契約書業務マニュアル

平成15年から契約書だけをつくり続けてきた契約書専門の行政書士

パロディは著作権の侵害か?

著作権の管理に関する条項は、
ビジネス契約書でよくあるもののひとつだ。

たとえば
あるデータや制作物の権利が、
当事者のどちらに帰属するか、などを、
契約書で確認しておく必要がよくある。


あとで綱引きにならないためだ。


著作権とは
簡単にいえば、
自分の作品なんかを勝手に利用されない権利のことだ。

ところで
ひとくちに「著作権」といっても、
実は何種類もある権利の総称である。

複製権、上演権、演奏権、
上映権、公衆送信権口述権、展示権、頒布権、譲渡権、貸与権
翻訳権、翻案権等、
二次的著作物の利用権、公表権、同一性保持権、氏名表示権、
・・・といった具合だが、
これらはようするに利用のされかたのバリエーションをあらわしている。

著作権法によれば、
著作物とは、
「思想又は感情を創作的に表現したものであって、文芸、学術、美術又は音楽の範囲に属するもの」
と定義されるから、
たとえば小説にしろ、脚本にしろ、
講演や、もちろん音楽(楽曲と歌詞)や、
舞踏(振り付けなど)も著作物だ。

何が著作物になるのかは、
意外と重要で、
イメージして覚えておきたい点である。

美術(実用品は除く)、
建築、図形、映画(動画も)、
写真、コンピュータプログラムも著作物にふくまれる。

あるていど「オリジナル」なものであれば、
ほとんどの作品は著作物になりうる。

逆に言えば、
「オリジナルでないもの」は著作物ではないといえる。

だから理論的には、
マネをした作品に著作権はないことになる。
ありふれた表現、事実やデータも、著作物ではないといわれている。

著作権があるということになれば、
その著作物について
「勝手な利用を制限する」ことができる。
これが著作権とよばれるものだ。

たとえば自分で書いた文章だったら、
自分に著作権があるため、
それを自分でどのように利用してもいい。

それら「利用してもいい」権利は、
他人から見れば、「利用してもいいですか?」
などと許可を求めなければならないものである。

これらのやりとりや、
権利自体は目には見えないから、
契約書でもないと、
客観的にはやりとりがむずかしくなる。


当事者が自覚的にやりとりできているときは、
まだいいのだが、
著作権がむずかしいのは、
そもそもマネをしたのかしていないのか、
当事者の認識がよく食い違うからだ。

たとえば
コンペに企画を出し、
それは採用されなかったのに、
あとで他のプロジェクトに
良く似た企画がつかわれていた、とか、

イデアと著作物とが、
認識がごっちゃになっていて、
当事者もよくわからずに、
取扱いがうまくできなかったりとか、

偶然、似たようなモチーフのイラストが
発表されたとか、
似たようなアングルで写真がとられていたりして、
はたしてどこまでがマネで、
どこまでがオリジナルなのか、

といった話は無数にある。

パロディ作品についても、
マネなのか、
たんなる引用にすぎないのか、
昔から議論があるけれども、
いまいちはっきりしない。

たいていは引用とは認められないか、
ケースバイケースの判断ということになってしまう。

そもそも
オリジナリティというものを、
厳密に、
客観的に定義することはむずかしいと思う。

理屈としてはできたとしても、
実際に似ているとか似ていないというのは、
主観的な問題だ。

つまり、他人の判断にまかせておくことができないので、
契約書でカバーできるところは、
できるだけ明確にしておく必要があるのだ。

たとえば権利帰属を確認しておく。
プログラムの発注をした会社は、
そのプログラムの著作権が、
会社に買い取られるのか、
それとも制作者に残るのか、
といったことも記載しておく。

発注者というのは感覚的に、
お金を支払ったら自動的に、
成果物が自分のものになると
錯覚しがちである。

クリエイター側も、
あまりそこらへんに無頓着だと、
あとで損をすることもある。

著作権の帰属に関して、
実際の契約書ではどのように規定されるか、
例をのせておく。

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規定例:
本件納入物に関する著作権著作権法第27条及び第28条の権利を含む。以下同じ。)は、乙が従前から保有していた著作物の著作権を除き、甲より乙へ当該個別契約に係る委託料が完済されたときに、乙から甲に移転する。尚、著作権移転の対価は、別に定める場合を除き、委託料に含まれるものとする。
2 甲は、著作権法47条の3(プログラムの著作物の複製物の所有者による複製等)に従い、前項の規定により乙に著作権が留保された著作物については、本件システムを利用するために必要な範囲内で複製、翻案することができるものとし、乙は、かかる利用に対して著作者人格権を主張しないものとする。

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ようするに、
納入されたものについては基本的には
発注した人のものになるよ、
といっているのである。

しかし、
代金が払われたときに、
著作権が移転するといっている。

つまり、
逆に言えば
代金が払われるまでは、
著作権は移転しないぞ、
ともいっているわけだ。