みんな著作権に悩んでいる!? 制作業務を請け負ったときの「著作権条項」の厳選パターン
■大企業との取引が決まったものの・・・
システムのカスタマイズや
セットアップコンサル、
編集企画のようないわば ”かっこいいものづくり企業” さんに多い悩みに、
著作権の取扱いがあります。
大企業からの受注が決まり、
法務からぶあつい契約書がまわってきた。
喜んでサインしたいところだけど、
ちょっと気になる一文が。
どうやら、
「制作物の著作権はぜんぶ発注者に帰属します」
と書いてあるみたい。
ようするにつくったものの権利も
全部渡しちゃうことになるってこと?
・・・これでいいのかな?
大雑把ですが、
大手や外資系から契約書がまわってきたときなどに、
これと似た経験をした社長さんはとても多いはずです。
実際、受注に関する契約書の相談があるときは、
90%くらいは必ずこういった悩みが含まれています。
■そもそも著作権はだれのもの?
システムにしろ編集物にしろ、
発注者は、なんらかの成果物を期待して
受注者に注文をしています。
そして成果物を納品してもらったあとは、
その物体(データ等)はもちろん、
自分がちが利用する(それで商売する)ための知的財産的な権利も
一緒に手に入れたいのは、ある意味当然の発想です。
原則としてそれを書いた人や、作った人のものです。
つまり、
黙っていると原則として著作権なんかは
あくまでも受注者にあるのです。
そこで発注者としては、
わざわざ契約書に、
「納品後は、著作権などはぜんぶうちのものにしますからね」
と、ことわっておかなければならないんですね。
これが、大手などから来る契約書に、
やれ著作権だ、・・・
とやかましく(?)書いてある理由なのです。
■全部渡してしまって本当にOKなのか?
とはいえ、
受注者としてはそれでいいのでしょうか?
いい場合もあれば、
そうでない場合もあります。
著作権を譲渡する契約について、
少し確認しておきましょう。
■著作権は「譲渡」できる?
まず、
著作権を合意のもとで「譲渡」すること自体は、
なんの問題もありません。
(正確にいえば、
著作者人格権までは譲渡できないのですが、
それはあとで書きます。
その他の著作権上の権利は譲渡可能です。)
また、ビジネスの上では、
制作を依頼した会社が制作を引き受けた会社から、
著作権を譲渡してもらわないと、(自由に利用できないと)
そもそも依頼した意味がない、
ということもあります。
よって、
社長さん同士が納得してサインするのならば、
「著作権ごと差し上げますよ!」
という契約書にも、それ自体には
特に問題はないことになります。
そこで、
まずは「著作権ごとあげます!」という場合の
契約書のチェックポイントを確認しておきましょう。
■「著作権ごとあげます!」としたい場合の注意点
この場合は
意図したとおり「譲渡する」という内容になっているか
確認すればよいだけです。
前提として
プログラム開発の請負において、
「納入物の著作権」は
なにも契約がなければ原則として開発者側に帰属(留保)しています。
確認すべき点は2つあります。
発注者の希望が著作権の「譲渡」にあるのであれば、
その契約書に
----
①知的財産権の譲渡に関する経済的対価(つまり権利の¥お値段)
②譲渡の具体的な条文(特掲)
----
が書かれているか、
チェックしてください。
■対価性
まず著作権が譲渡される(移転する)というからには、
原則としてその著作権の価値に見合った
対価が支払われる必要があります。
仮に外注先が「下請事業者」にあたる場合に、
下請事業者に生じる知的財産権を無償で譲渡させると、
下請法に抵触するかもしれないからです。
(第4条2項3号の「自己のために金銭、役務その他の経済上の利益を提供させること。」によって「下請事業者の利益を不当に害して」いることに該当)
念のため対価の有無を明記しましょう。
簡単にいえば、
対価が支払われるのか、無料なのか、書くわけですね。
「支払われる」場合は、
当然ながら金額(消費税込みか消費税抜きか明確にする必要があります。)
または計算方法と、
支払方法、支払時期等も明記しましょう。
間違いなく記載されているかチェックしてください。
■「譲渡」条項の書き方
そして、
②の「譲渡の条文」ですが、ここは形式的に、
「全ての著作権(著作権法第27条及び第28条の権利を含む)を譲渡する」
のような、
いわゆる書式の例文のような書き方になっていれば
ほぼ大丈夫です。
■なぜこのような書き方になるのか?
この根拠ですが、
著作権の譲渡については、
まず著作権法(第61条)が、
「著作権は、その全部又は一部を譲渡することができる。
2 著作権を譲渡する契約において、第二十七条又は第二十八条に規定する権利が譲渡の目的として特掲されていないときは、これらの権利は、譲渡した者に留保されたものと推定する。」
と規定していること。
また、
契約書に、単に「すべての著作権を譲渡する」というような包括的な記載をするだけでは足りず、譲渡対象権利として、著作権法27条や28条の権利を具体的に挙げることにより、当該権利が譲渡の対象となっていることを明記する必要があるというべきである。(東京地裁平成18年12月27日判決)
といった裁判例があるためです。
27条だの28条だのというのは、
翻案とか二次的著作物とかいった権利ですね。
著作権という権利はこういった複数の権利の総称なのです。
なにがいいたいかというと、
大事な権利の譲渡だというのに、
あまりにもあっさりと、
「著作権、譲渡しまーす」(^o^)
と書かれていると、
「本気かな?」
「翻訳とか二次利用とかそういうのも譲渡でいいのかな?」
と疑われるので、
「念のためそれらについては譲渡されてなかったんじゃないかと推定しとこう」、
という扱いになるということですね。
よって、
できる限り具体的な規定となるよう「譲渡」の場合には
「著作権法27条や28条の権利を含む」
と、念押しの条文が書かれるのが通例となっています。
■全部譲渡なんて嫌だ!
さて
ここまでは「譲渡」する場合の話でした。
単純に著作権の全部を譲渡するのは簡単でいいのですが、
ビジネスの性質によっては、
単純な譲渡ではそぐわない場合も出てくると思います。
そこで、
バリエーションを考えましょう。
■受注者にすべての著作権を残しておきたい場合
極端なはなしですが、
仮に、
「著作権の譲渡をしないぞ!」
としたら、
どういう条項になるのでしょう?
単に、
著作権は受注者に帰属する、
と書けばいいだけですね。
ただこの場合、
念のため発注者にも利用することができるということと、
人格権は行使しません、
ということを添えると良いと思います。
たとえば
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(納入物の著作権)
第〇条
納入物に関する著作権(著作権法第27条及び第28条の権利を含む。)は、発注者又は第三者が従前から保有していた著作物の著作権を除き、受注者に帰属するものとする。
2 発注者は、納入物のうちプログラムの複製物を、著作権法第47条の3に従って自己利用に必要な範囲で、複製、翻案することができるものとする。受注者は、かかる利用について著作者人格権を行使しないものとする。
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■一部は譲渡するけど、やっぱり一部は受注者に残したい場合
次に、
譲渡するものもあるが、しないものもあるよ、
という現実的な状況の場合です。
プログラム制作の仕事を例にすれば、
たとえば汎用的なプログラム等の著作権は受注者に残して、
受注に応じてつくられたオリジナルな部分のは発注者に譲渡する、
というパターンが考えられるのではないでしょうか。
この場合は、
「汎用的な部分を除き、権利が移転する」
というような、条件付きの表現をつかいます。
(契約書にはこのように、
すっきりとは言い切らないで、
この場合は、とか、この場合を除いては、など
「条件付き」でいい表す表現が
非常に多いのです。)
あとは一部とはいえ、
譲渡される著作権があるということで、
さきほどの「対価」についてもふれておきましょう。
文案をいえば、
たとえば、
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(納入物の著作権)
第◯条
納入物に関する著作権(著作権法第27条及び第28条の権利を含む。以下同じ。)は、受注者又は第三者が従前から保有していた著作物の著作権及び汎用的な利用が可能なプログラムの著作権を除き、発注者より受注者へ委託料が完済されたときに、受注者から発注者へ移転する。なお、かかる受注者から発注者への著作権移転の対価は、委託料に含まれるものとする。
2 発注者は、著作権法第47条の3に従って、前項により乙に著作権が留保された著作物につき、本件ソフトウェアを自己利用するために必要な範囲で、複製、翻案することができるものとし、受注者は、かかる利用について著作者人格権を行使しないものとする。
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■その他の著作権のチェックポイント
著作権の譲渡(または一部譲渡)については、
上記のポイントをチェックすれば、
ほとんど問題はありません。
あとは自社の希望と、相手方の希望とが、
うまく納得のいくところで重なれば、契約成立ですね。
ただ、著作権には
まだ実務でよく問題になる点があるので、
念のためみておきましょう。
■譲渡ではなく、利用の許諾では?
実は、
著作権は譲り渡してしまうのではなく、
利用の許諾をする、というかたちでも、
相手に利用させることができます。
いわゆる”ライセンス”ですね。
利用許諾(ライセンス)契約をすると、
相手はその契約に定められた範囲内でなら、
著作物を利用できるようになります。
譲渡したのとほぼ同じ結果を、
許諾というかたちで導くこともできるわけで、
これを知っているか知らないかで、
契約の起案力がまったく別次元になってしまうのです。
さて、
いくら利用許諾契約をしたとしても、
その契約に定められた利用方法や
利用条件を超えた利用はできません。
ということは、
「どのような利用を行うのか」をしっかりと検討し、
それを詳細に契約書に規定しておかなければならないのですね。
たとえば、
著作物をコピー(複製)してよいとの了解を得ただけでは、
ホームページにアップロードすることはできません。
(なぜならホームページにアップロードするということは、
著作物を自動的に送信することと同義ですから、
また別の、自動公衆送信という権利を得る必要があるのです。)
■利用を許諾されても、その人がまた利用を許諾できるかは別問題!
重要なことなので、
もう少し利用許諾契約の性質について、
特徴を書きます。
利用許諾契約は、
あくまでその契約当事者である利用者に対してする契約です。
なので、
利用者がさらに第三者に対して著作物の利用を認められるようにするためには、
それはそれで別途規定する必要があります。
「また貸し」は禁止なのか「OK」なのか、
はっきり決めなくてはならないんですね。
■利用を許諾されても、「独占的」に利用できるかは別問題!
つぎに、独占的許諾かどうかという論点があります。
利用許諾契約には、
独占的な利用許諾契約と
非独占的な利用許諾契約があるのです。
独占的とはつまり、
利用を許諾された人だけが利用できる状態ですね。
いいかえれば著作権者がその利用者以外には、
利用の許諾をしてはいけないという義務を負う契約です。
(出版の契約などがこれに似ていますね。)
単に利用を許諾したといっただけでは、
その人だけに許諾したかどうかはわかりません。
むしろ、
契約書に特に規定されていないときは、
原則として非独占的利用許諾契約となってしまいます。
よって、
独占的に利用したい場合は、
その旨契約に規定する必要があります。
ビジネスモデルによっては、
独占か非独占かは非常に重要なポイントになりますから、
間違えないようにしたいところです。
■著作者人格権についても必要に応じて規定
著作権は譲渡や許諾ができる、
という前提で解説をすすめてきましたが、
先程少し触れたように、
これは譲渡することができません。
著作者人格権とは、
・公表権
・氏名表示権
・同一性保持権
という3つの権利のことです。
公表権は、
未公表の著作物を公表するかどうかを決定できる権利です。
氏名表示権は、
表示するとすれば実名にするかペンネーム等の変名にするか
を決定できる権利です。
同一性保持権は、
著作者の意に反して著作物の内容や題名を変更されない権利です。
厳密にいうと契約してもこれらだけは譲渡ができないので、
著作権者の了解を得ておかないといけない場合があります。
実務上は、たとえば、
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(納入物の著作権)
第◯条
納入物に関する著作権(著作権法第27条及び第28条の権利を含む。以下同じ。)は、受注者又は第三者が従前から保有していた著作物の著作権及び汎用的な利用が可能なプログラムの著作権を除き、発注者より受注者へ委託料が完済されたときに、受注者から発注者へ移転する。なお、かかる受注者から発注者への著作権移転の対価は、委託料に含まれるものとする。
2 発注者は、著作権法第47条の3に従って、前項により乙に著作権が留保された著作物につき、本件ソフトウェアを自己利用するために必要な範囲で、複製、翻案することができるものとし、受注者は、かかる利用について著作者人格権を行使しないものとする。
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というように、
「不行使」の約束を書いておくわけです。
■まとめ
著作権は目に見えませんし、
人によってその認識や重要性には差があります。
発注者は、著作物の創作を依頼して、
たとえ報酬を支払ったとしても、
それだけでは著作権が譲渡されたことにはなりませんので、
注意が必要です。
(=著作権の譲渡を希望するときは
その旨契約書に明記する必要があります。)
一方で、
著作権は譲渡されると、
たとえ著作者であっても譲受人の了解を得ないかぎり
その著作物を利用できなくなります。
著作権の譲渡は、
譲渡する範囲や権利の内容を明確にしたうえで、
慎重に契約しましょう!