契約書業務マニュアル

平成15年から契約書だけをつくり続けてきた契約書専門の行政書士

契約書は、3か所読めば9割分かる! その3(契約書の書き方のルール)

契約書専門の行政書士の竹永です。

 

引き続き、「3か所読み」実践のために。

 

 

 

契約書の「ことば」は難しい!

 

契約書の本質は意外とシンプルです。ではどうして契約書は難しいのか? 原因のひとつはことばづかいにあります。独特の文章(いいまわし)や、形式的なルールがあるために、堅苦しく見えます。

 

契約書には、感覚的な表現はほとんど使われません。必要な事実や事項だけを具体的に、正確に伝えるための文章が求められるためです。よって「こうだと思う」「こういうことを目指している」「こうだったらいいな」というような、当事者の意見や願望などは通常は書かれません。

 

契約書は誰が読んでも同じ意味に読めるのが理想なので、表現力よりも正確性が重視されます。普通の文章とは違った印象になって当然ですね。「契約書のことば」のうち絶対におぼえておきたい、頻出表現を挙げます。

 

 

ひとことの差が大きな違いになる

 

(1)抽象的でなく、明確に表現する


誤解がうまれないように、一義的な表現をするのが「契約書のことば」の基本です。いわゆる「業界用語」、一部のみで通用するような専門的な用語は使わないか、使わざるを得ない場合は明確に定義してから使用します。

 

また、複数の意味にとれる言葉や、含みを持たせた言い方ですと、後で解釈の疑義を生じるので好ましくありません。たとえば「簡単なやり方」、「複雑なもの」、「遠いとき」、「高い場合」などといった、相対的な表現は避けます。安易に解釈の余地を広げる単語(「・・・等」「原則として・・・」)も、できるだけ使わず、明確に言い切るほうが良いです。抽象的でなく、明確にすることがポイントです。

 

ではたとえば「交通費は依頼主が負担すること」と書いてあったとします。この書き方に何か問題はありますか? 

 

そのままでも日本語として間違いではありませんし、交通費を払ってもらう側の当事者からすれば問題ないように思います。

 

ただ、支払う側である依頼主からすると、「交通費」とあるだけでは、実際にいくらの支払が必要になるかわかりません。交通費の解釈が拡大されて、思ったより高額になってしまうかもしれません。そこで、依頼主は「どこからどこまでの交通費なら負担するのか」を決めるか「交通費の上限」を決めたりして、十分に明確な表現となるように修正し指示するでしょう。

 

「依頼主は、交通費を支払うものとする」

→「依頼主は、本契約の〇〇の業務に必要な、〇〇から〇〇までの交通費を、一日あたり〇〇円を上限として、受託者に対し支払うものとする」

 

 

 

(2)くりかえしでも省略しない

 

普通の文章でしたら、文脈から判断できることは省くことができます。主語もわざわざ繰り返さないでも、だいたい意味は通じます。

 

たとえば、職場の同僚が、

 「僕、普段は自転車だけど、今日は電車で来たよ。」

 と話しかけてきたとして、かなり省略の多い文ですが、シチュエーションから意味は通じます。このように通常は、細かいところまでいわないし、いちいち主語をくりかえすことはしません。

 

もし契約書にするなら、

 

私は、普段は自転車を用いて私の自宅から、私の勤務地であるこの会社(住所)前までを通勤していますが、本日(年月日)においては、普段と異なり、私は、私の自転車ではなく、電車に(○○線○○駅より)乗車することにより、・・・」

 

のように、主語や目的語をその都度補うことになるでしょう。これも誤解を防ぐために重要なテクニックです。

 

例 「乙に支払う」 → 「甲は、乙にたいして対価を支払う。その方法は、・・・」

   

 

(3)接続詞のルールを意識する

 

接続詞も、とても重要です。

以下は頻出する接続詞のルールです。


①「又は」と「若しくは」

 

 契約書には「又は/若しくは」という接続詞が頻繁に出てきます。

 「Aか、Bか」といいたいときは、「A又はB」を用います。

注意したいのは、このとき「A若しくはB」とはいいません。

 

なぜなら「若しくは」という接続詞は、複数の要素を接続する場合の、意味上大きな接続と小さな接続が必要なときに使うからです。

 

たとえば「Aか、Bか、Cか」といいたいときであっても、単純に並べてどれかといいたいときはやはり又はを用いて「A、B、又はC」と最後に「又は」を使って接続します。

 

「若しくは」をつかうのは、もう一段階の接続があるときです。つまり、AとBという接続があって、そのまとまりと、Cとを接続したいときに「(A若しくはB)又はC」=と、小さな接続の方には「若しくは」を使うことになっています。

 

たとえば同僚の三人のうち誰かが行く、といいたいときと、同僚二人と上司の三人のうちの誰かが行く、といいたいときとでは、ほんの少し表現を変えるわけです。

 

たとえば「同僚のAとB、それから上司のCさん」のなかで誰かが行く、みたいな文章があれば、

 

「A(同僚)、B(同僚)又はC(上司)」が行く

 

といえそうですが、同僚と上司という大きな意味のグループも意識するなら、

 

「A(同僚)若しくはB(同僚) 又はC(上司)」が行く

 

と表現するわけです。


②「及び」と「並びに」

 「及び / 並びに」も同様のつかいかたをします。

 

「A、B、C及びD」=単純に複数のものであれば最後に「及び」を使って接続します。そして、又はの時と同様に、意味のまとまりがふたつになるときは、大きな接続には「並びに」をつかいます。


「(A及びB)並びにC」=小さな接続には「及び」を使う。大きな接続には「並びに」を使う。

 

「及び」がないところで「並びに」は出てこないということを覚えておくと良いです。

 

 

③「その他」と「その他の」

 

「その他の」は前にあるものが後に続くものの例示であるときに使います。これにたいして「その他」といった場合は単純に並列の関係であり、例示の意味はありません。

 

たとえば「Aさんその他の良い人。」といえば、良い人の例示としてAさんを挙げていることになりますから、Aさんのことを良い人の例としていることになります。すなわちAさんは良い人だということになります。

 

これにたいして「Aさんその他良い人。」だと、そうした例示の意味はなくなるため、単純に列挙しただけの意味となります。よってAさんは良い人かもしれないし、そうでないかもしれないことになります。

 

「Aさんその他の良い人。」 = Aさんは「良い人」という意味になります。

「Aさんその他良い人。」  = Aさんは必ずしも「良い人」とは限りません。

 

 

誰のハンコをもらうべきか

 

 

①社長のハンコがない契約書は有効?

 

契約書に署名をするとき、当然ながら誰の名前でもいいわけではありません。つまり契約を締結する権限を持った人の名前である必要があります。

 

会社の契約なら、会社を対外的に代表するのは代表取締役ですから、原則として代表取締役に記名捺印していただく必要があります。(ちなみに署名というのは自分で手書きすることをいい、記名というのはパソコンなどを利用して活字で名前を印字することをいいます。)

 

「うちの会社では必ずしも代表取締役がサインしていないよ」という方もいると思います。企業も規模が大きくなると「担当部長名による記名捺印」も(職務権限規程等による裏付けを整えたうえで)よく行われているからです。

 

これは有効なのでしょうか? あなたがお客さんから契約書をもらうときに、相手の会社の部長さんの記名だったらどう対応しますか?

 

まずいえることは、原則としては、やはり代表取締役の記名押印がベストです。なので、代表取締役の記名押印ができるときは、迷いなくそちらを選択してください。

 

しかしながら、代表取締役以外の取締役や部長へ決裁権を委任することは、大企業を中心によくあることでもあります。そして、会社法14条1項は「事業に関するある種類又は特定の事項の委任を受けた使用人は、当該事項に関する一切の裁判外の行為をする権限を有する」と規定しています。(同じく、会社法には、表見代表取締役や、表見支配人といった制度もあります。)

 

つまり、代表権があると信じて契約を締結した場合は、代表権があったものとして扱われます。よって契約も有効に成立できます。(加えて、会社法14条2項は「使用人の代理権に加えた制限は、善意の第三者に対抗することができない」とも規定しているので、万が一部長さんの権限が実は制限されていたとしても、それを知らないで契約した場合は、有効とされる可能性が高いといえます。)

 

事情があって部長さんなどの名義で記名押印がされていた場合は、この理屈を知っておくと安心できると思います。


ハンコの名前

 

契約書に押すハンコには、署名欄に押す実印以外にも、押印の目的によって名前がついています。


実印(じついん)

まず契約書の署名欄には実印を押印します。繰り返しになりますがビジネス契約でああれば、代表取締役の記名に加えて「法人代表印」を押印していただくのが原則となります。

 

契約書に実印が用いられるのは、印鑑証明書によって当事者を特定できるからです。ところで署名欄には代表印に加えて、角印も一緒に押す会社もあります。厳密にいえば法人代表印のみで足りる(角印は必要ない)のですが、とはいえ角印を無理に排除する明確な理由もないため、そのまま押していただいてかまいません。

 

契印(けいいん)

 

契約書が2ページ以上になる場合は、ホチキスで綴じ、差し替えられないように「契印」します。(ホチキスで綴じられた契約書には、全ページ間に両当事者分の契印が必要です。)契印位置は、契約書を綴じているホチキス針の位置と重ならないように気を付けてください。押しづらくなりますし、ハンコを傷める原因となります。

 

ただし契約書がきちんと製本テープで綴じてある場合は、ページ間への契印は必要ありません。この場合は、製本テープと用紙との間にまたがるように、契印を押します。表面に契印するのか、裏面に契印するのかは諸説ありますが、ともかくいずれか一方の面のみで結構です。

 

蛇足ですが、製本テープを用いて契約書を綴じる場合、必ず製本テープの「天地」も綴じる決まりがあります。つまりテープを貼るだけでなく、上下にもふたをするようにテープを折り曲げます。まれにここが開いていることがありますが、差し替えを防ぐという製本テープの役割からすると、明らかなミスとなります。

 

消印(けしいん)

契約書に印紙が貼ってある場合は、その印紙を貼った後で必ず消印(けしいん)を押します。消印がないと、印紙税を納め忘れているのと同じことになるので注意が必要です。過怠税というペナルティの対象になってしまいます。

 

たまにこの印を「割印(わりいん)」と呼ぶ方がいますが、割印は二つの書類が関連していることを指しますので、印紙が使用済みであることをあらわす「消印」とは違う概念です。消印は、印紙が使用済みであることを名前で示せればよいため、実印でなくても構いませんし、両当事者分無くても足り、手書きやゴム印でもOKです。

  

 

 

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行政書士 竹永 大 

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