契約書業務マニュアル

平成15年から契約書だけをつくり続けてきた契約書専門の行政書士

無料サービスの契約責任

昨日の続きであるが、 賠償責任が生じる道筋を 契約の観点からみていっている。

今回は 瑕疵担保責任についてである。

そもそも民法がいう 「瑕疵担保責任」とは どんなものだろうか?

ひとまず 売買契約で考えてみよう。

民法第 570条は、 売買の目的物に「隠れた瑕疵」があった場合に、 売主が損害賠償責任等の 「担保責任を負う」と定めている。

そして、 民法第 570条等の 売買契約に関する規定は、第559条によって 「売買以外の有償契約」にも準用される。 という構造をしている。

どう言う意味だろうか?

売買は有償契約である。

つまり、商品にお金を払うとき、 原理的には対象としている物の 価値に見合うものとして 「代金」額が決まるはずである。

ならばもし、 その商品になんらかの欠陥があって、 通常買主が予定するのが当然であるような性質が欠けていたならば、 買主が支払った代金と商品の価値とは つりあわないことになる。

ちょっと専門的にいえば、

「売主と買主との地位は均衡を失する」

状態になる。

もしも、 このような瑕疵を「知っていた」ならば、 買わなかったか、 あるいは 安い代金で買っていただろう。

このアンバランスを、

「瑕疵の不知によって引き起こされた給付・反対給付間の不均衡」

と考えることにより、

「事後において相当の補正を要求する権利」

を導いたわけだ。

つまり 簡単にいえば、

商品が期待通りでなかった場合は、 売主に一定の責任を負わせましょう、 そうすれば、 アンバランスが調整されるでしょう、

ということなんである。

では 瑕疵担保責任の効果、 つまり この責任を追及するとどうなるかというと、 売主にたいして「損害賠償」を請求できたり、 場合によっては「解除」が認められることとなる。

ようするに 不良品等に対して、 売主の責任を定めることで、 その買主がとり得る措置の根拠となるのである。

なんでそういうふうに 簡単に言わないかといえば、 この法律的責任の性質が、 無過失責任であることや、 (ちなみに債務不履行責任は過失責任である。) 権利の行使期間が民法では 「瑕疵を知ったときから1年」 と短く制限されていることなど、 (商法ではさらに短く6ヶ月) 複雑な要件をもっているから、 やはり、 法律上の特別の概念として 認識していただくほかないからである。

つまり、 これらの性質をあわせもつ、 総合的な概念を、 他に簡単な用語でいいかえようとしても、

(たとえば保証とか、 販売後の責任といったように シンプルな言葉に代えようとしても)

理解のしやすさと引き換えに、 やはりどこか 言い足りない部分がでてきてしまうだろう。

そのようなわけもあって、 法律用語では、 「不良品」などとはいわず、 欠陥を「隠れた瑕疵」と表現していることについても、 解説してみよう。。

民法第 570条でいう 「瑕疵」とはなにかというと、

簡単にいえば 不良とか、 キズとか、 欠陥のことであるが、

より正確には

「契約の目的物において 通常有すべき性質が欠如し、 当該契約の趣旨に適合しないこと」

である。

ただ それぞれの取引において、 何が「瑕疵」にあたるかは、 はじめから絶対的に決まっているものではなく、 その取引の趣旨などから 判断されるものである。

なぜなら、 たとえば新車の販売と、 中古車の販売とでは、 同じく売買契約ではあるが、 ある欠陥が瑕疵にあたるかどうかの判断においては、 中古車の方が許容範囲が広がってくることが、 予想される。

新車に期待する性能と、 中古車に期待するそれは、 若干の違いがあるはずだからだ。

ではまた、 「隠れた瑕疵」というときの、

「隠れた」

とはなんだろうか?

民法第 570条がいうところの 「隠レタル」とは、

「買主が取引上一般に要求される程度の注意 をもってしても発見できないような」

瑕疵、

あるいは、

「目的物に瑕疵のあることを知らず、 かつ知らないことにつき過失のないような場合」

の瑕疵をいうのである。

ようするに、 買ったときには分らない、 買う時点では普通わかりようもない欠陥のことだ。

さて こういう瑕疵について、 売主が負うべき責任を、 厳密に定めたのが瑕疵担保責任 というわけであるが、

瑕疵担保責任の考え方は、 なにも「売買契約」に限られない。

民法第634条には、

「請負契約」 において 「仕事の目的物に瑕疵がある場合には、 注文者は請負人に対し瑕疵修補や 損害賠償を請求することができる」

との規定があるし、

また、 民法第559条では、

「売買契約に関する民法の規定は 売買以外の有償契約に準用される」

と規定している。

よって、 売買に関する担保責任(民法第 570条)は、 請負契約についても準用される。

さてようやくここで 無償の契約でも 賠償責任を負うかどうかの話になるのだが

昨日取り上げた例を引き継いで、 あるソフトウェア製品の販売を イメージしてみる。

そのソフトの内容部分は、 「プログラムの著作物」 といえそうであり、

また その外装部分としての、 CD-ROM等の媒体については、 「プログラムの著作物の複製物」 といえるであろう。

さて これが有料で販売されていたケースであれば、 もしCD-ROM(プログラムの著作物の複製物)に キズがついているといった明白な「瑕疵」があるなら、 事業者はこれまでの説明どおりに、 民法第570条に基づく 瑕疵担保責任を負うこととなるだろう。

ところが、 無償契約だったら どうなるか。

そもそもタダで配っていたような場合や、 有料だったとしても、 CD-ROM等の媒体に記録された ソフトウェアについて、 その使用許諾契約部分が 仮に無償契約だったらどうなるか。

結論としては、 事業者と消費者の間の 「ソフトウェアの使用許諾契約」については、 仮に無償契約と考えれば、 瑕疵担保責任規定(民法第 570条等)の準用がないから、 事業者は瑕疵担保責任を負わないこととなる。

ところで最近は、 CD-ROM自体、 個人的にはあまり目にしない。

たとえばインターネット経由で 販売者のホームページにアクセスして、 ダウンロードする購入方法をしているのだ。

これもおそらく プログラムの著作権者(事業者)と 消費者との間の 「ソフトウェアの使用許諾契約」 になるだろう。

そしてこの場合も、 それが無償契約であれば、 瑕疵担保責任規定(民法第 570条等)の準用がないから、 プログラムの著作権者(事業者)は 瑕疵担保責任を負わないものと考えられる。

もちろん、 有償でダウンロードして 使えるようになるものもあるから、 この場合は有償契約として、

民法第559条により 民法第 570条等の規定は売買以外の有償契約にも 準用されるから)、

事業者は 瑕疵担保責任を負うことになろう。

賠償責任を生じる原因は、 なにも瑕疵担保責任に限らないので、 無償の場合はまったくなんの責任も 負わないという論理にはならない。

ただ、今回は 消費者契約における瑕疵担保責任 という枠組みにきりとることで、 話を単純化してみた。

一応の結論が出たところで、 これを実務にどう生かすかであるが、 瑕疵担保責任は一般に任意規定であるから、 契約書で明確に合意することで、 事業者がこれを免責することができる。

すでに免責の論理とテクニックについては 数日前から詳しく確認してきているが、 今回はやはり瑕疵担保責任にこだわって、 興味深い条文があるので紹介したい。

すなわち 消費者契約法が、 その第8条五号で、

「消費者契約が有償契約である場合において、 当該消費者契約の目的物に隠れた瑕疵があるとき (当該消費者契約が請負契約である場合には、 当該消費者契約の仕事の目的物に瑕疵があるとき。 次項において同じ。)に、 当該瑕疵により消費者に生じた損害を賠償する 事業者の責任の全部を免除する条項」

の無効、

つまり、 有償契約をしておいて、 瑕疵担保責任を全部免除するような 条項の規定は 「無効となる」と定めておきながらも、

同条第2項で、

「当該消費者契約において、 当該消費者契約の目的物に隠れた瑕疵があるときに、 当該事業者が瑕疵のない物をもって これに代える責任又は当該瑕疵を修補する責任を 負うこととされている場合」

にはこれが適用されない、 つまり「無効とならない」としていることは、 非常に興味深いことではないだろうか。

つまり、

瑕疵担保責任を全部免責すること」

については、 趣旨に照らして原則無効としているのだが、 一方で、 事業者が

「瑕疵のない物と取り換える責任」

「瑕疵を修補する責任」

を負う旨定めているのならば、 消費者には「救済の手段」が残されていると考えられるから、 8条5号にある「責任の全部を免除する条項」を 無効とはしないこととしているのである。

消費者側としても、 結果的に救済が受けられれば それで済むことが多いと思われるから、 実質的な条文起案の例として、 非常に参考になる部分である。