契約書業務マニュアル

平成15年から契約書だけをつくり続けてきた契約書専門の行政書士

セミナー・研修講師とのトラブルを防ぐ契約書のつくりかた 【講師業務委託契約書のひな形と意外な盲点】

契約書専門の行政書士の竹永です。

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本記事は、セミナービジネスに使う講師と主催者との間の契約書のつくりかたについての解説です。

 

セミナービジネスをしているけれど、講師との間でまだ契約書等の書式をつくっていない場合に、参考にしていただけます。

 

 

本記事だけでも作成に必要な十分な情報が載っていますが、最初の執筆時から時間がたっていますので、noteで最新版(2020年)を公開しています。有料版となっていますが、ほとんどの部分を無料で公開しています。無料部分だけでも十分に役立つ内容となっていますから、ぜひそちらも参考にしてください。

note.com

 

 

講師派遣会社や主催者と講師とのあいだの契約書

  

セミナー、企業研修、講演など、講義やレクチャー、講話などを行うビジネスがありますが、このとき企画側企業(主催者)と講師との間には、どんな契約書が必要でしょうか?

  

 

講師との契約書

 

講師との間に業務委託契約を締結する必要があります。セミナー会社は講師にその業務を外部委託していることになるからです。

 

 この契約ではなにに気をつけるべきでしょうか?

  

 

問題は支払条項? ペナルティ?

 

 

ポイントとなるのは「講師への支払」条件と、講師の無断欠席などを見越したペナルティの条項です。

 

 

講師側は報酬の金額や支払いタイミングが間違っていないか、良くチェックします。

 

主催者側は万が一のことを考えて、いろいろと手を打ちます。

 

セミナーはリアルビジネスですのでひとまず無事に当日の講義が行われることが第一。その責任の明確化と、補償などのリスクヘッジを盛り込みたいところです。

 

 

意外な盲点 

 

ところで契約書の盲点となりやすいのが、講義資料の権利帰属です。

 

 

セミナーは企画側と講師とが一緒に作り上げる要素が強く、そこでつかわれるレジュメやスライドや資料などは、お互いが意見を出し合ったり、加除修正を繰り返したりして、結果的に一種の共同作業になることが多いためです。

  

ゆえに、出来上がった資料は誰のものになるのかがあいまいになってしまいます。

権利帰属の問題がでてくるのです。

 

スタートした当初は問題にならなくても、本来講師と主催者は独立の事業体であるため、資料の権利帰属にも一定の結論を出す必要がでてきます。

  

特に企画側や主催者側がセミナーを収録してDVDにして販売しようなどと考えている場合は、コンテンツの権利について一定の権利を確認しておかないと、あとで揉めます。

  

 

講師にしても、自分のつくった資料を他の仕事でも使えるのかどうなのか、は明確にしておかなければなりません。具体的にはどう書いておけばよいでしょうか?

 

講義資料の著作権の取り扱いについて定める

 

判断すべき事項は、講義資料の権利はどちらのものなのか(権利帰属)と、各当事者は資料をどう利用してよいことにするのか(利用方法)です。

   

この2点について明確にしたガイドラインを作成するべきです。資料等の帰属関係をあきらかにし、利用許諾の手続きについてもルール化してしまうのです。これはお互いにとってトラブルの予防策になります。

 

 

ガイドラインの作成には入念な根回しや検討、確認作業などが必要で、非常に時間がかかることがあります。そのためガイドラインの作成からやっていては間に合わないこともあるでしょう。

 

 

ガイドライン作成が間に合わないとき

 

 

そこで、ガイドライン作成と並行して「業務委託契約書」を作成し、講義資料の取り扱いに関する規定を入れるという対応が現実的です。

 

 

契約書に、

 

①講義資料の著作権は当事者のいずれに帰属するのか

②資料は他の仕事にも利用できるのか、できないのか

 

について書いておきます。たとえば

 

「講師が作成したスライドや配布資料等の著作権は、本業務実施後も講師に帰属する。」

 

ということにしたり、

 

資料を企業が利用したいなら、


「主催者は、別段の定めのない限り、著作権が講師に帰属する旨を明記した上で、◯◯◯◯を目的とする、甲の内部に限定した使用に限り資料等を利用することができる。」

 

というルールを書いておくわけです。
 

 

参考までに、主催者とセミナー講師との間の業務委託契約書のひな形をつくってみました。

 

こちらの雛形について、noteで最新版(2020年)も公開していますので、あわせて参考にしてください。

note.com

 

 

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    セミナー・研修業務委託契約


株式会社◯◯◯◯◯(以下「甲」という。)と講師◯◯◯◯◯(以下「乙」という。)とは、甲より乙に対する◯◯◯◯◯の研修業務(以下「本業務」という。)の委託について、次の通り業務委託契約(以下「本契約」という。)を締結する。

 

(総 則)
第1条 乙は、本契約に定めるところに従い本業務を受託するものとし、甲は、乙に対し本業務を委託し、乙に対しその対価を支払うものとする。
2 乙は、本契約及び本契約とともに締結される業務仕様書に従い本業務を実施しなければならない。

 

(権利義務の譲渡等)
第2条 乙は、本契約により生ずる権利又は義務を第三者に譲渡し、又は継承させてはならない。ただし、あらかじめ書面による甲の承諾を得たときは、この限りでない。

 

(再委託の制限)
第3条 乙は、本業務の実施を第三者に委託してはならない。ただし、あらかじめ書面による甲の承諾を得たときは、この限りでない。
2 乙が、前項ただし書の規定により業務の一部の実施を第三者に委託する場合には、甲は、乙に対して、受託者の名称その他必要な事項の通知を求めることができる。

 

(業務内容の変更)
第4条 甲及び乙は、必要があると認めるときは、契約相手方に対して書面による通知により業務内容の変更を求めることができる。
2  前項により業務内容を変更する場合において、履行期間若しくは契約金額を変更する必要があると認められるときは、甲、乙は変更後の履行期間及び契約金額について協議するものとし、当該協議の結果を書面により定める。

 

(一般的損害)
第5条 本業務の実施において生じた損害については、乙が負担する。ただし、甲の責に帰すべき理由により生じた損害については、甲が負担する。

 

(天災その他の不可抗力の扱い)
第6 条 暴風、豪雨、洪水、高潮、地震、地すべり、落盤、火災、戦乱、内乱、クーデター、テロ、侵略、暴動、ストライキ、政府による決定その他自然的又は人為的な事象であって、甲、乙双方の責に帰すべからざるもの(以下「天災その他の不可抗力」という。)により、甲、乙いずれかによる履行が遅延又は妨げられる場合、当事者は、その事実の発生後遅滞なくその状況を書面により本契約の相手方に通知しなければならない。また、甲、乙は、通知後速やかに天災その他の不可抗力発生の事実を確認し、その後の必要な措置について協議し定める。
2 天災その他の不可抗力により生じた履行の遅延又は不履行は、本契約上の義務の不履行又は契約違反とはみなさない。
3 天災その他の不可抗力の状況が発生した場合でも、乙は合理的に実行可能なかぎり、本契約に定める義務の履行を続ける努力をするものとする。
4 天災その他の不可抗力により乙が履行期間に業務を完了することができないときは、甲に対して遅滞なくその理由を明らかにした書面により履行期間の延長を求めることができる。この場合における延長日数は、甲、乙協議して書面により定める。
5 天災その他の不可抗力に起因して、乙に追加的経費が発生した場合、乙の請求を甲が調査のうえ、甲が負担すべき額は甲、乙協議して、書面により定める。
6 第1項により、乙が天災その他の不可抗力が発生したと確認した日から、そのために本業務が実施できない日が60 日以上継続した場合、甲は、少なくとも30 日前に書面により乙に予告通知のうえ、本契約を解除することができる。
7 前項により解除がなされた場合には、第8 条第2項の規定を準用する。

 

(支払)
第7 条 乙は、甲に対し業務仕様書に定める委託金額の支払を請求することができる。
2 甲は、前項の規定による請求を受けたときは、その日から起算して30 日以内に支払を行わなければならない。また、振込手数料は甲の負担とする。

 

(甲の解除権)
第8 条 甲は、乙の責に帰すべき事由により本契約の目的を達成する見込みがないと明らかに認められるときは、業務仕様書に定める研修実施期間中にその旨を乙に申し出た場合に限り、別途甲乙協議の上、本契約の一部を解除することができるものとする。
2 甲は、前項の規定により本契約の一部を解除した場合において、本業務全体のうち、既に乙による研修が実施されたものについては、当該研修実施部分に相応する委託金額を乙に対し支払わなければならない。
3 甲は、乙が次に掲げる各号の一に該当するときは、催告を要せず本契約を解除することができる。
(1)乙に仮差押又は仮処分、差押、競売、破産、民事再生、会社更生又は特別清算等の手続開始の申立て、支払停止、取引停止又は租税滞納処分等の事実があったとき。
(2)乙が、次に掲げる各号の一に該当するとき、または、次に掲げる各号の一に該当する旨の新聞報道、テレビ報道その他報道(ただし、日刊新聞紙等、報道内容の正確性について一定の社会的評価が認められている報道に限る。)があったとき。
イ 役員等(乙が個人である場合にはその者を、乙が法人である場合にはその役員をいう。以下本条において同じ。)が、暴力団暴力団員、暴力団関係企業、総会屋、社会運動等標榜ゴロ、特殊知能暴力団等(これらに準ずる者又はその構成員を含む。以下「反社会的勢力」という。)であると認められるとき。
ロ 反社会的勢力が経営に実質的に関与していると認められるとき。
ハ 役員等が自己、自社若しくは第三者の不正の利益を図る目的又は第三者に損害を加える目的をもって、反社会的勢力を利用するなどしているとき。
ニ 役員等が、反社会的勢力に対して、資金等を供給し、又は便宜を供与するなど直接的若しくは積極的に反社会的勢力の維持、運営に協力し、若しくは関与しているとき。
ホ 役員等が、反社会的勢力であることを知りながらこれを不当に利用するなどしているとき。
ヘ 役員等が、反社会的勢力と社会的に非難されるべき関係を有しているとき。
ト 再委託、物品購入等にかかる契約に当たり、その相手方がイからヘまでのいずれかに該当することを知りながら、当該者と契約を締結したと認められるとき。
チ その他、東京都暴力団排除条例平成23年東京都条例第54号)に定める禁止行為を行ったとき。

 

(資料等の取扱い)
第9 条 乙が作成したスライドや配布資料等の著作権は、本業務実施後も乙に帰属する。
2 前項に関わらず、甲は、別段の定めのない限り、著作権が乙に帰属する旨を明記した上で、◯◯◯◯◯を目的とする、甲の内部に限定した使用に限り資料等を利用することができる。
3 前項の規定は、本契約を解除した場合についても、これを準用する。

 

(秘密の保持)
第10 条 甲及び乙(乙が選任する再委託先を含む。本条において、以下同じ。)は、本契約の履行及び本業務の実施上知り得た情報(以下「秘密情報」という。)を秘密として保持し、これを第三者に開示してはならない。ただし、次の各号に定める情報については、この限りではない。
(1)開示を受けたときに既に公知であったもの。
(2)開示を受けたときに既に乙が所有していたもの。
(3)開示を受けた後に乙の責に帰さない事由により公知となったもの。
(4)開示を受けた後に第三者から秘密保持義務を負うことなく適法に取得したもの。
(5)開示の前後を問わず乙が独自に開発したことを証明しうるもの。
(6)法令並びに政府機関及び裁判所等の公の機関の命令により開示が義務付けられたもの。
(7)第三者への開示につき、甲又は秘密情報の権限ある保持者から開示について事前の承認があったもの
2 甲及び乙は、秘密情報について、本契約の履行及び本業務に必要な範囲を超えて使用、提供又は複製してはならない。
3 前二項の規定は、本契約が終了した場合においても引き続き効力を有するものとする。

 

(契約外の事項)
第11 条 本契約に定めのない事項又は本契約の条項について疑義が生じた場合には、甲乙協議してこれを定める。

 

(契約期間及び条件変更)
第12条 本契約の有効期間は、平成 年 月 日より平成 年 月末日迄とする。

 

(合意管轄)
第14 条 本契約に関し裁判上の紛争が生じた場合には、当該紛争の内容や形式如何を問わず、◯◯地方裁判所又は◯◯簡易裁判所を第一審の専属的管轄裁判所とする。


以上、契約締結の証として本書2通を作成し、甲乙記名押印の上各1通を保有する。


平成 年 月 日

 

[甲]

 


[乙]

 

ーーー

 

資料等の取扱いに関するところ(9条)は、実情にあわせてバリエーションを追加していくことができます。

 

 

たとえばお互いが納得の上で「共有」することもできるし、どちらかがどちらかに譲渡することも可能性としてはあります。お互いの交渉と納得の仕方次第なわけです。

 

講師にとっては不利? 

 

また、上記は単発の研修請負を想定していますが、今後も引き続き同じ講師にお願いするようなときは、これをベースに基本契約にしてしまって、ここの発注の都度個別契約が成立するという内容に変更しましょう。

 

 

上記例は委託する会社側の立場にたって考えていますが、講師の側からチェックした場合は、なにか改善すべき点はあるでしょうか?

  

たとえば「報酬の支払が遅れた場合」に遅延損害金を設定することがあります。

 

たとえば

 

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(遅延損害金)
第◯ 条 甲の責に帰すべき理由により、第◯ 条の規定による委託金額の支払が遅れた場
合には、乙は、未受領金額につき、遅延日数に応じ、年(365 日とする)5 %の割
合を乗じた額の遅延利息の支払を甲に請求することができる。

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のような条項です。

 

書式は自由に書きかえてこそ真価を発揮します。

ぜひ実情に合わせて修正してください。

 

 

 

業務委託契約書が間に合わないときは?

応急対応の方法

 

 

ではガイドラインどころか、さらに時間がなく業務委託契約書すら間に合わない」という場合がもしあったらどうしたらよいでしょう?

  

 

契約書の検討や確認にも時間がかかりますから、緊急の場合は、綿密な業務委託契約書は間に合わない事態もあり得ますね。

 

 

そんなときは、たった1ページでもいいので、対象となる講義資料の取り扱いにしぼった合意書を作成するべきでしょう。

 

 

合意書ならがんばれば一晩でつくれますよね。お互いに後で揉めないために権利帰属を明らかにするのですから、当事者双方にとって不都合はないはずです。

 

 

欠点は汎用性がないことですが、この際そんなことはいっていられません。

 

 

構成としては、講義資料の目録を含めた合意書にして、それらの権利帰属の確認と利用の仕方についてとりあえず一筆取り付けてしまうわけです。 

 

 

 たとえば

 

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研修資料の利用条件同意書

 

資料目録

1 (テキスト名、研修日、媒体など)

2 

3

 

利用条件

1.作成された研修資料、教材の著作権は、講師に帰属する。但し会社の費用負担にて作成した研修資料、教材の著作権は、会社に帰属する。

2.講師は、会社から個別の承諾を得ることなく、研修資料、教材を利用できるものとする。

3.会社は、研修資料、教材の利用にあたって、研修講義録、研修要旨およびこれらの翻訳、研修資料や教材の編集・加工を行うときには、あらかじめ講師に対して内容確認の機会を与えなければならないものとする。

4.会社は、研修資料、教材の利用にあたって、講師が著作権者である旨の著作権表示をおこなう。また、編集著作物を作成する際は、会社が編集者又は監修者である旨の編集著作権表示を加えて併記するものとする。

 

平成〇〇年〇〇月〇〇日

署名欄

 

-----------

 

 

のようなシンプルなものではどうでしょうか。当事者が合意した証拠が残っていれば、後の紛争を防ぐのに役立つはずです。

 

 

 

■ひな形活用の手順とポイント

 

 

ひな形はできれば複数あつめて、

参考にしながらご自身の契約に仕上げていくことが望ましいです。

 

手順としては、

 

①まずは、ワードなどにコピー&ペーストします

 

②内容をよく読み、自社(自分)にとっての権利が

もれなく書かれているかどうか確認します。

 

③同様に、相手方の義務がもれなく書かれているかどうか確認します。

 

④そのビジネス特有の仮定条件「もし、・・・だったら」を考えて、あらかじめ記載しておくと紛争予防に役立ちます。書き加えましょう。

 

⑤加除修正を加えたら、条文番号などがずれていないか、再度確認しましょう。

 

⑥最後に、レイアウトを整えましょう。

 

 

最適な契約書で、安心してビジネスをすすめたいですね!