契約書業務マニュアル

平成15年から契約書だけをつくり続けてきた契約書専門の行政書士

覚書のつくりかた3

覚書(おぼえがき)の作成スキルは、 人生を守ってくれる。

すぐに効果は実感できないけれど、 あのとき作成しておいて本当によかった、 という経験を何度もしたし、 そういう場面にも仕事柄多く遭遇している。

「言った、言わない」のトラブルというのは、 特に金銭がからむと、 精神的にも実質的にも、 ダメージが大きい。

ようするに、 詐欺にあったような気持ちになる。

それを防ぐために、 覚書を作成しましょう! という話である。

あとは、 ちょっとした見解の相違や、 期待のすれちがいなどから、 言い争いに発展したが、 なんとか話し合いで妥協し合ったような場合。

これも、 どこかできちんと区切りをつけておかないと、 釈然としないし、 いつか蒸し返されるかもしれない。

そこで、ひとこと、 「覚書をかわしておきましょう」、 と申出て、 いちおうの決着をつけることとするのである。

というわけで、 どうやってつくるかという話だけど、 実はとても簡単である。

手書きでも、 パソコンなどを利用してもよいので、 紙に文書として記録するだけでいい。

というと あなたは、

だったらメールでもよいではないか、

と思われるかもしれない。

それはある意味で正しいし、 僕も実は、 最初はそのように考えていた。

しかし、 実際の事例にふれるにつれて、 メールだと若干、 心もとないのだとわかった。

もっと 確実な方法によるべきだと、 確信するようになった。

メールもたしかに同様の効果があるのだけれど、 メールによる確認や証明には、 欠点もあることがわかったのだ。

メールで済ませる欠点は、 会話が文章化しているだけで、 川の流れのように、 絶えず変化してしまっているということだ。

記録にはちがいないけれど、 論点がまちまちだし、 その都度言いたいことを言っているにすぎない。

そのどこかひとつを切り取ってみたところで、 主張の全体を正確に把握できたとはいえないし、 かといってやりとりのすべてを追って行くとなると、 非常に理解するのに時間がかかるのである。

やり取りを全部読めばいいのかもしれないが、 あるひとつの主張や約束事の確認をするのに、 数十通のメールを対話形式で 交互に読まなければならないというのは、 なんとも不便なはなしである。

もしこれが、 目的の論点にまとをしぼって、 覚書が交わされていたのなら、 どうだろう。

わざわざメールを過去にさかのぼって 全部読む必要もないし、 読み易ければその分、 理解しやすい。

なにかを証明したいときは、 覚書の方がやはり便利だし、 信憑性も高いだろう。

それで、 昨日は、 覚書に絶対にはずせないポイントとして、

まず ①タイトル、

それから ②本文、

そして ③日付、

最後に ④署名があるよ、

という話をしたので、

今日は 具体的にそれぞれを解説したい。

①タイトル

タイトルは、どのようにつけてもいい。

通常は、

覚書、 合意書、 協定書、

といったものをつかう。

どれを使っても構わない。

汎用性の高い表現だから、 どれもおすすめである。

なお、 このブログに書いてあるような方法で書けば、 タイトルはどうであれ、その効力は 立派な契約書と同じであるから、 注意してほしい。

あきらかに自分に不利になるようなことは書かないことだ。

②本文

次に本文を書いていく。 主張したいことや、事実関係を正確に書くこと、 そしてできるだけ簡潔に書くことが求められる。

ここが一番難しいポイントかもしれない。 コツは、まず当事者をはっきりさせること。

覚書を書いていながら、 当事者が誰なのかがはっきりわからないというのは、 非常に困るのだが、実際よくあるミスである。

必ず当事者(つまり対象となる人物とか、法人のこと) を略さず正確に書くことが重要だ。

普通は省略するような場面でも、 決して省略しないようにする。

これは具体化のテクニック のひとつである。

たとえば、

「○年○月○日、私はお金を振り込みました」

と書くのではなく、

「○年○月○日、私は金○○円を○○氏の指定した○○銀行宛に振込みました」

と、具体的な言葉を補って書いていくことである。

書く順番としては、 なるべく事柄の時系列に沿って書くこと。

これは あとで読みやすいようにするためである。

たとえばお金を振込むこととなるからには、 原因があるはずである。

どうしてそういう話になったのか、 そのいきさつから書いておけば、 混乱しないで済む。

条文形式にするかどうかは、 どちらでもいいが、 一般的には

第1条 ・・・ 第2条 ・・・・

という、条文番号で箇条書きにしていくことが多い。 これは、 あとで第○条の規定、 というふうに引用して言いたいときに、 便利だったりするし、 やはり文書に威厳が出るという良さがある。

とはいえ、 それほど内容が長くならない場合は、 無理に第○○条、とやらなくてもいい。

書かない方がいいこともいくつかある。

たとえば主観的なこと。

あのときこうされたから私はこう思った、 うれしかった、悲しかった、 ひどいと思う、 などということは、 たとえそうだったとしても、 主観的なことがらであり、 覚書に記載するのにはそぐわない。

相手を一方的に非難するような内容の文言も、 あとで不利な材料につかわれるおそれがあるので、 書かないこと。

・・・

本文の書き方については、 かなり奥が深いから、 具体的なテクニックについては、 またページをあらためるとして、 まずは全体の構造をみていくことにする。

③日付

本文が書けたら、 末尾に作成日を入れる。

日付は忘れがちだけれども、 あとで決定的な証拠になる可能性があるので、 絶対に忘れないように、 何度も確認したい。

さらに、 単純だけれどなんども遭遇した 致命的なミスは、 年号の入れ忘れである。

必ず、 2013年○月○日 あるいは 平成25年○月○日

のように、 年を省略せずに書いておいてほしい。

こういう、 言うまでも無いようなことにこそ、 実はミスがとても多いのである。

④署名

最後に署名をする。

当事者が2名なら、 その2名がそれぞれ署名をして、 合意の確認をするわけだ。

署名は、直筆で氏名を書き入れることであり、 記名(プリントアウトやスタンプなどで氏名を記入すること) とは明確に区別される。

署名がベストであるが、 やむを得ず記名にした場合は、 絶対にハンコを押してもらうようにする。

署名の場合もハンコを押すに越したことは無い。

そして、この場合のハンコには、 できれば実印を用いてもらいたい。

基本的な要素はこれだけなので、 簡単に作成できることが分かったと思う。

あとは参考になるような書式をみつければ、 楽に作成できる。

注意点とともに、 いずれ 本文作成のコツなども紹介していきたいと思う。

できれば もっと具体的な書き方、 添削例、 シチュエーション別の事例、 関連の深い法律の解説、 綴じ方、 注意点、 自分が渡された時の注意点、 などなどをトータルで解説したいものである。

ブログでどこまで表現できるか心配だけれど、 がんばってみたい。