契約書業務マニュアル

平成15年から契約書だけをつくり続けてきた契約書専門の行政書士

親事業者がやってはいけないこと

航空機業界では、 「権威勾配」 ということばがあるという。

機長と副操縦士の間に、 権威の差があって、 たとえば機長の権威が強すぎると(勾配が急になると)、 もし機長の判断が誤っていても副操縦士がそれを指摘しにくくなり、 重大なミスにつながる、 というようなマネジメント用語だ。

逆に、 機長の権威が弱すぎると (すなわち勾配が浅いと)、 今度はしっかりと運航を管理できない。

両者にもとともと権威の差があることと、 それは程度問題でもあること、 さらにそのデメリットを、 勾配に例えているのだ。

なかなかうまい表現だ。

業務委託取引にしても、 親事業者がどうしても、 下請事業者より優位な立場になりやすい。

これは想像に難くない。

事業者の指示だと、 多少の無理はしてでも、 受注を優先してしまうのが、 下請企業だからである。

そうであれば、 航空業界の用語にたとえれば、 勾配が過度にきつくなる可能性がある。

やはり、 親事業者の行動に一定の歯止めがないとならないだろう。 というわけで、 引き続き下請法についてみていきたい。

具体的にどんな取引が、 下請法の対象になるのかは、 すでに解説したから、

具体的にどんなことが NGになるのか、 という点を説明していく。

下請法が適用される取引においては、 親事業者に、 「義務」と「禁止行為」が 定められている。

事業者は、 これらに従わなくてはならない。

義務については、 具体的には、

次のようなものがある。

①書面の交付義務(3条) → 取引内容に関する具体的記載事項を全て記載した書面を交付しなければならない。

②下請代金の支払期日を定める義務(2条の2) → この期日は、納品日から60日以内で、かつできるだけ短い期間内。

③書類の作成・保存義務(5条) → 取引記録を作成し、2年間保存。

④遅延利息の支払い義務(4条の2) → 年14.6%の割合による遅延利息。


そして 禁止事項については、 次のように規定されている。


①受領拒否(第1項第1号) →注文した物品等の受領を拒むこと。

②下請代金の支払遅延(第1項第2号) →下請代金を受領後60日以内に定められた支払期日までに支払わないこと。

③下請代金の減額(第1項第3号) →あらかじめ定めた下請代金を減額すること。

④返品(第1項第4号) →受け取った物を返品すること。

⑤買いたたき(第1項第5号) →類似品等の価格又は市価に比べて著しく低い下請代金を不当に定めること。

⑥購入・利用強制(第1項第6号) →親事業者が指定する物・役務を強制的に購入・利用させること。

⑦報復措置(第1項第7号) →下請事業者が親事業者の不公正な行為を公正取引委員会又は中小企業庁に知らせたことを理由としてその下請事業者に対して,取引数量の削減・取引停止等の不利益な取扱いをすること。

⑧有償支給原材料等の対価の早期決済(第2項第1号) →有償で支給した原材料等の対価を,当該原材料等を用いた給付に係る下請代金の支払期日より早い時期に相殺したり支払わせたりすること。

⑨割引困難な手形の交付(第2項第2号) →一般の金融機関で割引を受けることが困難であると認められる手形を交付すること。

⑩不当な経済上の利益の提供要請(第2項第3号) →下請事業者から金銭,労務の提供等をさせること。

⑪不当な給付内容の変更及び不当なやり直し(第2項第4号) →費用を負担せずに注文内容を変更し,又は受領後にやり直しをさせること。


なんと11項目にわたる。

それぞれを 明日から解説していきたいが、・・・

これら禁止事項はとても重要である。

なぜなら、 たとえ 下請事業者の了解を得ていても、 また、 親事業者に違法性の意識がなかったとしても、 これらの規定に触れるときには、 下請法に違反することになるからである。

よく見ていくと、 意外と身近に違反の可能性がひそんでいることが、 わかって頂けると思う。