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役員の責任限定契約書のつくりかた トラブルを防ぐために

オフィシャルサイトでは参考にしていただきたいビジネス契約書のサンプル集を無料でダウンロードできます。

 

 行政書士の竹永大です。

 

責任限定契約書の作り方を説明します。

 

ある人材を役員としてむかえたいものの、具体的な職務を執行してもらうのではなく、いわゆる名誉職に近いポジションを予定しており、その場合にまで厳格に正式な取締役としてのすべての責任を負わせると就任してもらえない気がする・・・などというシチュエーションにおいて、会社の役員が法的に負っている「任務懈怠責任」を契約締結により限定する方法がとられます。

 

責任限定契約とは、取締役が負っている責任に上限を設定することで、一定の責任を軽減するためにする、会社と役員の間の契約です。

  

 

役員はどんな責任を負っているのか ?

 

そもそも会社の取締役は、その会社の活動にたいして責任を負っています。法律的には会社と役員は、委任関係にあり(会社法330条)、それゆえ取締役は善管注意義務を負っていることになるからです。また会社法上も、取締役は、法令、定款、株主総会決議を遵守し、株式会社のために「忠実にその職務を行う義務」がある(会社法355条)とされています。さらにいえば「取締役会の構成員である取締役」には、他の取締役の職務執行の「監視・監督義務」もあります(会社法362条2項2号)。


そして善管注意義務、忠実義務等に違反した場合には、任務懈怠責任会社法423条)を問われるという構造になっています。

 

役員である以上はこうした責任を負うことは仕方ないとしても、一方で、万が一の損害賠償への不安などから就任を躊躇してしまうことが考えられます。そこで、その責任を軽減する方法として、責任限定契約という手法があります。

 

責任限定契約によって任務懈怠責任を軽減できる?

 

責任限定契約は、取締役(ただし業務執行取締役等を除きます)、会計参与、監査役、会計監査人(総称して「非業務執行取締役等」といいます)が職務を行うにつき善意・無重過失のとき、定款で定めた額と、最低責任限度額とのいずれか高い額を責任の限度とする契約(会社法427条)です。

 

(責任限定契約)

会社法第427条
 第四百二十四条の規定にかかわらず、株式会社は、取締役(業務執行取締役等であるものを除く。)、会計参与、監査役又は会計監査人(以下この条及び第九百十一条第三項第二十五号において「非業務執行取締役等」という。)の第四百二十三条第一項の責任について、当該非業務執行取締役等が職務を行うにつき善意でかつ重大な過失がないときは、定款で定めた額の範囲内であらかじめ株式会社が定めた額と最低責任限度額とのいずれか高い額を限度とする旨の契約を非業務執行取締役等と締結することができる旨を定款で定めることができる。
2 前項の契約を締結した非業務執行取締役等が当該株式会社の業務執行取締役等に就任したときは、当該契約は、将来に向かってその効力を失う。
3 第四百二十五条第三項の規定は、定款を変更して第一項の規定による定款の定め(同項に規定する取締役(監査等委員又は監査委員であるものを除く。)と契約を締結することができる旨の定めに限る。)を設ける議案を株主総会に提出する場合について準用する。この場合において、同条第三項中「取締役(これらの会社に最終完全親会社等がある場合において、第一項の規定により免除しようとする責任が特定責任であるときにあっては、当該会社及び当該最終完全親会社等の取締役)」とあるのは、「取締役」と読み替えるものとする。
4 第一項の契約を締結した株式会社が、当該契約の相手方である非業務執行取締役等が任務を怠ったことにより損害を受けたことを知ったときは、その後最初に招集される株主総会(当該株式会社に最終完全親会社等がある場合において、当該損害が特定責任に係るものであるときにあっては、当該株式会社及び当該最終完全親会社等の株主総会)において次に掲げる事項を開示しなければならない。
一 第四百二十五条第二項第一号及び第二号に掲げる事項
二 当該契約の内容及び当該契約を締結した理由
三 第四百二十三条第一項の損害のうち、当該非業務執行取締役等が賠償する責任を負わないとされた額
5 第四百二十五条第四項及び第五項の規定は、非業務執行取締役等が第一項の契約によって同項に規定する限度を超える部分について損害を賠償する責任を負わないとされた場合について準用する。

 

(役員等の株式会社に対する損害賠償責任)

会社法第423条
1 取締役、会計参与、監査役、執行役又は会計監査人(以下この節において「役員等」という。)は、その任務を怠ったときは、株式会社に対し、これによって生じた損害を賠償する責任を負う。(以下略)

 

ようするにこの契約をしておけば、万が一の際の賠償責任に上限を設定できるのです。もちろん、あくまで上限の設定であり、業務執行取締役等の任務懈怠責任に限られ、職務を行うにつき善意・無重過失(知らない・重大な過失がないこと)であることが要件です。

 

加えて、第三者に対する責任は対象となりませんから、あらゆるケースにおけるすべての賠償責任を免除されるという意味ではありません。そのあたりは誤解の内容にしなければなりませんが、それでも幅広い人材を受け入れ、確保するためには意義のある制度だと思います。

 

ちなみに業務執行取締役(ぎょうむしっこうとりしまりやく)とは、代表取締役以外の取締役であって、取締役会の決議によって、取締役会設置会社の業務を執行する者として選任された取締役のことをいいます。

 

ポイントをまとめると以下のとおりです。

  • 任務懈怠責任の上限を定めるもので、第三者に対する責任などは減免されない
  • 善意無重過失に限られる
  • 非業務執行取締役等に限って認められる
  • 定款の規定が必要 

 

あらかじめ定款の定めが必要です

 

つまり契約書をつくればそれでいいわけではなく、責任限定契約について定款に定めておく必要があります会社法427条1項)。責任限定契約について自社の定款に規定がなければ、定款変更の手続きをします。

 

あらかじめ監査役等の同意が必要です

取締役の責任限定契約に関する規定を定款に設けるには、監査役設置会社においては監査役等の同意を得ておく必要があります。また、責任限定契約の締結は重要な業務執行に該当するので、取締役会設置会社においては取締役会決議、取締役会非設置会社においては取締役の過半数の決定が必要です。

 

会社法427条第3項)

3 第425条第3項の規定は、定款を変更して第一項の規定による定款の定め(同項に規定する取締役(監査等委員又は監査委員であるものを除く。)と契約を締結することができる旨の定めに限る。)を設ける議案を株主総会に提出する場合について準用する。この場合において、同条第三項中「取締役(これらの会社に最終完全親会社等がある場合において、第一項の規定により免除しようとする責任が特定責任であるときにあっては、当該会社及び当該最終完全親会社等の取締役)」とあるのは、「取締役」と読み替えるものとする。

 

会社法425条第3項)

3 監査役設置会社、監査等委員会設置会社又は指名委員会等設置会社においては、取締役(これらの会社に最終完全親会社等がある場合において、第一項の規定により免除しようとする責任が特定責任であるときにあっては、当該会社及び当該最終完全親会社等の取締役)は、第四百二十三条第一項の責任の免除(取締役(監査等委員又は監査委員であるものを除く。)及び執行役の責任の免除に限る。)に関する議案株主総会に提出するには、次の各号に掲げる株式会社の区分に応じ、当該各号に定める者の同意を得なければならない。
一 監査役設置会社 監査役監査役が二人以上ある場合にあっては、各監査役
二 監査等委員会設置会社 各監査等委員
三 指名委員会等設置会社 各監査委員

 

責任限度契約に関する開示が必要です

取締役選任の際の株主総会参考書類には、その候補者との間で責任限定契約を締結しているとき、または、締結する予定があるときは、その契約の内容の概要を記載することとされています(会社法施行規則74条1項4号等)。

 

(取締役の選任に関する議案)

会社法施行規則第七十四条 取締役が取締役(株式会社が監査等委員会設置会社である場合にあっては、監査等委員である取締役を除く。次項第二号において同じ。)の選任に関する議案を提出する場合には、株主総会参考書類には、次に掲げる事項を記載しなければならない。

一 候補者の氏名、生年月日及び略歴

二 就任の承諾を得ていないときは、その旨

三 株式会社が監査等委員会設置会社である場合において、法第三百四十二条の二第四項の規定による監査等委員会の意見があるときは、その意見の内容の概要

四 候補者と当該株式会社との間で法第四百二十七条第一項の契約を締結しているとき又は当該契約を締結する予定があるときは、その契約の内容の概要

 

定款変更とは?

 

定款の変更は、株主総会で決議します。つまり会社の定款に加除修正をするのではなく、株主総会を開催して決議し、株主総会議事録を作成して登記する一連の手続きをします。

 

 

定款の記載例

議事録には、変更後の定款の内容を記載します。責任限定契約についての定款の規定例は以下の通りです。

 

(取締役の責任限定)
第〇条 当会社は、会社法第427条第1項の規定により、取締役(業務執行取締役を除く。)との間に、同法第423条第1項の賠償責任を限定する契約を締結することができる。ただし、当該契約に基づく責任の限度額は、法令が規定する額とする。

   

定款変更の株主総会議事録の記載例

 株主総会議事録は、会議の内容を忘れないためだけでなく、登記申請の際の添付書類としても必要となるため、必ず作成しなければなりません。株主総会議事録の様式は法務局のこのページにそろっているので参照して作成すると良いです。

 

   株主総会議事録

平成○年○月○日午前○時○分から、当会社の本店(東京都〇〇区〇〇町〇〇丁目会議室)において臨時株主総会を開催した。

 

株主の総数 ○○名
発行済株式の総数 ○○○○株
議決権を行使することができる株主の数 ○○名
議決権を行使することができる株主の議決権の数 ○○○○個
出席株主数(委任状による者を含む) ○○名
出席株主の議決権の数 ○○○○個
出席取締役 ○○○○(議長兼議事録作成者)
○○○○
○○○○
出席監査役 ○○○○

 

以上のとおり総株主の議決権の過半数に相当する株式を有する株主が出席したので、本会は適法に成立した。よって取締役○○○○は議長席に着き、開会を宣し、直ちに下記議案を付議したところ、満場一致の決議をもって原案どおり可決確定した。

 

議案 1 定款一部変更に関する件
議長は、このたび下記のとおり新たに定款第〇条を設けるため、定款を一部変更したい旨を述べ、その内容及び理由について監査役〇〇〇〇の同意を得ていることを告げ、その詳細を説明したうえで、その賛否を議場に諮ったところ、出席した議決権を行使できる株主の全員の賛成をもって承認可決された。

    記

(取締役の責任限定)
第〇条 当会社は、会社法第427条第1項の規定により、取締役(業務執行取締役を除く。)との間に、同法第423条第1項の賠償責任を限定する契約を締結することができる。ただし、当該契約に基づく責任の限度額は、法令が規定する額とする。

 

以上をもって本日の議事を終了したので、議長は閉会を宣した。

閉会時刻は午前〇時〇分であった。

上記の決議を明確にするためこの議事録を作り、議長、出席取締役及び出席監査役がこれに記名押印する。

平成〇年〇月〇日

〇〇株式会社臨時株主総会
代表取締役 〇〇〇〇 ㊞
取締役 〇〇〇〇 ㊞
同 〇〇〇〇 ㊞
監査役 〇〇〇〇 ㊞ 

 

責任限定契約書のサンプル

責任限定契約書の作成例は以下の通りです。繰り返しになりますが、責任限定契約において対象となり得るのは、業務執行取締役等以外の取締役、会計参与、監査役、会計監査人であることに注意してください。

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            責任限定契約書

 

〇田 〇郎(以下「本件役員」という。)と株式会社〇〇〇〇(以下「当会社」という。)とは、本日、会社法427条に規定された責任限定について、以下のとおり責任限定契約(以下「本契約」という。)を締結する。

 

第1条(目的)
 本契約は、会社法第427条その他の法令および当会社の定款の定めに従い、本件役員が当会社の非業務執行取締役として職務を行うにつき当会社に対し損害を与えた場合の、会社法第423条第1項に基づく本件役員の損害賠償責任に関して限度を定めることを目的とする。

 

第2条(法令および定款と本契約との関係)
 本契約に定めのない事項に関しては、会社法その他の法令および当会社の定款の定めるところによる。

 

第3条(責任限定)
 当会社と本件役員は、本件役員の会社法第423条第1項の責任について、本件役員が職務を行うにつき善意でかつ重大な過失がないときは、本件役員の責任は、会社法第425条第1項で定める最低責任限度額をもって、本件役員の会社に対する責任の上限とすることに合意する。

 

第4条(責任限定手続)
 本件役員が本契約に基づき責任限定を求める場合、本件役員は、当会社所定の様式に従い書面によって当会社に対しこれを求めるものとする。この場合、本件役員は、責任限定が相当であることを基礎づける文書等の資料を添付するものとする。
2 本件役員に対する会社法第423条第1項の責任に関する損害賠償請求訴訟等が提 起された場合、本件役員は、かかる訴訟等の手続において自ら本契約を援用して責任限定を主張するものとし、本件役員がかかる主張を行わなかった場合には、前条の規定に基づく責任限定を受ける権利を喪失する。

 

第5条(再任の場合)
 本契約は、本件役員がその任期の満了後、再任された場合、当該再任された任期についても効力を継続するものとし、その後に再任された場合も同様とする。

 

第6条(責任の減免後の退職慰労金等の供与)
 本件役員は、本件役員が本契約によって第3条に規定する限度を超える部分について損害を賠償する責任を負わないとされた場合において、当会社がその後に本件役員に対し会社法第425条第4項で定める退職慰労金その他の法務省令で定める財産上の利益を与えるときは、株主総会の承認を受けなければならない。

 

第7条(責任の減免後の新株予約権
 本件役員が本契約によって第3条に規定する限度を超える部分について損害を賠償する責任を負わないとされた場合において、本件役員が会社法第425条第1項第2号の新株予約権を行使し、または譲渡するときは、株主総会の承認を受けなければならない。

 

第8条(税務処理)
 本件役員は、本契約に基づく責任限定に関する税務上の問題については自己の責任で処理するものとする。

 

第9条(役員賠償責任保険)
 本件役員は、会社が加入する会社役員賠償責任保険における株主代表訴訟担保特約にかかる保険料相当額を自ら負担する。

 

第10条(効 力)
 本件役員が当会社において、本契約が適用される前提となる地位を退任したとき、または会社法2条15号イに定める業務執行取締役等に該当することとなったときは、本契約は、将来に向かってその効力を失うものとする。
2 本件役員が当会社の非業務執行取締役の地位を喪失した後も、本件役員が当会社の非業務執行取締役として行った行為に関しては、本契約が適用されるものとする。

 

第11条(拘束力)
 本契約は、本件役員当会社およびその承継人のために効力を有するものとする。
2 本契約の締結後、当会社に合併、会社分割その他の組織変更があった場合でも、当会社は、本契約に基づく責任限定と同等の責任限定を引き続き本件役員に与えるように必要な措置を講ずるよう努めるものとする。

 

第12条(契約内容の変更)
 本契約の内容は、本契約当事者の書面による合意によってのみ変更することができる。

 

第13条(分離可能性)
 本契約のいずれかの条項またはその一部が無効または執行不能と判断された場合であっても、本契約の残りの規定および一部が無効または執行不能と判断された規定の残りの部分については、継続して完全に効力を有し、本契約当事者は、当該無効もしくは執行不能の条項または部分を適法とし、執行力を維持するために必要な範囲で修正し、当該無効もしくは執行不能の条項または部分の趣旨に鑑み法律上および経済上同等の効果を確保できるように努める。

 

第14条(準拠法)
 本契約の準拠法は日本法とし、日本法によって解釈適用されるものとする。

 

第15条(専属的合意管轄裁判所)
 本契約に関する紛争については、〇〇地方裁判所を第一審の専属的合意管轄裁判所とする。

 

本契約の成立を証するため本契約書を2通作成し、本件役員当会社各記名押印の上、各1通を保有する。

 

平成  年  月  日

 

本件役員:住 所           
氏名          印

 

当会社:住 所           
会社名           
代表取締役       印

 

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