契約書業務マニュアル

平成15年から契約書だけをつくり続けてきた契約書専門の行政書士

紛争処理解決のための条項例

辛坊治郎氏 コメンテーター休業示唆 という記事がでていた。

小型ヨットで太平洋を横断する挑戦をしていたが、 ヨットが浸水してしまったため、 断念され、救助されて助かったのだ。

僕などは、 「無事に助かってなによりではないか」、 と感じるのだが、 やはり世間の風当たりというのがあるのだろう。

たしかに、なんとなく、

「失敗したら 猛批判されるだろうな」

とは思っていた。

失敗に厳しいというのか、 これって日本人の特徴なのかわからないが、 チャレンジすること、 そして失敗することに対して、 あまり寛容な国民ではないのかなあと思えるときがある。

それとも、どこの国でも似たようなものなんだろうか。

まあ辛坊さんは そもそもマスコミ界の方なわけだから、 そのあたりのシビアな面はよくわかっていらっしゃるのだろう。

シビアと言えば、 契約のあれこれを扱っているせいなのか、 やはりもめごと、 紛争、言い争いのたぐいには よく出くわす。

まあ僕の経験する事柄の場合は、 果敢なチャレンジがどうこうではなくて、 単純に「お金が原因」なのであるが。

もちろん僕は 直接紛争にかかわることはないのだけれど、 やはり生きた人間の心理と言うのは、 契約理論だけではわからないものだ。

話としてうかがうだけでも ときにはこっちまで腹立たしく思ったりもする、 感情の渦巻く世界である。

机の上で学んでいるだけでは、 やはりものごとを正しくみることなんてできないのだと 痛感する。

さて人間、 どんなにうまくいくように思えても、 もめることはある。

いや、 一見うまくいくように思えたときほどあぶない、 というパターンのようなものも経験上、 うっすらと見えて来たように最近感じる。

そんなケースでは 契約書を作成していないことも多く、 後悔することになるのだが、 まあ契約書をきちんと作成できるような状況だと 逆にそもそも紛争になりにくいとも思える。

そう、 いかにも契約書が必要そうなシチュエーションにかぎって、 あまり契約書は活用されていない。

お互いが契約書に慣れていないと、 かえって不要な手間や心理的負担を強いるからだろうが、 もっと手軽に契約書を活用できるようになれば いいのにと強く思ったりもする。

そのためにもこうしたブログや、 書式配布などを これからも積極的にやっていこうと心に誓うのであった。

さておき、

契約書ではもちろん、 当事者が揉め始めたときに備えて、 各種の規定を準備しておくのが普通だ。

いわゆる 協議解決条項などが 代表例だが、 いったんもめてしまうと、 この「協議」の実現自体が 非常にむずかしくなる。

なんというか、 子供っぽいほどの 心理戦がはじまるので、 まず協議の日程がなかなか定まらなかったりするのだ。

たとえば当事者Aが、 解決にむけた話し合いを提案する。 (たいていはメールでの連絡である。)

相手方Bは、 これにたいして、応じてもいいが、そのかわり・・・ と、 やはりメールで 別の条件をだしてくる。

これこれの資料が まずAから出されることが条件だ、 などいってくるわけだ。

Aはなんとか資料を準備するが、 たいていの場合、 Bはこの資料の不備や不完全を主張するなどして、 それを理由に話し合いに応じなかったりする。

あるいは、 日程に応じるふりをしておいて、 当日になってドタキャンする。

こういうやりとりが延々とつづくのが、 もめたときの「協議」の実態なのである。

だから紛争は もめるまえに出来るだけ早く 解決する必要がある。

では契約書の 紛争処理の条項も、 これらの事態を予測して規定することがポイントだ。

中途半端に、 「協議して解決する」などと書くよりは、 あらかじめ具体的に規定しておくことだ。

こういう万が一のための条項は、 それが万が一のための条項であるがゆえに、 締結時点では 相手にも受け入れられやすいという特徴がある。

あくまでも もめたときの話なわけだから、 極端に不都合でなければ、 普通は相手にもOKされるのだ。

そこで、 万が一紛争が生じた場合には、 法的救済手段を講じる前段階として、 当事者間でまず十分協議し、 解決に尽力すべきである旨を まずはっきりと規定してしまう。

そして、 テクニックとしては、 この協議を行う場所をある程度かためてしまう。

つまり 都市名などで 具体的枠組みを決めてしまうことだ。

前述のような協議の開催にまつわる かけひきは、 そもそも話し合いをするか、しないか、 に加えて、

いつどこでやるか、

ということでもめるからだ。

直接会って話すのがベストであるにもかかわらず、 相手方がメールや、 電話、 ときにはなんらかのテレビ電話会議などを申出てきて、 ごちゃごちゃとなって、 結局 協議日程すらまとまらない などということはよくある。

そうこうしているうちに、 なにかやたらと 内容証明による一方的な通知が飛び交い、 非常にストレスに感じたりもするのが 典型的パターンである。

しかし、こういう小手先のテクニックには 一切動じない心構えが重要である。

内容証明が来たといっても、 そういう状況下では、 たいていは一方的な主張や、 感情論ばかりになりがちで、 検討に値しないものばかりだったりするものだ。

よって 和解に向けて具体的な手続が あらかじめ契約書で規定できていれば、 現実的であるし、心構えができていれば、 協議をはぐらかされる可能性は低くなる。

備えよ常に、である。 なにごとも事前の想定と準備が重要なのだ。

ところで最近の書式例には、 当事者間の自主的な解決ができなかった場合、 ADRによる解決を図る場合の規定がみうけられる。

むしろ専門的な事案については、 訴訟を選択するよりも、 その分野の技術的知見を有する専門家の判断を仰ぐことができるから、 ADRによる解決が向いているとの考え方もあるようだ。

自社の業態などから、 適切に判断し、検討に加えてもいいかもしれない。

規定例としては以下のようになる。

「本契約に関し、発注者受注者間に紛争が生じた場合、発注者及び受注者は、本契約所定の紛争解決手続をとる前に、紛争解決のため協議会を開催し協議を十分に行うとともに、次項以下の措置をとらなければならない。 2. 前項所定の協議会における協議で発注者受注者間の紛争を解決することができない場合、本契約所定の紛争解決手続をとろうとする当事者は、相手方に対し紛争解決のための権限を有する代表者又は代理権を有する役員その他の者との間の協議を申し入れ、相手方が当該通知を受領してから○日以内に(都市名)において、誠実に協議を行うことにより紛争解決を図るものとする。 3. 前項所定の発注者及び受注者の紛争解決のための協議で当事者間の紛争等を解決することができない場合、発注者及び受注者は、裁判外紛争解決手続の利用の促進に関する法律(平成16年法律第151号)第2条第3項に定める認証紛争解決手続であって(都市名)において行われる認証紛争解決事業者を選択し、当該事業者による認証紛争解決手続を通した和解による解決を図るものとする。」

ところで 僕自身は チャレンジやもめ事を 極端に嫌う性格なので、 なにごとも平穏無事で計画通りがベストだと思ってしまう。

でもそれは、 自分でいうのもあれだが、 非常につまらない人間ということではないだろうか。

そんな後悔も手伝ってか、 なんでもやってみる、 チャレンジしてみる人のことは どこか尊敬してしまう。

ぜひ僕の契約書を活用して、 批判をおそれず さまざまなビジネスにチャレンジしていただきたいものである。