契約書業務マニュアル

平成15年から契約書だけをつくり続けてきた契約書専門の行政書士

あなたの利益を守る 権利帰属の規定のしかた

テレビなんかでも、
ちょっと有名なデザインが映像資料でつかわれたりすると、
これって、権利関係どうなってるのかなー
などと気になったりしないだろうか。


業務委託契約なんかでは、
知的財産権について規定しなければならないときがあり、
これが一般の人にはかなり、
苦手意識を生むようである。


まあ目に見えない権利の問題であるし、
権利はすなわち観念的なものだから、
イメージや体験としてはとらえにくい。


仮に
自分がつくったソフトウェアがあったとして、
誰かがそれを勝手につかって金儲けをはじめたら、
やはり文句をいいたくなるだろう。


その文句をいえる根拠のひとつが、
知的財産権なのだ、


・・・と考えればすこしわかりやすいだろうか?


このことは、
たとえそのソフトウェアの制作代金等を、
相手が支払っていたとしても、
それとはまた別の問題だから注意が必要だ。


必ずしも、
お金だけの問題じゃないのである。


つまりあなたが代金を受け取っていても、
それをもってあなたの権利が相手に完全に手渡されるのかというと、
理論上は、そういうことではない。


実際は
とっぱらいといって、
権利ごと買い取られるのが普通だけど、
そのあたりはひとまずおいておく。


ともかく、
感覚的には納得しにくい部分もあり、
契約書に書いてよく確認しあうことがだいじだ。


ここまでをかるくまとめると、
たとえばあなたが受託して
開発したソフトウェア等を
相手方に納入するに際しては、
特許権著作権、ノウハウやなんかの、
いわゆる知的財産権のやりとりが
発生する場合があるよ
ということだ。


それら
知的財産権の帰属については、
双方の利害が対立することになるから、
契約で明確に規定しておくべきである。


なんだか話が広がってきたので、
ひとまず
特許権にしぼって
考えておこう。


まず
特許がとれるのは
その発明をした人だ。

これをむずかしくいうと、

発明者主義に従い、
発明者は、
発明完成と同時に特許を受ける権利(特許法33条)を原始的に取得するから、
当事者のいずれか一方の発明者が単独で発明考案した場合には、
特許権等は当該当事者に帰属する、

といいかえられるだろう。


我が国の特許法は、
「発明者主義」を採用し、
特許を受ける最初の権利主体を発明者に限っているのだ
(特許法第29条第1項柱書、第49条7号)。


ひとまず、
発明者が特許を受ける権利者であって、
法人は発明者となれないのだな、
くらいにおぼえておいてほしい。


ここまでは単純なんだが、
現実の仕事の上で発明があったりする場合は、
いろんな人がかかわっているのが普通だ。


つまり
2人以上の者が
実質的に協力し合って発明を完成させる、
というシチュエーションが多くあると思う。


この場合は共同発明として、
特許を受ける権利は
発明者全員の共有となる。


というか、
共有者全員でなければ特許出願することができない
(特許法第38条)といえる。



つまり、
ソフトウェアなんかは典型だけど、
受注者と発注者が共同で発明考案した
とかなってくると、
ややこしいのだ。


そこは、
特許権等は両当事者間で
その貢献度に応じて共有する、
などと規定する例が多い。


まあ規定のうえではそれが合理的に思える。
実際には貢献度は目に見えないし、
客観的にはかることはむずかしいのだが。


あるいは、
共同発明にあたるのかどうか、
共同発明者に該当するかどうかの
線引き、判断がむずかしいという問題も残る。



これをたとえば
共同発明者の該当性として

(a) 着想を伴った新しい課題を提供した者  
(b) 課題解決のために新しい解決方向を提案した者  
(c) 他人の着想に基づいて実験等を行い、発明を完成に導いた者  
(d) 他人の着想について、それを具体化させ得る技術的手段を与え、発明を完成させた者

などと
ジャッジの基準を例示しておいて、
あらかじめ定義してもよいのかもしれない。

貢献度についても、
なんらかの基準を設けることは理論上は可能だろうか。

でも、
事前に契約で明らかにできるかといえば、
おそらく不可能に近い。


つまり、
ちょっと深追いになるので、
このあたりは、実際のリスクとの兼ね合いで、
規定のボリュームを判断していくべきだろう。


さて特許が生じるとして、
考えておかねばならない
問題はむしろその先にある。


受注者が特許権等を保有するとしても、
ソフトウェアを使用するのに必要な範囲では、
発注者(つまりソフトウェアを委託した人)も
特許権等を使用する必要があるということだ。


つまり、
権利帰属の問題としてはクリアになったが、
だから利用してはいけないなどといわれても困るのだ。
当然、使用許諾をほどこさねばなるまい。


そこで、一般的には、
通常実施権を許諾することになる。

 


「実施権」ていうのは、
特許されている発明を実施する権利のこと。
一般にライセンスというのは、
契約による実施権許諾のことだ。

この実施権に、
「専用実施権」と
「通常実施権」の
2種類があることは
わりと有名なので、
ご存知かもしれない。

すこし乱暴だけど
簡単にいえば
専用実施権といったときは
ライセンスを受けた者だけが独占的に実施できるという意味。

独占的だから、
自分もまたその発明を実施することはできないことになる。

はんたいに
通常実施権のほうは、
独占的ではなく、
複数人に設定することができる。


(通常実施権者のほうは、
他人が発明を実施したからといっても
それのみでは自分から差し止め請求やら、
損害賠償請求やらを行うことはできないという
違いもある。)


そんなわけで
目的物(この場合ソフトウェア)に特許が生じていれば、
使用する発注者のほうは、
理論的には実施権を許諾してもらえることを、
契約で明確にしておいてもらう必要があるということだ。

またソフトウェアに
第三者に使用させるものがあれば、
規定例としては、
一定の第三者に使用せしめる旨
契約の目的として特掲したうえで
当該第三者に対しても許諾するとかいった意味の、
断り書きをしておく必要があるだろう。


なお、
このとき許諾についての対価が
その契約の委託料に含まれるとするならば、
(まあ普通そうすると思うが)
その旨かならず規定しておきたい。


そうじゃないと、
別腹になってしまうおそれがある。


いつもの規定例を示す。


「本件業務遂行の過程で生じた発明その他の知的財産又はノウハウ等(以下あわせて「発明等」という。)に係る特許権その他の知的財産権(特許その他の知的財産権を受ける権利を含む。但し、著作権は除く。)、ノウハウ等に関する権利(以下、特許権その他の知的財産権、ノウハウ等に関する権利を総称して「特許権等」という。)は、当該発明等を行った者が属する当事者に帰属するものとする。
2. 発注者及び受注者が共同で行った発明等から生じた特許権等については、発注者受注者共有(持分は貢献度に応じて定める。)とする。この場合、発注者及び受注者は、共有に係る特許権等につき、それぞれ相手方の同意及び相手方への対価の支払いなしに自ら実施し、又は第三者に対し通常実施権を実施許諾することができるものとする。
3. 受注者は、第1項に基づき特許権等を保有することとなる場合、発注者に対し、発注者が本契約に基づき本件ソフトウェアを使用するのに必要な範囲について、当該特許権等の通常実施権を許諾するものとする。なお、本件ソフトウェアに、一定の第三者に使用せしめる旨を契約の目的として特掲した上で開発されたソフトウェア(以下「特定ソフトウェア」という。)が含まれている場合は、当該個別契約に従った第三者による当該ソフトウェアの使用についても同様とする。なお、かかる許諾の対価は、委託料に含まれるものとする。」