契約書業務マニュアル

平成15年から契約書だけをつくり続けてきた契約書専門の行政書士

債務不履行にもかかわる「ウイーン売買条約」とはなにか?

債務不履行にたいして
解除や損害賠償請求権が
みとめられるという説明をしたので、
ウィーン売買条約についても補足しておきたい。

民法からは直接導けないものの、
国際的には、
相手方の不完全履行に対して、
売主からの追完を認めるというルールもあったりする。

そこで有名な、ウイーン売買条約についてであるが、
ウィーン売買条約とは、
正式には「国際物品売買契約に関する国連条約」)という。

国際連合国際商取引委員会(UNCITRAL)が起草、
1988年に発効した国連条約で、
契約や損害賠償の基本的な原則を定めたものである。

国境を越えた売買に関する条約、
と一般的には説明されている。

内容はこまかいので
説明しきれないが、
ここでいいたいのは、
国際間の物品売買契約には、
ウィーン売買条約が適用される可能性が高いということ。

条約であるから参加国が重要になるが
先進国のほとんどが参加しており、
なにしろ日本も参加、
2009年8月1日より発効している。

そう、
つまり日本もこのルールのなかにはいっているわけだ。

ウィーン売買条約の重要規定はいろいろあるが、
瑕疵担保責任
損害賠償責任、
危険負担など、
おなじみのルールがある。

不可抗力に関する規定も、
非常に実際的でわかりやすい。

不可抗力免責の表現などは、
そのまま日本国内でつかわれる
契約書にとっても、参考になると思う。

しかし、
国際間の売買契約において、
参加国は必ずこの条約にしたがわなければいけないか、
というとそうではない。

むしろ、
当事者同士が独自に決めたルールがあって、
そちらを適用させることが確認できていれば、
契約書上で、
ウィーン売買条約は適用されない、
などと決めておく事も可能だ。


条約上も、

CISG6条 
当事者は,この条約の適用を排除することができるものとし、・・・、この条約のいかなる規定も、 その適用を制限し、又はその効力を変更することができる。 

とあるのだ。


とはいえ、
ある市場における
ルールの統一は、
好ましい面もある。

サッカーはルールが明確でわかりやすいから、
世界各国で盛んであるし、
やはり、
盛り上がることができる。

これが仮に、
地域ルールばかりであれば、
こんなに普及することもないだろうし、
ワールドカップなどような大規模なイベントも
できないだろう。

今後の事例の積み重ねによって、
ウィーン売買条約を単純に排除するのではなく、
合わせ技で活用する動きにもなるかもしれない。

こうした周辺の関連法(この場合は条約)
との関係も複眼的にみていく必要があるのだ。


参考までに売主の追完権等に関するウィーン売買条約の条項をのせておく

CISG37条【引渡期日前の売主の追完・修補権】 売主は,引渡しの期日前に物品を引き渡した場合には,買主に不合理な不便又は不合理な費用を生じさ せないときに限り,その期日まで,欠けている部分を引き渡し,若しくは引き渡した物品の数量の不足分を 補い,又は引き渡した不適合な物品の代替品を引き渡し,若しくは引き渡した物品の不適合を修補するこ とができる。ただし,買主は,この条約に規定する損害賠償の請求をする権利を保持する。

第48条【引渡期日後の売主の追完・修補権
(1) 次条の規定が適用される場合を除くほか,売主は,引渡しの期日後も,不合理に遅滞せず,かつ,買 主に対して不合理な不便又は買主の支出した費用につき自己から償還を受けることについての不安を生 じさせない場合には,自己の費用負担によりいかなる義務の不履行も追完することができる。ただし,買主 は,この条約に規定する損害賠償の請求をする権利を保持する。

(2) 売主は,買主に対して履行を受け入れるか否かについて知らせることを要求した場合において,買主 が合理的な期間内にその要求に応じないときは,当該要求において示した期間内に履行することができ る。買主は,この期間中,売主による履行と両立しない救済を求めることができない。

 (3) 一定の期間内に履行をする旨の売主の通知は,(2)に規定する買主の選択を知らせることの要求を含 むものと推定する。

(4) (2)又は(3) に規定する売主の要求又は通知は,買主がそれらを受けない限り,その効力を生じない。