていない
- そういうのを決めるのは自分じゃない
- セキュリティを心配する声におされてしまう
- 電子契約で締結した場合、ハンコがおせないので心配
- 定期賃貸借契約などは「書面」が求められるから無理
などが挙げられると思います。
たしかに法律上書面が求められる契約類型もわずかながらあります。こればかりはしょうがないですね。
セキュリティの面は、改ざんリスク、漏洩リスク、本人性リスクなどがありますが、飛行機にも事故があるように、絶対に問題が起きないという保証はありません。(もちろんそれは紙の契約書でも同じであり、改ざんのしやすさなどはむしろ紙のほうがあると思うのですが、そういっても水掛け論になるでしょう。)
スキャナで保存すれば解決するのか?
ただ、実務上は紙のやり取りを継続したとしても、クラウドサービスをつかって電子的に管理できることは大きなメリットがあります。紙の契約書をスキャナで保存すればいいと思われるかもしれませんが、個人的にはやはりクラウドサービスを導入したうえで管理を行うのがいいと思います。つまり紙の契約書にしてからデータを取り込むのではなく、作成の時点から一元管理したほうが、履歴も残り、アップデートや整理がしやすく、期限管理も確実だからです。
これが、単にスキャンしてサーバに保存しているだけだと、管理の手間は紙のファイルを棚においておくのとあまりかわらないはずなのです。
ようするに、リーガルテックを導入しながら、最初は紙の契約書でのやりとりを並存させればよいのです。
とはいえ、別に私はこうしたサービスの会社のまわしものでもなんでもありませんから、あなたがどの電子契約サービスをつかおうとまったく無関係です。そして、そうした新しいサービスを会社で使い始めるのがどれくらい大変なことかもわかっているつもりです。
さしあたって電子契約にしなくても更新を忘れない方法
さまざまな理由で電子契約の導入ができない気持ちもよくわかりますので、さしあたりそうしたものをつかわずに少しでもミスを防ぐための方法を考えてみます。
そもそもなぜ忘れるのか?
実は更新を忘れているのではなく、管理はしていても相手が返事をしてくれなかったり、日々の業務におわれて忙しかったりして、更新手続き自体に手間がかかるために渋滞がおきているのがこの問題の本質ではないかと思っています。
つまり、たとえ期日を決めても、たいていはその期日に終えられないことが最大の原因です。忘れているというより、その場で済ませられず延期を繰り返してしまうのです。仕事といえばもっぱら更新管理「だけ」をやっているというなら大丈夫かもしれませんが、通常そんなことはありえないでしょう。
よって、いくらスケジュールアプリなどで期限だけ管理しても、根本的な解決になりません。
キントーンをカスタマイズしてみたり、期日をいれておくとメールでリマインドしてくれるソフトを試したりしても、なぜかうまくいかないのはこれが原因だと思います。
私もこの問題をどうすれば解決できるのか悩んでいましたが、ひとつのコツをみつけたのでメモしておきます。
Trello(トレロ)が意外と使える
簡単すぎて盲点だったのが、タスク管理ソフトを使う方法です。
スケジュールソフトに日付だけ入れるよりも、Trello(トレロ)などのタスク管理サービスが意外と使えます。トレロは無料でも使えますし、実際私は無料でやれる範囲でしか使ってません。
トレロに限らず、タスク管理アプリはたくさんあるようですので、好きなもの、できれば無料で使い始められるものを使えばいいと思います。
トレロとは、ようするに付箋を貼るようにしてタスクを管理するウェブアプリケーションです。
さっそく、ひとつの契約案件ごとに1枚の付箋(トレロでいうところのカード)をつくり、最初はひたすら貼り付けていきます。
ポイントは、カードに「期日」を書き足す機能があるので、かならず契約満了日を記入していくこと。これで単なる付箋の集合ではなく時間軸での管理が可能になります。
期日の若い順に並べ替えたり、グーグルのカレンダーと連携させたりできるので、並べ替えたりして、すっきりと管理できるのです。
すくなくとも契約書をファイルキャビネットに放り込んだり、PDFにしてフォルダのなかに保存しておいただけの状態よりは、よほど直感的に期日管理ができます。
期日だけ管理してもしょうがない
ちょっと待てよ? それだけだと、単にスケジュールがわかるだけで根本的な解決にならないじゃないか!
と、私自身も期待薄だったのですが、本題はここから。
やはり契約管理を「スケジュール」としてとらえるのではなく、「幅のあるタスク」としてとらえるのがポイントなのです。
つまり分解すれば、
①あるタイミング(満了日の前の一定期間)において発生する、
②複数のフロー(更新の手続き)
が管理できてはじめて、
契約書の更新管理ができるはずなのです。
①はスケジュールの問題であり、②はタスクの進捗の問題ですよね。
そこでどうするかというと、チェックリスト機能をつかいます。
タスク管理ソフトにはたいてい「チェックリスト」をつける機能があり、トレロの場合もカードごとにたとえば「更新手続きのフェーズ」なんかをToDoリストにすることができます。
ToDoリストをつかうか、ボードをわけておく
具体的には
「更新のお知らせを送る」
→ 「お客さまからの返送待ち」
→ 「返送されてきた」
→ 「入金確認」
→ ・・・
→「完了」
みたいなオリジナルのフローがあれば、それをそのままチェックリストにすることができます。あとは作業の進み具合に応じてチェックしていくだけ。
つまり、更新手続きが仕掛中であることがこれでわかるのです。
先に期日で並び替えておいて、仕掛中のものはチェックリストで管理し、終わったものはアーカイブするか、別の位置(トレロでいうところのボード)にカードを移動していけば、直感的に作業できるので、ミスがなくなります。
ToDoリストが面倒なら、ボード自体を分ける
いちいちカード(付箋)にToDoリストを貼るのが面倒なら、カードを貼る場所を変えることも有効です。
トレロでは「ボード」という、カードを貼る「島」みたいなエリアがつくれるのですが、この「島」自体をあらかじめ3つ作っておきます。
たとえば
「やること」(のエリア)
→ 「やってること」
→ 「おわった」
のように、付箋(カード)をその都度となりの「島」(ボード)に移動させていけば、そのまま進捗管理になります。ちなみに、カードの移動は、ドラッグアンドドロップで簡単にできます。
3つの「島」を眺めるだけで、タスクの進捗が見た目でぱっとわかるのでお勧めの方法です。
やる人と書き込む人を分けて複数で管理すること
ところで、まだ解決ではありません。
これで、スケジュール管理とタスク管理が同時にでき、クラウドサービスなのでスマホでもパソコンでもタブレットでも閲覧できるので、完璧だ! と思いきや、世の中そう甘くはありませんでした。
トレロ(などのタスク管理アプリ)を見ない、あるいは見忘れる、という新たな問題が生じたのです。どんなにすぐれた機能を持ったアプリでも、みてもらえなければ意味がありません。
人間は面倒さに勝てないのですね。
さてこれを解決するのに今のところ最強のアイデアは、「ふたりで共有する」ことです。絶対にひとりでやらないで、必ずだれかほかの人にボードを閲覧してもらうようにします。そのためにも、その情報を必要とする人(更新を担当する人)と、ソフトに書き込む人とを分けるとよいです。
契約更新の担当者だけがタスク管理ソフトをみていると、ミスが起こりますが、誰か別の人に見てもらい、書き込む、消し込むなどの作業は必ずその二人目の担当者が行うようにします。
コツは登録情報を盛り込みすぎないこと
もちろん、契約書管理のためのソフトはあります。私も、キントーンをカスタマイズして自作したこともありました。これからもどんどん出てくるはず。でもひとつだけ注意が必要なのは、これらの管理ソフトが必要以上に優秀すぎるということです。
契約書をアップロードできる、契約日、契約期間、満了日、担当者、当事者、・・・どんどん入力可能な情報が増えていきます。機能が豊富だからあれもこれも盛り込みたくなり、メール通知のバリエーションも複数設定したりして、豪華な管理ソフトができあがります。
にもかかわらず、うまくいかないことがあるのです。結果として登録が面倒になり、管理のための管理になり、現場では使われなくなる危険性があります。
そういうのが必要なシチュエーションももちろんあるのでしょうが、最初は欲張らず、更新手続きを忘れないことにしぼって対応したほうが、結果が出やすいのではないでしょうか。
極端にいえば、相手方の名前と満了日さえわかってしまえば当面はなんとかなるので、まずはそこからスタートしてはいかがでしょうか。
またいい方法があったらシェアします。
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行政書士 竹永 大
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