わかる! 使える! 契約書の基本

契約書は経営、起業・独立、副業に必須のスキルです! 自分で契約書がつくれると楽しいですよ

利息制限法の制限利率を超える約定利息の支払について 3

オフィシャルサイトでは参考にしていただきたいビジネス契約書のサンプル集を無料でダウンロードできます。

さらにつづき。
ここからがおもしろい。

裁判所の判断。

---



第3 裁判所の判断


1 前記前提事実に証拠(甲7~9,甲10の1,乙6,7,15~23[枝番をすべて含む])と弁論の全趣旨を総合すると,次の事実が認められる。ア 武富士は,昭和26年3月14日に設立され,同日以降,個人消費者に対する融資業務を行っており,業界最大手の地位にあった。また,武富士は,平成18年判決以前において,顧客に対し,本件期限の利益喪失特約の下,利息制限法の制限利率を超える約定利率(上限金利27.375%)で金銭を貸し付けていた。

イ 武富士の,平成17年4月1日~平成18年3月31日の事業年度における有価証券報告書(甲10の1)には,事業等のリスクとして,下記の趣旨の記載がある。


記

武富士は,銀行振込による融資や提携ATMでの融資等をした一部の顧客に対し,貸付けに係る契約を締結した際に遅滞なく交付しなければならない貸金業法17条1項所定の書面を,即時に渡すことができていなかった。同書面の未発行が問題とされた場合,業態の変更を余儀なくされるリスクが発生し,業績に影響がある。

武富士が弁済を受けた際にATMを通じて顧客に交付していた受取証書は,貸金業法18条1項の要件を欠いていた。したがって,上記貸金業法17条1項所定の書面の問題と同様に,業態の変更を余儀なくされるリスクが発生し,業績に影響がある。

武富士の貸出金利の利率は利息制限法所定の制限利率を超過していたところ,最高裁平成15年第386号・同年第390号同16年2月20日第二小法廷判決・民集58巻2号475頁及び最高裁平成14年第912号同16年2月20日第二小法廷判決・民集58巻2号380頁以降,みなし弁済規定を厳格に解釈する姿勢が強まり,みなし弁済の成立の難易度が増した。加えて,平成18年判決を受け,みなし弁済の抗弁の成立は極めて困難な状態となった。

上記事業年度の過払金返還額は約187億円となった。平成18年判決の影響により,来期の事業年度においては過払金返還請求事案が増加することが予想され,業績に大きな影響を及ぼす可能性がある。


ウ 被告は,平成16年6月29日から平成22年5月17日までの間,武富士の代表取締役の地位にあった。したがって,遅くとも,同有価証券報告書が関東財務局長に提出された平成18年6月30日時点では,上記イの内容を認識していた。


ア 金融庁は,平成18年判決を受けて,貸金業法施行規則の改正に向けた作業を開始した。
武富士は,平成18年2月16日,金融庁が同月8日に公表した貸金業法施行規則の改正案への対応として,社内でプロジェクトを立ち上げ,同年6月9日には従業員に対する教育資料を作成・配布し,また,下記,などの対応をした。
 顧客に対して交付していた「領収書兼お取引明細書」(乙18,19)の裏面に,本件期限の利益喪失特約を記載していたが,同記載を削除した。

 平成19年12月以降は,「領収書兼お取引明細書」(乙20,21)の裏面に,「本契約の約定に基づく返済を1回でも怠ったとき(利息制限法第1条第1項に規定する利率を超えない範囲においてのみ効力を有します。)」と記載し,遅延損害金の利率について,利息制限法1条1項に規定する利率を超えない範囲においてのみ効力を有する旨の記載を加えた。
また,同「領収書兼お取引明細書」及び「ATMお取引明細書(領収書)」(乙22,23)の裏面に,利息制限法を超える利息の支払義務がなく,その支払は任意であると記載した。

イ 他方,被告は,武富士の顧客との取引について,引直計算をする指示等をせず,武富士は,更生手続を進めるまで,引直計算をしなかった。

 武富士は,平成18年判決とこれを受けた会計監査ルールの厳格化によって財務内容が急激に悪化し,平成18年12月の貸金業法の改正により営業貸付金残高(顧客に対する貸金残高)が大幅に減少することが確実となった
こと,いわゆるサブプライム・ローン問題により新たな資金調達も困難となったことなどを理由として,平成22年9月28日に,東京地方裁判所に対して更生手続開始の申立てをし,同年10月31日,更生手続開始決定を受けた。

æ›´ç”Ÿå‚µæ¨©è€…ã®å¤§éƒ¨åˆ†ãŒéŽæ‰•é‡‘å‚µæ¨©è€…ã§ã‚ã‚Šï¼Œãã®æ•°ã¯ï¼’ï¼ï¼ä¸‡äººã‚’è¶…ãˆã¦ã„ãŸã€‚ã¾ãŸï¼Œå¼•ç›´è¨ˆç®—ã‚’è¡Œã£ãŸå ´åˆï¼Œç´„å®šåˆ©çŽ‡ä¸‹ã§ã¯è²¸ä»˜æ®‹é«˜ã®ã‚ã‚‹é¡§å®¢ãŒéŽæ‰•é‡‘å‚µæ¨©è €…となる場合が相当数あることが見込まれた。上記の更生手続においては,既に取引が終了している顧客も対象として,別口座の取引は口座ごとに引直計算を行った上で合算し,また,取引履歴のオンライン化以前からの顧客はいわゆる推定ゼロ計算を行うなどして,いわゆる取引の分断が問題となる顧客を含めて引直計算を行った。引直計算が行
われた結果,平成22年6月末日時点で約5100億円あった営業貸付金の残高は,同年10月末日時点には,約750億円にまで減少した。

2 争点
 貸金の返還請求ないし受領が暴行,脅迫等を伴うものであったり,貸金業者が当該貸金債権が事実的,法律的根拠を欠くものであることを知りながら,又は通常の貸金業者であれば容易にそのことを知り得たのに,あえてその請求をしたりしたなど,その行為の態様が社会通念に照らして著しく相当性を欠く場合には不法行為を構成する(平成21年判決)。そして,このことは,貸金業者の代表取締役についても,異なるところはないと解するのが相当である。

平成21年判決は,不法行為の成立を否定したが,平成21年判決の事案は,みなし弁済の適用要件の解釈について下級審裁判例の見解が分かれ最高裁判所の判断も示されていなかった平成18年判決が出る前の貸金の請求について,不法行為に基づく損害賠償を請求した事案である。したがって,平成18年判決が出た後の貸金の請求について不法行為に基づく損害賠償を請
求する本件とは,事案を異にするのであって,平成21年判決により,本件においても直ちに不法行為が成立しないということはできず,不法行為が成立するかどうかは,平成21年判決の要件に照らし,慎重に判断する必要がある。


 前記1ア,イによると,武富士と顧客との間では本件期限の利益喪失特約が結ばれており,また,一部の顧客に対しては貸金業法17条1項所定の書面が遅滞なく交付されておらず,さらに,武富士が弁済を受領した際にATMを通じて顧客に対して交付していたとする受取証書は,貸金業法18条1項の要件を欠いていたと認められる。平成18年判決は,本件期限の利益
喪失特約が結ばれていたとしても,「債務者に対し,支払期日に約定の元本と共に制限超過部分を含む約定利息を支払わない限り,期限の利益を喪失し,残元本全額を直ちに一括して支払い,これに対する遅延損害金を支払うべき義務を負うことになるとの誤解が生じないような特段の事情」がある場合には,任意性は失われないとするが,通常,貸金取引でそのような事態を想定
することは困難であり,武富士において,そのような事情が存したことの主張立証もない。また,前記1イのとおり,有価証券報告書(甲10の1)には,みなし弁済の抗弁の成立が極めて困難な状態となったこと,平成17年4月1日~平成18年3月31日の期間における過払金返還額が187億円であること,過払金返還請求事件の増加により武富士の業務に大きな影響
を及ぼす可能性があることが記載されている。これらの事実に照らすと,平成18年判決以前の武富士と多数の顧客とのほぼすべての取引について,みなし弁済が成立する可能性はほぼなかったと認められる。そして,前記1イの有価証券報告書(甲10の1)の記載からすると,武富士は,平成18年判決により,多数存在する顧客の取引のほぼすべてについて,みなし弁済が成立する余地がほぼなくなったことを十分に認識していたと認められ,武富士の代表取締役であった被告も,遅くとも,上記有価証券報告書が関東財務局長に提出された平成18年6月30日の時点では,そのことを認識していたと認められる。
以上の事実に照らすと,被告は,遅くとも平成18年6月30日の時点では,個々の顧客について,過払金が発生し,顧客に対する貸金債務が消滅していたかどうかまでは厳密には認識していなかったとしても,武富士の多数の顧客に対する貸金の残高が約定利率による残高とは大きく異なっている可能性が高いことは十分に認識していたものと認められる。
そうすると,武富士の代表取締役であった被告においては,武富士がそのまま顧客に対して貸金の返還を請求するとすれば,存在しない貸金(計算上元本が完済となっているもの)について返還を請求することになるから,平成18年6月30日の時点で,貸金業者である武富士の代表取締役であった被告においては,顧客に対する貸金の残高がいくらであるかどうかについて
確認することが求められていたといえる。そして,同残高は,引直計算をすれば判明する。

前記1によると,現に,武富士の会社更生の手続においては引直計算がされており,引直計算に必要な取引履歴は武富士が保有していたと認められる。また,同一の貸主と借主との間で基本契約に基づき継続的に貸付けが繰り返される金銭消費貸借取引において,過払金が,弁済当時存する借入金債務に充当されることは,最高裁平成13年第1023号,第1033号平
成15年7月18日第二小法廷判決・民集57巻7号895頁(以下「平成15年判決」という。)により明らかであり,過払金が弁済当時存しない借入金債務にも充当されることは,最高裁平成18年第1887号平成19年6月7日第一小法廷判決・民集61巻4号1537頁(以下「平成19年判決」という。)によって明らかになっている(平成15年判決は,「当事
者間に充当に関する特約が存在するなど特段の事情がない限り」という限定が付いているが,そのような事情があるかどうかを判定するだ“とは容易であると考えられ,本件取引について特段の事情があるとの主張立証もない。また,平成19年判決が基本契約に基づく取引に広く適用されることは,同判決の文言及び趣旨から明らかである。)。さらに,取引の分断といわれる基
本契約が複数となる事例が多数存在したと認めるに足りる証拠はなく,そのような取引がすべての取引の大部分を占めていたとは考えられないし,更生手続においては,分断が問題となる取引などについても引直計算がされていることに照らすと,分断を肯定しつつそれらの取引における過払金や貸金を合算して引直計算するなどの方法により,引直計算をすることは十分可能で
あったと認められ,そうすれば,武富士に理由なき損害を与えることにならないというべきである。そして,前記1,と弁論の全趣旨によると,引直計算に一定の時間が必要であるとしても,現に更生手続を進めるに当たって引直計算がされており,更生手続開始の申立てから引直計算の終了までは,約1か月(平成22年9月28日から同年10月末まで)であったこと,武
富士は,金融庁の貸金業法施行規則の改正案の公表の8日後に同改正案に対応するためのプロジェクトを立ち上げ,その約4か月後には,従業員に対する指導を行っていると認められることなどの事情に照らすと,約4か月あれば,引直計算を行うことは十分可能であったと認められる。

これらのことからすると,武富士及び被告は,平成19年判決がされた4か月後である19年10月7日の時点以降は,引直計算をして,貸金債権の存否を確認することが十分可能であり,それをすべきであったにもかかわらず,それをせずに,貸金の請求をし,弁済を受けていたから,その時点で貸金債権が存在しない顧客については,通常の貸金業者であれば貸金債権が事
実的,法律的根拠を欠くものであることを容易に知り得たにもかかわらず,あえて顧客に対して貸金の返還を請求し,弁済を受領していたと認められる。したがって,被告において,武富士が平成19年10月7日以降に貸金債権が存在しない顧客に対して貸金の返還を請求し弁済を受領した行為は,不法行為を構成すると認められる。平成19年6月7日より前には,過払金が弁済当時存在しない債務に充当されるかどうかという充当計算の基本的な法律解釈が明確でなかったところ,過払金が弁済当時存在しない債務に充当されないとすると,平成18年判決以後において貸付けがある事案では,平成19年10月7日より前には,顧客に対して貸金の返還を請求し弁済を受領する行為が,必ずしも一義的に根拠を欠き,不相当なものということはできないから,不法行為が成立するとまでいうことはできない。


しかし,平成18年判決以後に貸付けのない事案では,貸金債権があるかどうかは,平成18年10月30日の段階で,引直計算によって明らかにすることができたから,平成18年10月30日から平成19年10月6日までに顧客に対して貸金の返還を請求し弁済を受領した行為についても,不法行為を構成すると認められる。

 被告は,平成18年判決が特段の事情の具体的な内容を示しておらず,平成18年判決後もみなし弁済の成立する余地があり,当時,貸金債務が消滅していたかどうかは判明しなかったと主張する。しかし,平成18年判決は,前記のとおり「特段の事情」の内容を明示しており,それに当たる事情があるかどうかを判断することが困難であったとは解されない上,前記のとお
り,武富士と顧客との取引には,みなし弁済における任意性以外の要件も欠けており,また,平成18年6月30日に提出された有価証券報告書(甲10の1)にもみなし弁済の抗弁の成立が極めて困難である旨が記載されていたことに照らすと,同主張は採用することができない。被告は,平成18年判決を受け,適切な対応を迅速に行ってきたと主張する。しかし,前記のとおり,平成18年判決以前の取引についてみなし弁済が成立しない以上,平成18年判決時点において顧客に対する貸付残高は
約定利率による残高とは異なるのであり,それを踏まえた上での対応が求められるところ,被告が行った前記1の対応は,平成18年判決後の取引について,みなし弁済の成立に向けて書面の改定作業等を行ったというものであり,上記対応を行ったというものではない。したがって,被告の主張は採用することができない。

被告は,平成18年判決以後,貸金業者の監督庁である金融庁から,貸金の返還請求等について指導等を受けておらず,引直計算をすべきであるとの指導監督もなかったと主張するが,そのことだけでは上記認定を左右するものではない。

被告は,平成18年判決以降の過払金の受領について被告の不法行為責任を否定した下級審の裁判例が複数ある点を指摘し,そのことは武富士の貸金請求等が暴行・脅迫に類するような場合に初めて不法行為を構成することを示すものであると主張する。しかし,これらの裁判例と本件とは事案を異にする上,平成21年判決は,不法行為が成立する場合を,貸金請求等が暴行・脅迫に類するような場合に限る趣旨ではなく,「通常の貸金業者であれば容易にそのことを知り得たのに,あえてその請求をしたりした」場合にも,不法行為が成立すると判示しており,被告に上記引直計算の義務が生じたときには,通常の貸金業者が貸金債権の事実的・法律的根拠のないことを容易に認識し得たものである。

つづく