契約書業務マニュアル

平成15年から契約書だけをつくり続けてきた契約書専門の行政書士

契約書は、3か所読めば9割分かる! その5(今すぐ契約解除できる?)

契約書専門の行政書士の竹永です。

 

ここで、3か所読みの具体的な方法について説明します。

  

この3か所だけは絶対チェックしよう

 

チェックポイントは、次の3点です。 

 

 

状況説明を読もう(誰が誰に、何を、いくらで)

解除を読もう(どんなときに解除できる/されるのか)

損害賠償を読もう(どの程度賠償してもらえるか/させられるか)

 

 

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前回は①を説明しましたので、二番目のチェックポイントです。

 

②の解除の条件(どんなときに解除できる/されるのか)

 

継続的な契約をどのようなときに解除できるのか、どのように解除するのかは重要なチェックポイントになります。

 

自社は解除できるか?

 

真っ先に確認すべきポイントは「自社の解除権」です。継続的な契約を結んでしまってから、あとで解除したくなって悩む方は意外と多いからです。

 

 

一般的な解除条項は、「甲又は乙は」とか「委託者又は受託者は」のように、お互いにお互いを解除できるよう規定しています。しかし、「甲は」「委託者は」のようにいずれか一方だけに解除権を定めているものもあります。そこで、自社からは解除できるのかどうかを確認しましょう。

 

そもそも解除とは?

 

「解除」とは「契約を白紙に戻す」ということです。理論上は初めから契約しなかったことになり、当事者は債権債務の関係から離脱します。

 

せっかくの契約がみだりに解除されると、安心して取引ができません。そこで、一度は契約という形で約束を完成した以上は、勝手に解除することはできないのが原則です。

 

ただし、相手が契約を守らない(債務不履行)ときにまで、契約を維持しなければならないのでは合理的ではありません。よって、相手方の状態や行為に原因がある場合は、契約を解除できるのが常識です。

 

つまり「解除できるかどうか」は、契約の当事者にとって、あらかじめはっきりさせておくほうが便利なのです。

 

契約書で、自社はどのような理由であれば解除できるのか、その解除はどのような手順でおこなうのか、特に理由は無くても解除できるのか、の三点について確認しておくとよいです。これら点がはっきりしていれば、いざというときに解除できるのかどうかと悩む必要がなくなります。

 

 

相手の約束違反の場合の解除

 

一般的な解除条項の例文を見てみましょう。この例文では、「催告しなくても」解除できると書いてあります。

 

第〇条(解除)

委託者又は受託者は、相手方に次の各号のいずれかに該当する事由が生じた場合には、何らの催告なしに直ちに本契約の全部又は一部を解除することができる。
① 本契約又は個別契約への違反、重大な過失又は背信行為があった場合
② 支払いの停止があった場合、又は仮差押、差押、競売、破産手続開始、民事再生手続開始、会社更生手続開始、特別清算開始の申立があった場合
手形交換所の取引停止処分を受けた場合
④ 公租公課の滞納処分を受けた場合
⑤ 解散、会社分割、事業譲渡又は合併の決議をした場合
⑥ その他前各号に準ずるような本契約を継続し難い重大な事由が発生した場合

 

 そもそも民法の規定によると、「相手方の債務不履行」を理由に解除するためには「相当期間を定めて履行の催告をすること」が必要とされています。ようするに、相手が約束を破った場合に、契約を解除するには、一定の期間を決めて予告してあげてから解除ができるということです。

 

しかし、実際のビジネスでひとたび契約を解除したいとなったら、一刻も早くしたいことが多いものです。そこで、契約書では「催告しなくても解除できる」と規定することがよくあります。

 

そしてこの条文には、どんな場合に解除できるか(解除事由)が書いてあります。つまりこれらの解除事由に該当した場合には「何らの催告なしに」契約を解除できるといっているのです。

 

読んでみると、主な解除事由は買主の財産状況が悪化した場合であり、これは代金の支払が滞ると売主にとってリスクになるので、予兆を感じた売主が早めに解除できるようにしています。

 

また、売主だけでなく買主も「重大な過失又は背信行為」などの、相手方の信用が失墜したといえるような重大なトラブルがあった場合には、この条文を適用して解除することが考えられます。ただし何が「重大な過失又は背信行為」にあたるのかは解釈の問題になるため、過去の経験などから具体的に懸念される出来事がある場合はより詳細に解除事由を規定したいところです。こういう細かいところにこだわれるかどうかが、契約書のクオリティを高めます。

 

催告したうえで解除するメリット

 

相手に猶予を与えず、無催告で解除できることが、スピーディーな解除に役立つのも事実ですが、一方で「催告したうえで解除」することも必ずしも不利とは限りません。付随的な義務の不履行や、事務手続き上のわずかなミスなど、契約違反がそれほど重大でない場合には、催告して一定期間待ってみることで、解除するかどうか判断してもよいわけです。そこで、「催告付き解除」手続きについても契約書に併記することがよくあります。

 

民法では、催告は「相当期間を定めて」おこなうものとしていますが、具体的に相当期間が何日間であるかは決まっていないので、いざ催告をしようとしたときになって、どれくらいの日数があればよいのか迷い、結果として長期間解除を待たなければならない可能性があります。そういうときのために催告期間をたとえば10日などと決めて、契約書に書いておくことはメリットがあります。「相手方に催告したにもかかわらず10日以内に是正されない場合は解除することができる。」という規定にするわけです。

 

わずかな契約違反でも解除できるのか

 

相手方に契約違反があったときは契約を解除できるとされていますが、たとえば製品を100個注文したのに99個しか届かなかったという理由でも、契約を解除できるのでしょうか?

 

債務不履行に基づく解除について、判例上は、軽微な契約義務違反の場合や契約目的の達成に必須ではない付随的義務違反の場合に契約の解除が認められないという実態があり、改正民法でも明文化(改正民法541条ただし書)されています。

 

具体的に言うと債務不履行が契約及び取引上の社会通念に照らして軽微であるとき」は解除できません。そこで、もし、わずかな違反といえども当事者にとっては重要な場合、たとえば先ほどの製品の例でいうと、100個そろってはじめて使用でき、99個では発注した意味をなさないというような性質の業務だった場合には、わずかな数量の不足も解除事由に含めるといった対応が考えられます。このあたりは具体的な業務内容やシチュエーションにあわせて、契約書をカスタマイズしていかなければなりません。

 

解除が制限されていないか?

 

契約違反や、財務状況の悪化など、合理的な理由があって解除する場合の規定をみてきましたが、他のサービスにのりかえたくなったなど、特に解除にあたいする理由(解除事由)がなくても解除したいことはあると思います。委託者が自らの都合により任意に契約を解除(いわゆる自己都合解約)したいケースです。

 

もちろんその場合は相手方に解除通知をして契約を解消すればよいわけですが、サービス提供側はみだりに解約されたくないため、一定の解約ルールを設定することがあります。たとえば賃貸借契約などでも、退去する場合は数か月以上前に申し出なければいけないといった、予告期間の規定例があります。即刻退去したい場合は、その予告期間分の賃料を支払わなければなりません。これを見落とすと、いざ解除したいとなったときに、思わぬ出費が待っています。

 

よって、「いつでも」解約できると規定されているのか(「委託者はいつでも個別契約を解約できる。」)、あらかじめ「〇日前」とか「〇か月前」などと猶予期間を定めて通知することで解約できる(「委託者は前月までに通知することによって個別契約を解約できる。」)ことになっているのかをよく確認しましょう。

 

委任契約はいつでも解除できるのか?

 

たとえば企業などは税理士事務所と顧問契約(一種の委任契約)をして、経理上のアドバイスをもらっていることが多いと思います。では、会社側は、その税理士さんと「なんとなく合わないから」といった理由で、途中で契約をやめることはできるのでしょうか? 

 

これについても原則は、契約書に解約のルールが書かれていればそれに従うことになります。たとえば「〇か月以上前に申し出ないと解除できない」とか、そういうルールが契約として明確にあれば、まずはそれに沿って解除しなければなりません。

 

では、委任契約において、こうした解除について特に契約書に書かれていなかった場合はどう判断すればよいでしょう? 委任契約の解除についてぜひ知っておきたい法律として、民法651条というものがあります。

 

民法651条には、

  • 委任は、各当事者がいつでもその解除をすることができる。
  • 当事者の一方が相手方に不利な時期に委任の解除をしたときは、その当事者の一方は、相手方の損害を賠償しなければならない。ただし、やむを得ない事由があったときは、この限りでない。

と書いてあります。

 

ようするに、この顧問契約(準委任契約)は、当事者の一方から(どちら側からでも)理由なく解除できることになります。なぜこのような結論になるかは、委任契約は、一般に当事者間の強い信頼関係を基礎として成立し存続するものだからであると説明されています。ようするに信頼関係がなかったら本来成り立たない契約だから、やめたくなったら解除してもかまわないということですね。

 

民法の規定がそうだとしても、契約書によって任意に解除できるかどうかを定めておくことは、当事者間の認識を確認しておくためにメリットがあります。ここが最初にすれ違っていると、解除の場面でもめてしまいますので、非常に重要です。継続的な契約の解除は、やはり事前に良く確認しておきたいところです。

 

 「解除」の読み方のポイント

  • 自社はどのような理由であれば解除できるのか
  • その解除はどのような手順でおこなうのか
  • 特に理由は無くても解除できるのか 

 

 

 つづく

 

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行政書士 竹永 大 

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