契約書業務マニュアル

平成15年から契約書だけをつくり続けてきた契約書専門の行政書士

失敗しない契約書の構造 再委託をしてよいかどうかの考え方

さらに契約戦略への理解と
リテラシーを高めていくために、
一般条項についても解説したい。

前半部分が読め、
大まかに取引の概要をつかんだところで、
中盤へと契約書を読み進めていくことになる。

ここからはいよいよ、
取引の具体的な内容である、
契約条件の条項が、
ならんでいくため、
かなり、
オリジナルな内容になることが多い。

たとえば契約金額は
まちまちであろうし、
納期もそうである。

ところで
こういう「オリジナルな規定」があると、
あらかじめ書式を用意しておくという手が
つかえなくなる。

その場の状況にあわせなければならないからだ。
しかし、便利な方法がある。

こうした個々の事情が反映される、
定型化しにくい部分は、
個別契約によって定めるとか、
あるいは別紙に書いてしまうのだ

その方が、
基本契約のように
あまり取引ごとにかわらない共通的な項目と、
契約金額のように個別的なものとを、
わけて取扱うことができ、
非常に便利だからである。

着せ替えのようなものだ。

ところで
すべての契約書に共通するとまでは
いえないが、
とはいえまったくのオリジナルでもない、
ある程度「パターン」がしぼられるタイプの条項がある。

たとば、
再委託条項

再委託とは、
委託契約において、
依頼した業務の一部(場合によっては全部)を、
さらに他の業者なりにお願いするということだ。

たとえば
あなたが友人に、
いくらか支払って、
自分のもっている名刺を
エクセルに整理してもらうとしよう。

いわば業務委託したわけだ。

あなたは友人の仕事ぶりに
満足していたが、
あるとき、
友人は別の友人に、
入力作業をやらせていたことがわかった。


友人は、
信頼できる人だから大丈夫だというが、
あなたとしては、
大切なリストの情報が漏れたような気がして、
あまり納得できない。

せめて、
事前にひとこと打診するなり、
許可を得てからにしてほしかった、
と思うかもしれない。

このあたりが
再委託の問題だ。

もちろん、
再委託を一切禁止する
という規定
も考えられる。

一律に禁止してしまえば、
再委託に関しては問題はおきないだろう。
はじめからそういう契約条件だからである。
リスクは小さくなる。

ただ、
再委託において一般的な定め方はそうではなく、
委託者の「承諾を得る」ことによって再委託が可能になる、
という内容が非常に多い。

もし、
再委託を一切禁止してしまうと、
再委託した方がコストが安くなるような作業でも、
外注できないことになり、
発注者にとってもデメリットを生じることがあるからだ。

再委託の可否を、
法律的にいうと、

請負契約では、
受注した仕事を受注者が第三者に
再委託することは本来自由である。

一方で、
(準)委任契約においては、
原則として再委託は禁止される。

そのような前提を踏まえて、
当事者間に明確なルールをつくるべく、
再委託条項が規定される。

そこで、
一般的によくつかわれる、

①依頼者の「事前承諾」を設けるパターンと

②受託者の裁量で再委託先を選定できるパターンの、

両方を覚えておきたい。


なお、
丸投げ禁止の趣旨からか、
業務の全部を再委託することは認めない実例が多い。


①事前承諾パターン

「乙は、事前に甲の承諾を書面で得た場合又は甲が指定した再委託先に再委託する
場合、各個別業務の一部を第三者に再委託することができるものとする。なお、甲が上記の承諾を拒否するには、合理的な理由を要するものとする。
2. 乙が、前項の承諾に関して、甲に対して再委託開始時期の○日前までに当該再委託先の名称及び住所等を記載した書面による再委託承諾申請を通知し、甲から当該通知受領後○日以内に具体的理由を明記した書面による承諾拒否の通知がない場合、甲は当該再委託を承諾したものとみなす。
3. 甲の承諾拒否により、乙が他の再委託先を選定することが必要になった場合は、作業期間若しくは納期又は委託料等の個別契約の内容の変更については、別の規定によるものとする。
4. 乙は当該再委託先との間で、再委託に係る業務を遂行させることについて、本契約に基づいて乙が甲に対して負担するのと同様の義務を、再委託先に負わせる契約を締結するものとする。
5. 乙は、再委託先の履行について甲に帰責事由がある場合を除き、自ら業務を遂行した場合と同様の責任を負うものとする。但し、甲の指定した再委託先の履行については、乙に故意又は重過失がある場合を除き、責 任を負わない。」

②受託者の裁量で再委託先を選択できるが、
依頼主からの中止請求も可能パターン

「乙は、乙の責任において、各個別業務の一部を第三者(甲が指定する再委託先も含む。)に再委託することができる。但し、乙は、甲が要請した場合、再委託先の名称及び住所等を甲に報告するものとし、甲において当該第三者に再委託することが不適切となる合理的な理由が存する場合、甲は乙に、書面により、その理由を通知することにより、当該第三者に対する再委託の中止を請求することができる。
2. 前項但書により、甲から再委託の中止の請求を乙が受けた場合は、作業期間若しくは納期又は委託料等の個別契約の内容の変更について、別の規定によるものとする。
3. 乙は当該再委託先との間で、再委託に係る業務を遂行させることについて、本契約に基づいて乙が甲に対して負担するのと同様の義務を、再委託先に負わせる契約を締結するものとする。
4. 乙は、再委託先の履行について甲に帰責事由がある場合を除き、自ら業務を遂行した場合と同様の責任を負うものとする。但し、甲の指定した再委託先の履行については、乙に故意又は重過失がある場合を除き、責任を負わない。」


お仕事の依頼主にとって
大きな問題のひとつは、
秘密の漏えいリスクである。

たとえば再委託先が
同業他社の案件にも携わっている場合などは、
当然、そのような再委託先を
排除したいところだろう。

そこで、
あらかじめ契約条項で
再委託先の選択や、
拒否が可能なように
しておくべきなのである。

パターン化した条項は、
あらかじめパーツとしてとりだして、
理解しておくことができる。

料理のように、
基本形を数多くマスターしてしまえば、
組み合わせたり、いろいろとアレンジしたりして、
まったく別のメニューを引き出すこともかんたんにできるのだ。