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言葉が問題を解決する。 合意書、協議書、契約書のテクニック集

契約書に特に関係の深い民法改正項目だけをまとめます ここだけは絶対知っておきたい改正民法のポイント

オフィシャルサイトでは参考にしていただきたいビジネス契約書のサンプル集を無料でダウンロードできます。

 

 行政書士の竹永大です。

 

民法改正とはどんなもので、ようするに契約書はどこがどう変わるのでしょうか?

 

契約書に特に関係の深い部分だけ(瑕疵担保、法定利率、損害賠償、解除、危険負担、保証、債権譲渡、定型約款)をピックアップした民法改正のポイントと、それぞれの契約書への具体的影響を知ることで、改正後の契約書をチェックできるようになります。

  

 

瑕疵担保責任が変わった?

 

今回の民法改正によって「瑕疵(かし)」という言葉が削除されました。「瑕疵」とは、簡単にいえば「欠陥」のこと。もし買った品物に欠陥があったら売主になんとかうめあわせしてほしいと思うはずです。誰だって欠陥のある商品などほしくないですから、売主にある程度責任があるはずなわけです。そこで民法には「売主の担保責任」というルールがありました。有名な瑕疵担保責任(かしたんぽせきにん)」です。

 

改正民法には「瑕疵」に代わり「契約不適合(けいやくふてきごう)」概念が登場します。契約不適合の定義は「目的物が種類、品質又は数量に関して契約の内容に適合しないもの」(改正民562条1項等)や「移転した権利が契約の内容に適合しないもの」(改正民565条)であり、ようするに「契約で決めた通りでないものや状態」のことです。
 

契約において売主は「物の種類・品質・数量に関して契約の内容に適合した物を引き渡すべき義務」と「契約の内容に適合した権利を供与すべき義務」を負っているともいえます。それらに違反すれば「契約不適合」になるのです。

 

今回、瑕疵から契約不適合という概念に変わったことによって「契約に適合しているか、していないか」という、当事者の合意(契約)を基準に評価する意識が強くはたらくので、より一層「合意重視」となり、契約書によって目的物を具体的に表記することがますます大事になります。

 

売主は契約不適合によりどのような責任を負うでしょうか。引き渡された商品等に「契約不適合」があった場合、いわばその救済手段として、買主は売主に対してなにを主張できるかを確認します。

 

まずは改正民法を引用すると、次の規定があります。

 

(買主の追完請求権)
第562条 引き渡された目的物が種類、品質又は数量に関して契約の内容に適合しないものであるときは、買主は、売主に対し、目的物の修補、代替物の引渡し又は不足分の引渡しによる履行の追完を請求することができる。ただし、売主は、買主に不相当な負担を課するものでないときは、買主が請求した方法と異なる方法による履行の追完をすることができる。
2 前項の不適合が買主の責めに帰すべき事由によるものであるときは、買主は、同項の規定による履行の追完の請求をすることができない。

 

 

(買主の代金減額請求権)
第563条 前条第一項本文に規定する場合において、買主が相当の期間を定めて履行の追完の催告をし、その期間内に履行の追完がないときは、買主は、その不適合の程度に応じて代金の減額を請求することができる。
2 前項の規定にかかわらず、次に掲げる場合には、買主は、同項の催告をすることなく、直ちに代金の減額を請求することができる。
一 履行の追完が不能であるとき。
二 売主が履行の追完を拒絶する意思を明確に表示したとき。
三 契約の性質又は当事者の意思表示により、特定の日時又は一定の期間内に履行をしなければ契約をした目的を達することができない場合において、売主が履行の追完をしないでその時期を経過したとき。
四 前三号に掲げる場合のほか、買主が前項の催告をしても履行の追完を受ける見込みがないことが明らかであるとき。
3 第一項の不適合が買主の責めに帰すべき事由によるものであるときは、買主は、前二項の規定による代金の減額の請求をすることができない。

 

 

(買主の損害賠償請求及び解除権の行使)
第564条 前二条の規定は、第415条の規定による損害賠償の請求並びに第541条及び第542条の規定による解除権の行使を妨げない。

 

(移転した権利が契約の内容に適合しない場合における売主の担保責任)
第565条 前三条の規定は、売主が買主に移転した権利が契約の内容に適合しないものである場合(権利の一部が他人に属する場合においてその権利の一部を移転しないときを含む。)について準用する。

 

(目的物の種類又は品質に関する担保責任の期間の制限)
第566条 売主が種類又は品質に関して契約の内容に適合しない目的物を買主に引き渡した場合において、買主がその不適合を知った時から一年以内にその旨を売主に通知しないときは、買主は、その不適合を理由として、履行の追完の請求、代金の減額の請求、損害賠償の請求及び契約の解除をすることができない。ただし、売主が引渡しの時にその不適合を知り、又は重大な過失によって知らなかったときは、この限りでない。

 

簡単にまとめると契約不適合があった場合に買主が売主に追及することで、救済してもらえる権利として、

追完請求権(改正民法562条1項)・・・修補請求、代替物引渡請求、不足物引渡請求
代金減額請求権(改正民法563条)・・・催告による代金減額請求、無催告による代金減額請求
損害賠償請求権(改正民法564条・415条)
解除権(改正民法564条・542条)

があります。

 

買主の権利として、まず「追完請求権」があります。つまり、正しくやり直してもらうことであり、引き渡された物に欠陥があれば、それを直してもらうか交換してもらう、あるいは数量が不足しているなら足りない分を充足してもらう権利があるということです。

 

あたりまえのような気もしますが、あたりまえのことであっても民法に明文化されたことで、議論の余地が減ったり、誰もがはっきりと確認できたりするメリットがあります。

 

ただ当然ながら、その契約の不適合がもしも買主のせいで起きたことであれば、追完請求権はなくなります。(つまり「不適合が買主の帰責事由によるとき」は追完請求を行うことができません。)これも民法にちゃんと書いてあります(改正民562条2項)。

 

次の「代金減額請求権」(改正民563条)とは、売主が引き渡した目的物が種類、品質又は数量の点で不適合の場合に、追完請求をしても追完されないときに、その不適合の程度に応じて代金の減額を請求できる権利です。

 

つまり「追完できないのであれば、そのかわりに安くして」と言えるわけです。あくまで「程度に応じて」ですから、むやみやたらに値引き要求できるという意味ではありません。

 

 この代金減額請求の行使には「催告」によるものとよらないものがあります。催告による代金減額請求とは、まず催告、つまり「いつまでに追完してくださいよ」と相手に伝え、追完請求の期間内に追完してもらえないとき初めて減額請求できるという意味になります。

 

このように原則は追完請求してから請求できる権利なのですが、例外として、そもそも商品がどっかへ行ってしまって追完が不能になってしまっているとか、もはや相手が追完する見込みがないことが明らかな場合のために「無催告での代金減額請求権」もあります。

 

仮に売主が「追完しない」と明確にしている場合などは、追完を催告する合理的な理由がありませんから、催告をせずに減額請求できることになります。あるいはまた、誕生日のケーキのような、もともとそれがある一定の時期や期間に行われないと意味をなさない類のビジネスなのであれば、これも「追完を催告」しても意味がないので催告は不要になります。

 

これまでの民法では、数量不足の場合を除いては代金減額請求権は(明確には)認められていなかったため、種類や品質に瑕疵があった場合の対応としては減額請求ではなく、損害賠償することで調整されたりしていました。

 

それが今回の改正によって、数量はもちろん種類や品質の不適合にも代金減額請求が認められうることになります。
ただもちろん、契約不適合が買主の帰責事由によるときは、代金減額請求もできません。(改正民563条3項)

 

さらに瑕疵担保責任のときもありましたが、同様に買主には「損害賠償請求権」(改正民564条、415条)があります。損害賠償というのは、文字通りの意味ですが、契約不適合の場合には債務不履行の一般規定の定めるところにしたがって損害賠償の請求ができる権利です。

 

ポイントは、これを請求するのには売主の帰責事由が必要(=売主に帰責事由がなければ損害賠償請求も認められない)という点です。売主のせいで損害が発生したのでなければ、買主は売主に損害賠償請求ができません。

 

いいかえると、仮に売主が自らに帰責事由がないことを主張立証できた場合には、売主は損害賠償責任は負わないことになります。

 

同じように「契約解除権」(改正民564条541条)もあります。契約不適合を理由として、文字通り契約を解除する権利です。売主が引き渡した商品に「種類、品質又は数量」の点で契約不適合があれば、買主は契約を解除できることになります。

 

買主が主張できることをあらためてまとめます。

 

追完請求ができる!(改正民562条1項)
・・・修補請求、代替物引渡請求、不足物引渡請求(ただし、買主が請求した方法と異なる方法による履行の追完が認められている

②まず追完請求して、できなければ代金減額請求ができる!(改正民563条)
・・・原則として相当期間を定めた催告による代金減額請求(例外として無催告による代金減額請求)

損害賠償請求ができる!(改正民564条・415条)
・・・ただし債務者に帰責事由必要

解除できる!(改正民564条・542条)

 

契約書への影響は?

「瑕疵から契約不適合に」変更されたのを契約書ではどのように反映すればよいでしょうか? 従来の「瑕疵担保条項」に修正を加えることになります。瑕疵担保条項は売主の担保責任を規定するためのものです。

 

瑕疵担保の条項例としては

 

「買主は商品の引渡しを受けた後1年以内に、商品に隠れた瑕疵があることを発見したときは、売主に対して代品の納入、瑕疵の修補を請求することができる。」

 

上記例文は、引渡された商品に欠陥が見つかったら、代わりの品や修補を請求できることで救済をはかるという内容です。また、その請求は(上記の例文では)「引き渡しから1年以内に」しなければならないこともわかります。

 

ちなみにこの期間制限ですが、現在の民法(改正前民法)では、瑕疵担保責任の権利行使期間が「買主が瑕疵を知った時から1年以内にしなければならない」(570条・566条)ことになっています。ここは原則として当事者間のルールブック(契約書)で任意に変えられるので、例文では「引渡しから1年」となっていたわけです。(「知った時」からとするより、期間が明確なのであえてそうしていると読めます。)

 

改正民法では、不適合が種類又は品質に関するものであるときは、やはり「買主がその不適合を知った時から1年以内に」その旨を売主に通知する義務が規定されています(知った時から1年以内に通知しないと救済を受ける権利を失権する)。

 

「通知」というのもひとつのポイントで、文字通り「通知」さえすれば不適合の責任を買主に追及できることになります。現行民法での瑕疵担保責任判例が、瑕疵担保責任を追及するのに、事実関係を認識した買主に対して、具体的に瑕疵の内容とそれに基づく損害賠償をする旨を表明し、請求する損害額の算定の根拠を示すことまで要求しているのに比べると、改正民法では不適合があることの「通知」のみで足りるという点はシンプルであるため、買主側にとって有利といわれています。

 

 

具体的にどうするのがよいでしょうか。つまり条項の文言調整ですが、改正民法施行後は、原則として「隠れた瑕疵」の部分が、改正民法562条の「種類、品質又は数量に関して本契約の内容に適合しないものがあること」という表現にならって、言葉が置き換えられるでしょう。

 

先ほどの例文でいうとどうなるでしょうか。

 

 Before

「買主は商品の引渡しを受けた後1年以内に、商品に隠れた瑕疵があることを発見したときは、売主に対して代品の納入、瑕疵の修補を請求することができる。」

 

  ↓

 

 After

「買主は商品の引渡しを受けた後1年以内に、商品に直ちに発見することができない、種類、品質又は数量に関して本契約の内容に適合しないもの(以下「契約不適合」という)があることを発見したときは、売主に対して代品の納入、契約不適合の修補を請求することができる。」

 

 

救済手段のアレンジ

 

このように用語を変更するのに加えて、瑕疵担保責任(改正民法施行後は契約不適合責任)の条項では、救済手段の内容を検討する必要があります。もちろん救済手段はすでに民法に規定されています。なので仮に、救済手段が改正民法通りでよければなにも契約書で定める必要はありません。 

 

しかし、民法ルールのままだと契約不適合があっても買主が請求した方法とは異なる方法による履行の追完が認められ(改正民562条1項但し書)、また、代金減額請求権は原則として相当期間を定めた催告後(改正民563条1項)です。これらの規定は売主にとっては有利なので変更不要ですが、自社が買主のときは不便です。救済手段を必要とするとすれば買主なのですから、買主としてはカスタマイズしたいところです。

 

たとえば、追完請求に先立って代金減額請求がしたい、あるいはいずれにするかはその時点で選択したいかもしれないとします。であれば買主としては「万が一契約不適合があったときは、追完請求か、あるいは直ちに代金減額請求も選択可能」という契約条件にできれば都合が良くなります。契約書は当事者間のルールブックですので、任意にアレンジして合理的に取引をしたいものです。

 

アレンジの例

 

「買主は・・・契約不適合があることを発見したときは、売主に対して、契約不適合の修補を請求することができる。」 

  ↓

 「買主は・・・契約不適合があることを発見したときは、売主に対して、契約不適合の修補又は代金減額を請求することができる。」

 

  

 

 

法定利率が変わった? 

民法では商事法定利率が年6%、民法上は年5%です。これが年3%になりました。

商事法定利率は廃止され、かつ、3年を1期として、1期ごとに法定利率の見直しを行うという「変動制」が導入されることになりました。

 

改正前 
原則:年5%(改正前民法404条)
商事法定利率:年6%(改正前商法514条) 

 

改正後

変動利率(法改正時は年3%)(改正民法404条、附則15条2項)
3年ごとに1%単位で変動し得る(改正民法404条)
商事法定利率は廃止(整備法3条)

 

契約書への影響

民法の特則であった商法の514条が削除され、民法に一本化されました。そして改正民法404条が、旧民法の法定利率が年5%だったのを、まず年3%に引き下げ、なおかつ3年おきにこの利率を見直す(変動制)というルールに変わりました。

 

これによって、たとえば代金の支払が遅れた場合などに生じる遅延損害金の利率が影響を受けます。契約書で遅延損害金の料率を定めていない場合には、売主は商事法定利率である6%の計算で遅延損害金を請求できるはずでしたが、改正法施行後は年3%になります。(ただし、適用されるのはその利息が生じた最初の時点における法定利率です。)

 

とはいえ契約書で遅延損害金の計算について6%やそれ以上の料率を定めておけばよく、遅延損害金はこれまでのビジネス契約書全般においても典型的な条項のひとつでしたから、特別な対応ではありません。今後は遅延損害金条項の重要性がより高まったと考えればよいと思います。

   

債務不履行に基づく損害賠償が変わった?

 

これまでもあった債務不履行に基づく損害賠償のルールがより明確化しました。改正のポイントはいくつかあります。

 

まず①原始的不能でも、つまり契約を締結した時点ですでに履行が不能である場合であっても、債務不履行に基づく損害賠償を請求できることが明確にされました。(改正民412の2)

住宅の売買契約でいえば、契約をしたのにその契約の時点ではすでにその家が無いとか、天災などで破壊されていたり滅失していた場合に、賠償請求できるのかどうかの判断に役立ちます。

 

履行遅滞中に履行不能になった場合は、債務者の責めに帰すべき事由とみなされることが明文化されました。(改正民法413の2)

既に履行が遅れている状態であった取引が、当事者のいずれのせいでもないような理由によって履行できなくなった場合に、じゃあそれはどちらの責任になるのか、という場面での判断に役立ちます。

 

債務不履行による損害賠償が「債務の履行が不能であるとき」にも認められることが明確にされました。

履行不能も損害賠償の対象に含まれることが明文化されたことになるので、より判断しやすくなります。

 

④損害賠償ができるためには債務者に帰責事由があることが要件ですが、帰責事由は過失の有無ではなく「その債務の不履行が契約その他の債務の発生原因及び取引上の社会通念に照らして債務者の責めに帰することができない事由」が基準となり、債務者の損害賠償の免責が「契約の趣旨」に照らして判断されることが明確になりました。

これによってますます判断要素としての契約の重要性が高まると思われます。

 

⑤さらに債務の履行に代わる損害賠償(履行がなされないか、履行できなくなったのならば、履行してもらう代わりに賠償を請求するというケース)の要件が明確になりました。

 

すなわち、「1 債務の履行が不能であるとき」、「2 債務者がその債務の履行を拒絶する意思を明確に示したとき」、「3 債務が契約によって生じたものである場合において、その契約が解除され、または債務の不履行による契約の解除権が発生したとき」の3要件が示されました。

 

履行が不能であるときとは、ようするに取引の対象が存在しなくなったり、履行に経済的、あるいは法律的な障害がうまれて現実問題として取引が無理になってしまうことです。この場合には債務の履行をする代わりに損害賠償を請求できるわけです。

 

債務者が履行を拒絶とは、履行を明確に拒んでいて、客観的にみて拒絶があきらかで翻ることが期待できないような、確定的な状況であれば、もはや履行不能として扱えるということです。

 

その契約が解除され、または債務の不履行による契約の解除権が発生したときとは、合意などにより契約が解除された場合と、相手が約束を守らないので解除の催告をしたけれども、相当期間を経過してもなおも履行が無いために解除権が発生しているような状況のことです。このような場合には、債務の履行の「代わりに」損害賠償を請求できるとされます。

 

ただし、債務者に帰責性が必要ですので、債務者がもし「債務の不履行が契約その他の債務の発生原因及び取引上の社会通念に照らして債務者の責めに帰することができない事由による」ことを立証できれば、賠償責任を免れます(415条1項ただし書)。

 

⑤特別の事情によって生じた損害については、当事者がその事情を予見し、又は予見することができたときに賠償の範囲となると規定されていましたが、この要件が「当事者がその事情を予見すべきであったとき」と改められました。(改正民416)

 

該当する改正民法の条文を抜粋します。

 

履行不能
第412条の2 債務の履行が契約その他の債務の発生原因及び取引上の社会通念に照らして不能であるときは、債権者は、その債務の履行を請求することができない。
2 契約に基づく債務の履行がその契約の成立の時に不能であったことは、第415条の規定によりその履行の不能によって生じた損害の賠償を請求することを妨げない。

 

履行遅滞中又は受領遅滞中の履行不能と帰責事由)
第413条の2  債務者がその債務について遅滞の責任を負っている間に当事者双方の責めに帰することができない事由によってその債務の履行が不能となったときは、その履行の不能は、債務者の責めに帰すべき事由によるものとみなす。
2  債権者が債務の履行を受けることを拒み、又は受けることができない場合において、履行の提供があった時以後に当事者双方の責めに帰することができない事由によってその債務の履行が不能となったときは、その履行の不能は、債権者の責めに帰すべき事由によるものとみなす。

 

債務不履行による損害賠償)
第415条  債務者がその債務の本旨に従った履行をしないとき又は債務の履行が不能であるときは、債権者は、これによって生じた損害の賠償を請求することができる。ただし、その債務の不履行が契約その他の債務の発生原因及び取引上の社会通念に照らして債務者の責めに帰することができない事由によるものであるときは、この限りでない。
2  前項の規定により損害賠償の請求をすることができる場合において、債権者は、次に掲げるときは、債務の履行に代わる損害賠償の請求をすることができる。
一  債務の履行が不能であるとき。
二  債務者がその債務の履行を拒絶する意思を明確に表示したとき。
三  債務が契約によって生じたものである場合において、その契約が解除され、又は債務の不履行による契約の解除権が発生したとき。

 

(損害賠償の範囲)
第416条  債務の不履行に対する損害賠償の請求は、これによって通常生ずべき損害の賠償をさせることをその目的とする。
2  特別の事情によって生じた損害であっても、当事者がその事情を予見すべきであったときは、債権者は、その賠償を請求することができる。 

 

 

契約書への影響は?

 

すでに多くのビジネス契約書には債務不履行に基づく損害賠償の条項があります。多くは民法の確認規定か、あるいは債務者のリスクコントロールのための条項です。

 

賠償の対象となる損害の範囲を限定する(たとえば、通常損害に限定することで特別事情によって生じた損害を負わないとするか、現実損害に限定することで逸失利益の責任は負わないとするなど)か、あるいは軽過失に基づく損害は責任を負わないなどとすることで債務不履行責任そのものを一部免責する条項が典型的なパターンとなっています。

 

よくあるパターン

賠償範囲の限定 「通常損害」に限る、「現実損害」に限るなど

主観的原因の限定 「軽過失」の場合は責任を負わないなど

 

 

もともと丁寧に契約書で規定されてきたものであるのと、これに関連する改正民法の規定は判例や通説の明文化が多く、これまでの解釈を大きく変えるというものではないので、従来の損害賠償条項への影響もあまりないと考えられます。ただ、確認規定が改正民法の文言を意識したものに変わってくる可能性は高いです。

 

 

契約の解除が変わった?

 

損害賠償の解説と似ていますが、民法上、相手方が約束を守らなかったとき、債権者は契約を解除することができます。債務不履行に基づく解除の規定が、整理されました。改正民法「催告による解除」と「催告によらない解除」を以下のように規定しています。

 

(催告による解除)
第541条  当事者の一方がその債務を履行しない場合において、相手方が相当の期間を定めてその履行の催告をし、その期間内に履行がないときは、相手方は、契約の解除をすることができる。ただし、その期間を経過した時における債務の不履行がその契約及び取引上の社会通念に照らして軽微であるときは、この限りでない。

 

まず相手方の履行が無い場合に、相手方に催告してもなおも履行がなければ契約を解除できると言っています。これは元の民法と趣旨は同じです。

 

違うのは「ただし書部分」で、「ただし、その期間を経過した時における債務の不履行がその契約及び取引上の社会通念に照らして軽微であるときは、この限りでない。とあります。これまでの判例法理を明文化したもので、債務不履行に基づいて解除できるといっても、あまりにもわずかな(軽微な)契約違反によっては契約を解除できないよという意味です。

 

また、従来からの変更点として、債務不履行に基づく解除には債務者の帰責事由が必要と考えられていましたが、改正民法では債務者の帰責事由が不要となっています。つまり改正民法によれば、不履行が軽微でさえなければ、催告による解除ができ、債務者の帰責事由も問題とならないことになります。

 

次に、催告をするまでもなく解除できる場合についても改正民法の規定があります。履行が不能になっていたり、不能ではなくても契約の目的を達成できないことが明らかだったり、履行の拒絶が明確に示されていたりと、もはや催告をする意味がない場合です。これによってこれまでの民法よりも、無催告で解除できる範囲が広がっています。

 

(催告によらない解除)
第542条  次に掲げる場合には、債権者は、前条の催告をすることなく、直ちに契約の解除をすることができる。
一  債務の全部の履行が不能であるとき。
二 債務者がその債務の全部の履行を拒絶する意思を明確に表示したとき。
三 債務の一部の履行が不能である場合又は債務者がその債務の一部の履行を拒絶する意思を明確に表示した場合において、残存する部分のみでは契約をした目的を達することができないとき。
四 契約の性質又は当事者の意思表示により、特定の日時又は一定の期間内に履行をしなければ契約をした目的を達することができない場合において、債務者が履行をしないでその時期を経過したとき。
五 前各号に掲げる場合のほか、債務者がその債務の履行をせず、債権者が前条の催告をしても契約をした目的を達するのに足りる履行がされる見込みがないことが明らかであるとき。
2 次に掲げる場合には、債権者は、前条の催告をすることなく、直ちに契約の一部の解除をすることができる。
一 債務の一部の履行が不能であるとき。
二 債務者がその債務の一部の履行を拒絶する意思を明確に表示したとき。

 

このように、「催告解除と無催告解除に整理」されたことと、これまでと違って解除に「債務者の帰責事由を必要としなくなった」ことが、解除における改正のポイントと言えます。

 

契約書への影響は?

 

すでに多くのビジネス契約書に解除条項があります。解除事由を詳細に定めることによって、いざというとき疑義なく解除できるようにしたり、催告を要せずに迅速に解除できるようにするためです。

 

改正民法が契約書に影響するのは「不履行が軽微な場合」には催告解除ができないことを明文化した541条ただし書部分でしょう。たとえば不履行があったので催告解除ができると考えていたのに、「軽微である」ことを主張されて解除できなくなるかもしれません。対応として、解除事由をより詳細に規定することで解釈の変わる余地を減らすか、軽微かどうかによらずに解除できると規定する必要が出てくるかもしれません。

  

危険負担が変わった?

 

震災などの自然災害によって、商品がダメージを受けてしまうこともあり得ます。自社の商品や原材料といった品物を相手に引き渡す途中や、引渡し直後のようなタイミングで、それらが滅失した場合に、もはや引き渡せなくなった品物の代金は支払われるのか、それとも支払わなくてよいのかを決定する必要が出てきます。

 

自然災害ですから当事者のどちらが悪いとも言えない事由が原因であり、そのリスクをどちらが負担するのかです。これが危険負担の問題です。

 

民法では「特定物の引渡し債務が債務者の責めに帰すべき事由によることなく履行不能となった」場合、反対債務は残り(債権者主義)、それ以外の債務の場合は反対債務は消える(債務者主義)、というのが原則でした。

 

簡単にいうと、特定物(他に代わりがないもの)の場合は代金は支払わなくてはならず、それ以外の場合は支払わなくてよい、という意味です。このルールでは目的物を特定するかしないかで結果が変わってしまうので、特定方法の合意も実は非常に重要な意味を持ちます。

 

さて特定物の場合は債権者が危険を負担するというのは、つまり無くなってしまったものに対してお金を支払うリスクを負うので、買主にとっては大問題です。そのため危険の移転時期(危険負担がいつ買主に移転するのか)は非常に重要な条件となります。買主としてはできるだけ遅いタイミングで移転するのが望ましいし、売主として逆に早いタイミングでの移転が望ましいためです。

 

この点について、改正民法ではどうなったかというと、実は現行民法534条と535条が改正で削除され、特定物の債権者主義というルールが無くなりました。そして、代わりに536条に履行拒絶権が付与されました。つまり、天災等によって(当事者の責めに帰すことができない事由で)履行ができなくなったのに、なおも買主は代金を支払わないといけないというルールは無しになり、反対債務の履行拒絶権、つまり代金を支払うことを拒絶することができる(支払わなくてよい)というロジックでカバーされることになりました。

 

(債務者の危険負担等)
第536条  当事者双方の責めに帰することができない事由によって債務を履行することができなくなったときは、債権者は、反対給付の履行を拒むことができる。
2  債権者の責めに帰すべき事由によって債務を履行することができなくなったときは、債権者は、反対給付の履行を拒むことができない。この場合において、債務者は、自己の債務を免れたことによって利益を得たときは、これを債権者に償還しなければならない。

 

また改正民法は、売買の規定のなかで567条を新設し、目的物の「引渡しの時」に危険が移転することを明らかにしました。

 

(目的物の滅失等についての危険の移転
第567条 売主が買主に目的物(売買の目的として特定したものに限る。以下この条において同じ。)を引き渡した場合において、その引渡しがあった時以後にその目的物が当事者双方の責めに帰することができない事由によって滅失し、又は損傷したときは、買主は、その滅失又は損傷を理由として、履行の追完の請求、代金の減額の請求、損害賠償の請求及び契約の解除をすることができない。この場合において、買主は、代金の支払を拒むことができない。
2 売主が契約の内容に適合する目的物をもって、その引渡しの債務の履行を提供したにもかかわらず、買主がその履行を受けることを拒み、又は受けることができない場合において、その履行の提供があった時以後に当事者双方の責めに帰することができない事由によってその目的物が滅失し、又は損傷したときも、前項と同様とする。

 

危険負担の移転時期が「引渡しがあった時」と明文化されたので、先ほどの履行拒絶権がつかえるのはあくまでも引渡しの前までということになります。一定の時点以降は、債権者(買った人)が危険を負担するべきことが当然だからです。

 

契約書への影響は?

危険負担については、実はこれまでのビジネス契約書でも、互いにリスクを分担し合う旨の規定がしてあることが通常でした。なぜなら、引渡し前の特定物の場合は民法上、買主が代金を支払うリスクを負っていたため、契約書のなかで、民法の規定を排除したり、危険負担の移転時期について明確化したりする対策がとられてきたためです。

 

たとえば以下のような条文です。

納入物の滅失、毀損等の危険負担は、納入前については受託者が、納入後については委託者が、それぞれこれを負担するものとする。

 

そのため、概ねこれまでの契約書と同じように検討していれば十分であり、特に著しく不利になったりということはないでしょう。

 

ただ、改正民法が「履行拒絶権」という形をとったために、履行はできなくなっても理論上は反対債務が残る(支払を拒絶はできるが債務そのものが消滅するわけではない)ことになるので、引渡しの前に天災等が原因で滅失等が生じた場合には契約を「直ちに解除できる」とする条項が盛り込まれるようになると考えられます。

 

たとえば「引渡し前において、天災地変その他当事者のいずれの責めにも帰することのできない事由によって納入物に滅失、棄損、紛失等が生じた場合は、受託者が危険を負担し、委託者は直ちに本契約を解除することができる。のような条文が検討されるでしょう。

  

保証が変わった?

 

保証人にだけはなるな、といったフレーズがよく聞かれますが、「保証」制度も民法が規定しています。

 

今回の改正で、個人に保証を委託する場合の情報提供義務というのが追加されています。ようするに個人にビジネス上の保証人になってもらう場合、その保証人にたいして財産に関する情報を提供しないとならないし、仮にその義務を怠るようなら、保証人から保証契約を取り消せることになったのです。

 

(契約締結時の情報の提供義務)
第465条の10 主たる債務者は、事業のために負担する債務を主たる債務とする保証又は主たる債務の範囲に事業のために負担する債務が含まれる根保証の委託をするときは、委託を受ける者に対し、次に掲げる事項に関する情報を提供しなければならない。
一 財産及び収支の状況
二 主たる債務以外に負担している債務の有無並びにその額及び履行状況
三 主たる債務の担保として他に提供し、又は提供しようとするものがあるときは、その旨及びその内容
2 主たる債務者が前項各号に掲げる事項に関して情報を提供せず、又は事実と異なる情報を提供したために委託を受けた者がその事項について誤認をし、それによって保証契約の申込み又はその承諾の意思表示をした場合において、主たる債務者がその事項に関して情報を提供せず又は事実と異なる情報を提供したことを債権者が知り又は知ることができたときは、保証人は、保証契約を取り消すことができる。
3 前二項の規定は、保証をする者が法人である場合には、適用しない。

 

条文からわかるとおり、情報提供義務は、「個人保証」のはなしであり、法人が保証人なら適用されません。

 

一方で、法人が保証人になる場合であっても適用される情報提供義務もあります。それは保証人の請求があったときの、債権者の情報提供義務です。つまり保証人(この場合個人、法人を問わない)から請求があれば、債権者(つまり売主)は債務の元本や利息、違約金、損害賠償などの情報を提供する義務を負うことになります。

 

(主たる債務の履行状況に関する情報の提供義務)
第458条の2  保証人が主たる債務者の委託を受けて保証をした場合において、保証人の請求があったときは、債権者は、保証人に対し、遅滞なく、主たる債務の元本及び主たる債務に関する利息、違約金、損害賠償その他その債務に従たる全てのものについての不履行の有無並びにこれらの残額及びそのうち弁済期が到来しているものの額に関する情報を提供しなければならない。

 

改正民法が施行された後は、取引契約に際して保証人をつける場合、買主にも(保証人からの請求があれば遅滞なく)情報提供する義務があるというのは、注意が必要でしょう。債権者にはさらに、債務者が期限の利益を喪失した場合にも、それを保証人(保証人が個人の場合)に通知する義務があります。

 

(主たる債務者が期限の利益を喪失した場合における情報の提供義務)
第458条の3  主たる債務者が期限の利益を有する場合において、その利益を喪失したときは、債権者は、保証人に対し、その利益の喪失を知った時から二箇月以内に、その旨を通知しなければならない。
2 前項の期間内に同項の通知をしなかったときは、債権者は、保証人に対し、主たる債務者が期限の利益を喪失した時から同項の通知を現にするまでに生じた遅延損害金(期限の利益を喪失しなかったとしても生ずべきものを除く。)に係る保証債務の履行を請求することができない。
3  前二項の規定は、保証人が法人である場合には、適用しない。

 

通知を怠れば、保証人に対する保証債務の履行の請求が、その期限の利益を喪失することによって生じるはずだった遅延損害金部分についてはできなくなりますから、個人保証の場合にはこの通知を忘れないようにしなければなりません。というより、債務者が期限の利益を喪失した際には、それを催告書などによって債務者に通知する際に、保証人にも同時に通知をするといった手続きがとられるのではないでしょうか。

 

また、根保証についても個人保証人の保護が目指されています。

 

個人がする根保証の極度額の定めについて、現行民法では貸金等債務に限られていましたが、改正によって個人が保証人となる保証債務全般に適用範囲が拡大されています。簡単に言えば、ビジネス取引契約に関して担保するために個人に根保証を委託する場合は、貸金等債務に限らず極度額の定めがなければ全般的に無効となってしまうわけです。

 

(個人根保証契約の保証人の責任等)
第465条の2  一定の範囲に属する不特定の債務を主たる債務とする保証契約(以下「根保証契約」という。)であって保証人が法人でないもの(以下「個人根保証契約」という。)の保証人は、主たる債務の元本、主たる債務に関する利息、違約金、損害賠償その他その債務に従たる全てのもの及びその保証債務について約定された違約金又は損害賠償の額について、その全部に係る極度額を限度として、その履行をする責任を負う。
2  個人根保証契約は、前項に規定する極度額を定めなければ、その効力を生じない。
3  第446条第2項及び第3項の規定は、個人根保証契約における第1項に規定する極度額の定めについて準用する。

 

これまでも、2004年の民法改正において保証契約は書面で行わなければならないとされるなど保証人の保護を手厚くする方策はとられていましたが、今回の改正ではすべての個人保証契約に極度額が要求され、主債務者から保証人への情報提供義務も追加されて一層の保護がはかられています。

 

さらに主たる債務の履行状況について、保証人からの請求があれば遅滞なく債権者が情報提供する義務が設けられましたし、主たる債務者が期限の利益を喪失した場合も、その利益の喪失を知った日から2か月以内に個人保証人に通知する義務も追加されました。

 

特に主債務者から保証人への情報提供義務については、怠れば取消原因になる(改正民法465条の10第2項)点が重要です。これはビジネス取引にあたり債務者が個人に保証を委託するときに、債務者が保証人に一定の情報を提供しなければならない義務ですが、取引の相手方である債権者としても、主たる債務者がこの情報提供義務を怠っていた場合には保証が取り消されてしまうのですから、情報提供が行われたかどうかを確認するひと手間をかけておきたいところです。

 

契約書への影響は?

契約書に連帯保証条項がある場合、改正にともなう修正をする必要があるでしょう。

 

まず、根保証全般に極度額の定めが必要となったことから、連帯保証条項には極度額の定めが必要になると思われます。

また、保証契約の取消原因となるため、主債務者が保証人にたいして正確に情報提供したことを、債務者が表明し保証する意味の条項も必須となるでしょう。

さらに債権者(売主)側は、保証人から請求があった場合には債務の履行状況についての詳細な情報を提供する義務(改正民法458条の2)が新設されたため、仮にこれらの情報提供が行われた場合でも契約上の守秘義務違反と受け取られないように、あらかじめことわっておくような実務や条項の工夫も期待されます。

  

債権譲渡が変わった?

 

債権を第三者にあげてしまうことを債権譲渡といいますが、これは現行民法自由に行えることが規定されています。自由に債権を譲渡できるので、たとえば売掛金を誰かに売ることも自由にできるということです。

 

ただ、買主としては、みだりに売掛金が譲渡されてしまうと、いったい誰に支払えばよいかが不確かになるなど不便な側面があるので、弁済の相手方は固定したいという前提があります。そのため契約書の条項によって債権譲渡を禁止するという対応がとられています。そしてこのように当事者間で譲渡制限の取り決めを合意している場合、債権が譲渡されてもその譲渡が無効になるというのが民法の考え方でした。

 

実際、譲渡禁止特約のついた契約書は多く、以下のような条文をよくみかけると思います。

 

委託者及び受託者は、互いに相手方の事前の書面による同意なくして、本契約上の地位を第三者に承継させ、又は本契約から生じる権利義務の全部若しくは一部を第三者に譲渡し、引き受けさせ若しくは担保に供してはならない。

 

ところで債権譲渡制度自体は、売主にとっては売掛金の早期回収や資金調達につかえるというメリットがあります。譲渡制限特約付きの債権譲渡が無効というこれまでの考え方は、企業の資金調達という観点からみると支障になってきた面もあるわけです。そこで改正民法では譲渡制限特約があっても、債権譲渡の効力は原則として有効とされました。これにより、契約書でいくら譲渡禁止が特約されていても、有効に譲渡されてしまう可能性が出てきたわけです。

 

とはいえ債務者は、譲渡制限を知っているか、知らなかったことについて重大な過失が認められるものが債権を譲り受けたときは履行を拒むことができるとされています。

 

(債権の譲渡性)
第466条  債権は、譲り渡すことができる。ただし、その性質がこれを許さないときは、この限りでない。
2 当事者が債権の譲渡を禁止し、又は制限する旨の意思表示(以下「譲渡制限の意思表示」という。)をしたときであっても、債権の譲渡は、その効力を妨げられない。
3 前項に規定する場合には、譲渡制限の意思表示がされたことを知り、又は重大な過失によって知らなかった譲受人その他の第三者に対しては、債務者は、その債務の履行を拒むことができ、かつ、譲渡人に対する弁済その他の債務を消滅させる事由をもってその第三者に対抗することができる。
4 前項の規定は、債務者が債務を履行しない場合において、同項に規定する第三者が相当の期間を定めて譲渡人への履行の催告をし、その期間内に履行がないときは、その債務者については、適用しない。

 

つまり、二重払のリスクを考え、債務者は譲受人の悪意または重過失を理由に、その第三者への履行は拒み、もとの債権者へ支払えばよいことになります。

 

契約書への影響は?

 

譲渡禁止と契約書に書いてあれば、たとえ債権譲渡があっても無効だと考えていたのに、今回の改正では原則としてそれでも有効ということになったわけですから、一見するとまるで譲渡禁止特約自体が意味のない規定になったかのように思えてきます。

 

しかし、改正民法の条文をよく読めば、譲渡制限(禁止)特約をしていればこそ、その特約につき悪意または重過失の譲受人にたいして弁済を拒むこともできる(改正民法466条3項)のですから、やはり譲渡制限特約は無意味とはいいきれません。既存の譲渡制限特約を特に修正する必要はないと考えます。

  

定型約款が導入された?

 

「定型約款」とは改正民法がとりいれた新たな概念なので、まずその定義から確認する必要があります。改正民法548条の2をみてください。

 

(定型約款の合意)
第548条の2 定型取引(ある特定の者が不特定多数の者を相手方として行う取引であって、その内容の全部又は一部が画一的であることがその双方にとって合理的なものをいう。以下同じ。)を行うことの合意(次条において「定型取引合意」という。)をした者は、次に掲げる場合には、定型約款(定型取引において、契約の内容とすることを目的としてその特定の者により準備された条項の総体をいう。以下同じ。)の個別の条項についても合意をしたものとみなす。
定型約款を契約の内容とする旨の合意をしたとき。
二 定型約款を準備した者(以下「定型約款準備者」という。)があらかじめその定型約款を契約の内容とする旨を相手方に表示していたとき。
2 前項の規定にかかわらず、同項の条項のうち、相手方の権利を制限し、又は相手方の義務を加重する条項であって、その定型取引の態様及びその実情並びに取引上の社会通念に照らして第一条第二項に規定する基本原則に反して相手方の利益を一方的に害すると認められるものについては、合意をしなかったものとみなす。

 

私たちが電車やバスに乗る際、いちいち契約書を検討したり、それに修正を申し出たりはしませんが、実際には旅客運送約款に同意したことになっています。電気やガスの供給契約や、各種の保険契約なども同様だといわれています。

 

これらいわゆる「約款」というかたちの、不特定多数の人と画一的な内容で契約をする(せざるを得ない)タイプの合意形式について、これまでの民法では明確な規定がありませんでした。そのため「当事者間の交渉を経て申し込みと合意が合致する」という原則的な契約の成立過程は経ないで成立してしまう約款に関して、法的にはどのように拘束力を認めるのか不明確だという指摘がありました。

 

そこで今回の改正民法による定型約款の導入となるわけですが、重要なポイントを抜き出すと、まず、

 

①ある特定の者が不特定多数の者(つまり相手の個性に着目しない)を相手方として行う取引で、②取引内容の全部または一部が画一的であることが双方にとって合理的なもの(単に一方の交渉力が強いことから画一的になっているにすぎないものではない)を満たすような取引を「定形取引」と呼ぶ、といっています。

 

そして、当事者がその「定形取引」をすることに合意したら、定型約款(その定形取引に使われる約款の全体)に合意したとみなされ得るわけです。つまり定型約款の要件として、そもそも定形取引に該当している必要があります。逆にいえば、定形取引に該当しなければ、定型約款の問題にはなりません。

 

定形取引に該当するためには、上記の2つの要件がありますから、相手方の個性に着目してする労働契約や、まったく交渉せずに合意しているとはいっても単に交渉力の格差の違いで画一的にされているにすぎない取引契約などは、そもそも定形取引に該当せず、それゆえ定型約款の問題にはなりません。

 

定型約款に該当する要件としては、定形取引であることのほかに、条文から、「契約の内容を目的として準備されたものであること」や、「当該定形取引の当事者の一方により準備されたものであること」という条件はあるものの、定形取引に該当する一般的な約款(先ほども例に出した、運送契約や電気供給約款など)であればほとんどが「定形約款」に該当するとわかります。

 

定型約款のメリットは?

 

さて、そもそも定型約款のメリットとは「みなし合意」が使えるということにつきます。つまり当事者が、定形取引を行うことに合意して、その上で定型約款を契約の内容とすることを合意したとき、または定型約款準備者があらかじめ定型約款を契約の内容とすることを相手方に表示していれば、定型約款の個別の条項についても合意があったとみなされるのです。これを契約の内容に「組み入れられる」と表現します。

 

極端にいえば、一定の要件のもとで表示していればそれが契約の内容になってしまうわけで、ちょっと怖い気もしますが便利な制度といえます。

 

約款の性格上、あまり条文まで読まない当事者が多いために、仮に不利なことが書かれていても合意とみなされて過大な負担を負ってしまわないかだけが気がかりです。しかし、みなし合意にはちゃんと例外もあります。改正民法548条の2第2項をみてください。

2 前項の規定にかかわらず、同項の条項のうち、相手方の権利を制限し、又は相手方の義務を加重する条項であって、その定型取引の態様及びその実情並びに取引上の社会通念に照らして第一条第二項に規定する基本原則に反して相手方の利益を一方的に害すると認められるものについては、合意をしなかったものとみなす。

 

とあります。つまり不当な条項は契約への組み入れの対象から外されるわけです。さらに相手方には定型約款の開示請求権も認め(548条の3)、不意打ちを排除しています。

 

(定型約款の内容の表示)
第458条の3 定型取引を行い、又は行おうとする定型約款準備者は、定型取引合意の前又は定型取引合意の後相当の期間内に相手方から請求があった場合には、遅滞なく、相当な方法でその定型約款の内容を示さなければならない。ただし、定型約款準備者が既に相手方に対して定型約款を記載した書面を交付し、又はこれを記録した電磁的記録を提供していたときは、この限りでない。
2 定型約款準備者が定型取引合意の前において前項の請求を拒んだときは、前条の規定は、適用しない。ただし、一時的な通信障害が発生した場合その他正当な事由がある場合は、この限りでない。

 

契約書への影響は?

 

既存のビジネス契約書への直接の影響は少ないでしょう。もし定型約款にあてはまれば、みなし合意が使えるので、常に相手方に詳細な約款のすべてを納得させなくても有効な締結実務になると期待してしまいそうですが、そもそも改正法のいう定型約款にあてはまるかどうかがすべてです。

 

まず基本契約とか業務委託契約といったビジネス取引契約では、当然、取引相手の個性に着目して契約することが大半でしょうから、そもそも定型取引に該当しないことがほとんどだと思います。また、約款のドラフトなどあくまで「たたき台」の段階では、「契約の内容を目的」として準備されたといえないためこれも定型約款の要件から外れてしまいます。さらに条項が画一的で修正をせずにあてはめるタイプの契約だからといっても、単に交渉力の格差などからそうなっているだけで、それが当事者双方にとって合理的でなければやはり要件を満たしません。しかも不利益条項はみなし合意から除外されますから、内容面のチェックも必要となります。

   

まとめ

改正項目の非常に多い今回の民法改正ですが、判例通説の明文化である場合や、すでにこれまでの契約実務で任意規定が定着している場面も多くありました。

 

よって改正項目そのものが契約書の修正を余儀なくする例は限られており、あえて極端にいえば、任意規定が充実しているのなら、ベースとなる民法がどう変わってもほとんど影響はありません。

 

まずはおおまかに重要な改正項目と契約条項との関係をつかんで、後は必要に応じて各種契約類型について具体的に検討していけばいいわけです。

 

 

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