契約書業務マニュアル

平成15年から契約書だけをつくり続けてきた契約書専門の行政書士

フリーランスのデザイナーさんが代金未払いの泣き寝入りを防ぐには? 

契約書専門の行政書士の竹永です。

 

起業家、経営者、フリーランスの方が、 契約書で困らないようにアドバイスをしています。

 

フリーランスのデザイナーさんが代金未払いの泣き寝入りを防ぐには?

 

フリーランスのデザイナーさんが、人から依頼されてロゴをデザインしたのに「イメージと違った。」「やっぱりいいや」みたいなことをいわれ、結局代金を支払ってもらえなかった、みたいな話をTwitterで目にしました。

 

こういう話、意外と多いですね。裁判などすると費用の方がかかってしまうため、泣き寝入りになってしまうこともたくさんあるようです。

 

それで思い出したのですが、以前、個人的にちょっと気になってフリーランスによくある悩み」を知り合いに聞きまくっていた時期があったのですが、みんな似たようなことを挙げてきました。

 

 

そのときの話を集約すると、よくある悩みとして

 

 

集客できない

ナメられる

ギャラをとりはぐれる

場所がない

差別化ができない

むやみに値切られる

安定しない

休みがとりづらい

 

 

あたりが圧倒的に多かったです。

 

上記をみても、やはり代金請求がらみは共通項のようでした。

 

原因としては、フリーランス側が、お金を請求することに心理的なブレーキを感じていることもあるかもしれませんが、

依頼する側も、プロに接するときは、みだりにフリーランスの時間を奪わないように気を付けてもらいたいものですよね。

 

 

 

 

じゃあどうすればいいのか?

 

「じゃあどうすればよいのか」ですが、結局は先にフリーランスの方から契約書をだすしかない」気がします。

 

 

契約書があれば「私は何をいくらでやっています、私はプロです。」というメッセージが伝わるはずだからです。

 

そうやって、この人はプロでありすなわち「有料の人」なんだと、相手にもちゃんとわかるようにしてあげないと、世間は意外とその辺を知らないものです。

 

 

結果として、無料でやってくれるものと思われたり、下手すると「やらせてあげている」とか、むしろ頼んであげたら「宣伝になって喜ぶだろう」「よい経験になるから」なんて考えられていることさえあります。頼む側と頼まれる側の大きなギャップです。

 

こうしたギャップがある以上、面倒だけれどデザイナーさんたちも、最初から仕事であると認識してもらう工夫が必要かもしれません。

 

契約書はそのためのメッセージ、一種の「踏み絵」の意味もあります。あと、デザインにとって大事な「著作権」のルールなどは、複雑なのでやはり契約書くらいないと、現実的に守ってもらうことは厳しいでしょう。

 

いくら口頭で「買い取り」だの「利用許諾」だのと言っていても、ほとんど理解、記憶されないと思いますので、いざトラブルになってしまったときは、こちらの反証材料として決め手にかけると考えられます。

 

とはいえどうしてもまだ契約書がないときはどうすればいいか

 

契約書のいいところは多いわけですが、問題は、契約書をつくるのは意外と大変だということ。

 

 

もちろん、今やネットのあちこちにサンプルはあります。あるのですが、サンプルはやはりサンプルにすぎません。実際に自分に合った完璧な契約書をつくろうとすると結構時間がかかります。ご自身のビジネスをよく理解しなければ文字化できないからです。

 

 

また、契約書は自分だけでなく、相手がそれを理解するための時間もかかります。ここを忘れがちです。それに、なにか条文内容について質問されるかもしれません。その際はちゃんと答えられる必要があります。すんなり締結できるように、契約実務に慣れる必要があるということです。

 

もちろん、これは名刺交換と同じで慣れの問題であり、しっかり学べば乗り越えられる課題ですが、どうしても今すぐは無理な場合は、せめて発注書(申込書)などを残すのもひとつの方法です。

 

つまり、自分あての発注書(や申込書)をつくって、相手に「ではお手数ですがこれで発注をお願いします」ということで、証拠を残すわけです。

 

そんなことを考えたので、ここで発注書(申込書)のそもそも論についておさらいです。

 

そもそも「発注書」とは?

 

発注書とは読んで字のごとくなのですが、注文をする者(つまりお客さん)からされる側(この場合デザイナーさん)に対して交付される、「契約の申込事実を記載した書類」のことです。

 

タイトルは発注書、注文書、依頼書などの名前が多いですが、自由に決めてももちろんOKです。たとえば「ご注文の確認書」や「ロゴ作成サービス申込書」などのタイトルでも、同じ意味があります。自分がしっくりくる表現にしてしまえばよいのです。

  

発注書は契約書ほど内容が複雑ではありませんから、具体的な条件面を定義することができませんが、その分契約書よりは気持ちの面でハードルが低いのではないでしょうか。

   

契約書ほどではなくても、「発注書」の発行や「申込書」への記入があれば、さすがに相手も無料とは考えず、責任感をもってご依頼をしてくれるはずです。

 

そして発注書が残っていれば、契約の申込事実の証拠が残りますから、万が一代金を支払ってもらえなかった際は、債権の主張に使える証拠になります。

  

発注書には印紙を貼るのか?

 

発注書のフォーマットはネットで検索すればたくさん出てきますので、あえて説明する必要もないでしょう。 

 

比較的簡単に作成できる書類であり、通常は課税対象になりません(つまり原則として印紙をはらなくてもよい書類です。)ただし、これが単なる契約の申込みではなく、請負契約書として扱われる場合は、印紙が必要になります。

 

つまり、

 

  • 発注書は印紙を貼らない
  • でも、(請負等の)契約書には印紙を貼る必要がある
  • たとえ発注書というタイトルでも、 内容が請負契約書だと、印紙を貼る

 

という考え方をします。

 

では、どのような発注書だと契約書として扱われるのでしょうか?

 

理屈を簡単にいえば、タイトルが発注書や申込書その他であっても、「契約の成立等を証明する目的で作成されている書類」は、契約書としてあつかわれることになります。契約書として扱われる結果、課税文書となり、収入印紙を貼る場合があります。

 

 

どういう場合に印紙を貼るのか?

 

じゃあどういうときに発注書が「契約の成立等を証明する目的で作成されている書類」になるのか(=印紙を貼るのか)というと、ひとつめは、契約に基づく発注書の場合です。

 

 

(1)契約に基づく場合=印紙を貼る

 

前提として当事者間ですでに何らかの契約書や規約があって、それに基づく申込みであると書かれているような場合です。あらかじめ定めたルールに沿って、その発注書や申込書を出すことによって契約が成立する、という流れになっていると、その書類が契約の成立を決定づけるものになるので、契約書としてあつかわれます。

 

つまり、発注書に、

 

「〇〇約款承認の上、申し込みます。」

 

とか、

 

「〇〇契約書第何条の記載に基づき、発注します。」

 

のように書いてある場合です。

 

これは約款や契約に基づいて、契約を成立させるために申し込んでいることが明らかなので、契約書に該当してしまうことになります。

 

(2)見積に基づく場合=印紙を貼る

 

ふたつめに、見積書に基づく場合です。

 

たとえば発注書(申込書)に、

 

「何月何日の見積書に基づいて申し込みます。」

 

と書いてあったらどうでしょうか? 

 

この場合は文面から、見積書に基づいて申し込みが行われていることがわかることになります。見積書など、契約の相手方当事者の作成した文書等に基づく「申込み」であることが記載されている文書も、原則として契約書としてあつかわれます。つまりこれも印紙が必要になってきます。

 

 

みっつめに、署名又は押印があります。

 

 

(3)当事者双方の署名又は押印がある場合=印紙を貼る

 


発注書(申込書)に、契約当事者双方の署名又は押印がある場合は、原則として契約書と同じとみられます。(契約当事者の意思の合致を証明する目的で作成されたものとみられます。)

 

 

 

結局、発注書には何を書くべきでしょうか?

 

上記を踏まえて、発注書の記載事項をまとめます。必ず書くべき事項、書いておいた方がいい事項、書くと課税文書になって印紙を貼る必要が出てくる事項にわけて考えましょう。

 

 

①発注書に必ず書いておくべき事項

 

・発注者(作成者)、発注先のなまえ
当たり前ですが、お客さんが発注や申し込みをするので、依頼主の名前が書いていなければなりません。もちろん宛先は自分の事務所や個人の名前又は法人の名称です。

 

それぞれ必ず住所と電話番号も併記して、間違いが無いようにしましょう。住所や連絡先がなく、名前だけだと特定が弱く、なんとも頼りない文書になってしまいます。必ず正確な住所と電話番号まで書きましょう。

 

・発注日
発注書の発行日を記載しましょう。ビジネス文書にとって、日付はとても重要な意味を持ちます。忘れずに記載しましょう。

 

・内容と金額

ここは見積書と同じような記載方法でかまいません。項目、単価、数量、小計、合計というフォームでよいです。

 

コツですが、ここは面倒でも細かい明細にしたほうがいいです。

 

たとえば「ロゴデザイン一式 100,000円」のように大雑把な記載にするのではなく、明細にします。つまりロゴなら提案数が何個まではいくらとか、修正は何回までは無料で、それを超えたらいくらかかるとか、・・・なるべく具体的なサービス内容と紐づけて単価がわかるように書くわけです。そして「税込の料金」も必ずわかるように書きます。

 

 

②発注書に記入したほうがいい事項

 

発注書(申込書)としては上記だけでも十分なのですが、記入した方がいい内容もあります。それが「納期」と「支払条件」です。

 

・納期

お客さんはいつ頃までにデザインができあがるのか、よくわかっていないことがほとんどです。口頭で何度か説明したつもりでも、聞きのがしていたり、自分の場合は違うと思っていたりします。そこで「希望納期」という形で書いておくと行き違いを予防するのに役立ちます。

 

もちろん、明確に納期が定まらない場合もあると思いますので、「原案を〇月〇日頃までにメールで送信します。その後はご要望に応じて調整します。」みたいな書き方になることがあるかもしれません。それでも何も手がかりがないより良いはずです。

 

・支払条件

あと非常に重要なのは「支払条件」です。ロゴデザインなどだと、何度か修正を繰り返すのが通常だと思います。そうすると料金のお支払いが先延ばしになる可能性があります。

 

サービスの性質上、すべてを前払いにすることは難しいかもしれません。しかし、一定のルールは必要です。たとえばロゴの原案を提示した際に、請求書を発行し、その請求書を月末に締めて翌月末日までにお支払いいただくとか、目途を決めます。

 

もちろんお支払いが遅くなるお客さまもいらっしゃるでしょうが、この際にルールが決めてあって遅くなるのと、特にルールが明文化されていないなかで遅くなるのとでは、精神衛生上も、法的リスク上も、雲泥の差があります。

 

③記入すると原則として「契約書」に該当する事項

 

前述のとおりですが、「契約書(や規約等)に基づいて申し込みます」とか、「見積書に基づいて発注します」のような記載がある場合は、原則として契約書とみなされます。また、お互いに署名又は押印のある発注書(申込書)も同様の扱いとなります。=印紙を貼る場合が出てきます。

 

 

まとめ

 

  • フリーランスのデザイナーさんも契約書を使うべきです
  • 契約書が無理ならせめて発注書(申込書)だけでも使いましょう
  • 発注書には印紙はいらないが、契約書とみなされると印紙がいることもある
  • 発注書に記載したほうがよい事項をおさえましょう

 

活躍を願って

 

デザイナーさんは、ビジネスになくてはならない存在です。良いデザインは、商品やサービスの作り手や担い手と、まだ見ぬお客様とをつなぐ架け橋になれるものだからです。

 

世の中には、まだ見いだされていない、すぐれた商品や価値や世界観はたくさんあると思います。それらを発掘し、わかりやすく、カッコよく、魅力的に伝えることができるのは、デザイナーさんのおかげです。

 

フリーランスのデザイナーさんであっても、法的リスクを負うことなく、ましてや報酬の未払いなどにあうことなく、自由な活動を通して多くのクライアントと出会い、一つでも多くの素敵なデザインを世に送り出していただきたいものです。

 

 

 

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行政書士 竹永 大 

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