契約書業務マニュアル

平成15年から契約書だけをつくり続けてきた契約書専門の行政書士

揉めている相手と「協議」なんてできるのか? 誠実協議条項について

契約書に
よく書いてあるものに、
協議条項というものがある。

なにかあったら「別途協議して定める」
とか「誠実に協議する」
といったものである。

契約書に定めていないことについては、
話し合って決めましょう
という意味だ。

「互いの解釈が相違した場合」
などにも、
協議することとなっているものもある。

では、
話し合えば解決するだろうか。

先日も
ある小規模な新聞社が、
支援団体から支援を断たれたとかで、
話題になっていた。

発端は
ようするに運営上のことについて
支援団体側と、
運営者側とで、
意見が食い違ったことで、
それがいっこうに解消しなくて、
支援者が支援を打ち切るまでにいたったらしい。

それに関して解説した
ネット上の記事を読んだのだけれど、
正直具体的なことまではわからなかった。

というか、
単に確認すればすむ話ではないか?
くらいに(僕には)思えた。

だがこれは、やはり
部外者(僕)だからだろう。

やはり当事者たちにおいては、
表に出てこないたくさんのやりとりが
あってのことなんだと思う。

やはり間接的に伝え聞くだけでは、
当事者の発する微妙なニュアンスとか、
そこにいたるまでの背景も前提もないから、
わからないもんだ。

でもひとついえるのは、
契約の当事者間の協議というのは、
その組織内の会議とは性質がちがうものだということだ。

気心の知れたいわば身内の話し合いとは違い
どうしても対立関係をはらんだものとなりやすい。

たとえば、
相手方は
純粋に意見として言ったつもりであっても、
言われた側は

「口を挟まれた」

と感じてたりするわけだ。


そんなわけで、
ようするに当事者間で、
あらかじめ契約で規定していないようなことを、
「協議」して定めるということは、
実際にはとても難しいことが多い。

いったん揉めてしまってからでは
なおさらである。

もちろん、
協議して定めることが悪いとか、
不可能だと言いたいのではない。

もし、
協議して解決するべきことがらが、
あらかじめ想定されているようなら、
むしろ積極的に詳細な規定を設けるほうがよい。

協議をデフォルトに(「標準」って意味で)
してしまうくらいの対策が必要だ。


例えば以下のような規定例がある。

「甲及び乙は、本件業務が終了するまでの間、その進捗状況、リスクの管理及び報告、甲乙双方による共同作業及び各自の分担作業の実施状況、仕様書に盛り込むべき内容の確認、問題点の協議及び解決その他本件業務が円滑に遂行できるよう必要な事項を協議するため、連絡協議会を開催するものとする。

これは、
業務委託契約の当事者間で、
協議会を開催して、
むしろ
定期的に話し合いの場をもちましょう
という規定である。

この話し合いのタイトルは、
例会とか、
定期協議会とか、
ふさわしいものをあてればいい。

規定例では、
協議の内容についても、
大まかであるが規定してある。

こういう細かい配慮が、
実効性を高めてくれるわけだ。

ただし
この協議会の暴走を防ぐために、
一定の重要なことがらについては、
この協議会では定められないようにしておくことも重要だ。


たとえば

「但し、本契約及び個別契約の内容の変更は第○○条(本契約及び個別契約内容の変更)に従ってのみ行うことができるものとする。」

のようにしておくわけだ。

協議会で決めたからなんでもかんでも
変更できるんだ、などといわれたら、
たまったものではない。

実際、
過去に僕が関わった団体でも、
ささいな意見対立からクーデターみたいなことになり、
あげくのはてに
「○○会で決めたから○○さんには権限がない」
だから
どうのこうの、・・・
というロジックが使われていた。

あきらかに
協議会の悪用
である。

法的には無効であるが、
議論の参加者全員にはそこまで考えがおよばないので、
なんとなく集団心理なのか
あたかもそちらが
正しいかのように見えてしまい、

うそがまかりとおってしまう、
通用してしまうことがあるのだ。

ほんとうにおそろしいものである。


また、
どんな協議会をするかだけについて定めると、
どうしても絵に描いた餅になりやすいので、
開催頻度についてもふれておくべきだ。



「いつやるのか?」



というやつである。


冗談ではなく
たとえば

「連絡協議会は、原則として、個別契約で定める頻度で定期的に開催するものとし、そ
れに加えて、甲又は乙が必要と認める場合に随時開催するものとする。」


のように規定しておくのが
いいと思われる。


しかし、
個人的に経験してきた数々の、
組織内の不調和を思い返すに、
もっともおすすめしたい対策は、
なんといっても議事録である。

議事録の大切さは、
トラブルを経験してはじめてわかる。

(残念ながら、
普段は完全に余計な仕事である点が特徴だ。)

先に規定例を示すと

「乙は、連絡協議会の議事内容及び結果について、書面により議事録を作成し、これを甲に提出し、その承認を得た後に、甲乙双方の責任者がこれに記名押印の上、それぞれ1部保有するものとする。乙は、議事録の原案を原則として連絡協議会の開催日から○日以内に作成して、これを甲に提出し、甲は、これを受領した日から○日以内にその点検を行うこととし、当該期間内に書面により具体的な理由を明示して異議を述べない場合には、乙が作成した議事録を承認したもの
とみなすものとする。」

というかんじだ。

議事録はとにかく
作成が面倒であり、
また、最近はメールや
各種のグループウェアでログが残るので、
どうしても議事録不要論がでてくるのは、
これも理解できる。

結果的には議事録なしの協議は、
多くなるだろう。

しかし、
契約の相手方との協議は、
身内の会議とは違う、
常に対立の可能性を秘めたものであることを
思い出してほしい。

明確なしくみができあがって、
議事録にかわるものとして通用しているから
作成しないのか、
それとも単に怠けているだけなのかは、
よく確認したほうがよいだろう。

ひとたびもめ事になった際の、
紙の議事録の威力はみのがせない。
動かぬ証拠になるのである。

悪いことは言わないので、
(体裁はともかく)その場で議論された内容を
記録に残しておくことだけは強くおすすめしたい。

体裁にこだわって、
書けなくなるくらいだったら、
へたくそでもなにか書いて残しておいた方がいい。