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顧客情報の不正利用 競業的行為をやめさせる方法はあるか 6

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つづき



第4 当裁判所の判断
1 争点1(1審原告らの顧客情報は,1審被告 Y1 及び同 Y2 の携帯電話や記憶に残っていたものも含め,1審原告らの営業秘密に該当するか)について


(1) 認定事実
ア 1審原告らにおける営業の流れと顧客情報の取扱い等
証拠(甲13,18,22,24~26,28,29,31,38,40,41,53,54の1・3,甲55の1~3,甲59,60,67,69の1・2,甲79,82~85,87,乙3,5,7,15の1~6,乙29,30,36,37,41,43,50,62,63,原審証人 F ,同 G ,同 H ,原審1審被告 Y1本人,同 Y2 本人)によれば,次の事実が認められ,この認定を覆すに足りる証拠はない。

(ア) 1審原告ネクストでの投資用マンションの販売に係る営業には,大別して新規営業と買増し営業の2種類がある。

(イ) 新規営業は,従前,1審原告ネクストの営業部に所属する従業員が,教職員名簿や医療関係者名簿等を基に電話をかけ,販売が見込める客に対して継続的に電話をかけたり自宅や勤務先等を訪問したりしながら,新規契約の成立を目指すというものであった。しかし,個人情報保護の必要性が高まってきたことから,平成18年春頃から,電話とコンピュータを融合させて名簿情報等を取り込んだCTIシステムが導入され,50名以上の営業部所属の従業員が,モニター画面に現れた名簿情報等を基に,毎日200件ないし300件ほどの電話をかけ,うち数名ほど
の販売が見込める客に対して継続的に電話をかけたり自宅や勤務先等を訪問したりしながら,新規契約の成立を目指すというものに変わった。見込み客に対する営業活動は,投資用マンションの販売価格が1件約2000万円と高額なため,1件の販売でも少なくて3回,多ければ10回以上,客の自宅や勤務先等を訪問し,世間話や年賀状の送付,身上相談,交遊等を織り交ぜて信頼関係を構築しながら,契約の成立に至るというものであった。このため,営業部所属の従業員は,客の氏名や住所あるいは勤務先程度の情報であれば,自然に記憶するとともに,連絡の便宜上,客から携帯電話の番号を教えてもらって自己の所有する携帯電話に登録することもよくあった。

また,営業部所属の従業員は,CTIシステムから見込み客の氏名や住所,固定電話の番号,勤務先等が記載された見込み用紙を適宜プリントアウトし,これを関係書類と共にとじ込んで交渉経過等を記載した見込み帳や上司に提出する営業報告書,見込み客の氏名や住所,電話番号等を転記した手帳等を作成していた。営業部所属の従業員は,見込み帳等を普段は机の引き出しや施錠付きキャビネットの中に保管していたものの,休日の電話営業のために自宅に持ち帰ったり,訪問営業のために訪問先に持って行ったり,部内の同僚との情報交換の際に写しをやりとりしたりして,営業活動に役立てていた。

(ウ) 1審原告ネクスト営業部所属の従業員は,見込み客との間で投資用マンションの売買契約を成立させると,併せて,1審原告ネクストの完全子会社である1審原告コミュニティから授権された代理人又は使者として,顧客との間で賃貸管理委託契約の締結にも当たっていた。

1審原告コミュニティは,1審原告ネクストが顧客に販売した投資用マンションについて,以後の管理を受託することを主たる業務としており,1審原告ネクストも,1審原告コミュニティが賃貸管理する投資用マンションを適宜買い取ることもあるから,1審原告らは,互いに一致協力することで投資用マンションにより投資の実を挙げようとする顧客の需要に応じているものであって,1審原告ネクストの有する顧客に関する情報は,当然に1審原告コミュニティの業務にも必要なものであって,かつ,投資用マンションの売買契約及び賃貸管理委託契約の一方の当事者
である顧客も,このことを当然了解していた。

このようにして,顧客との間で1審原告ネクストとの売買契約及び1審原告コミュニティとの賃貸管理委託契約が新規に成立すると,当該顧客の情報は,CTIシステムから情報が削除されるとともに,営業部所属の従業員は,当該顧客の氏名や年齢,住所,固定電話・携帯電話の各番号,勤務先名・所在地,年収,所有物件,借入状況等の顧客情報を記載した契約内容報告書を作成し,売買契約書や住宅ローン申込書,賃貸管理委託契約書,各種証明書等の関係書類と併せた顧客ファイルを上司に提出していた。提出された顧客ファイルは,入口ドア上部に監視カメラが設置された営業本部・営業推進本部フロアに移され,営業部を統括する営業本部が顧客ファイルを一元管理するという方針の下に,営業副本部長が鍵を管理して営業本部所属の従業員だけが入室することのできる施錠付き書庫に保管されていた。営業本部は,営業部所属の従業員に対して顧客ファイルの閲覧・複写を認めていたものの,対象書類と目的等を記載するとともに複写する場合は使用後に破棄することも約束して職長の承認印を得た申請書が提出され,営業副本部長が顧客管理システムのデータを確認して承認することをその条件としていた。

(エ) 営業本部は,提出された顧客ファイルや1審原告コミュニティから提供される賃貸管理情 報に基づき,顧客管理システムに約7000名に上る顧客の氏名や年齢,住所,固定電話・携帯電話の各番号,勤務先名・所在地,年収,所有物件,借入状況,賃貸状況等の顧客情報を入力し,電子データとして一元管理していた。顧客情報に関する電子データが保存されているサーバーは,営業本部長とシステム管理者だけが入室することのできる,監視カメラが設置された施錠付きサーバー室に保管されていた。また,顧客管理システムのアクセス権者は,情報セキュリティ管理者と情報システム管理者の両者が承認した営業本部内のカスタマーサポートグループか顧客管理グループに所属する数名の従業員に限定されていた上,顧客管理システムにアクセスをする際には,端末へのログイン時と顧客管理システムへのログイン時の2度にわたって個別のIDとパスワードの入力が求められ,IDやパスワードの有効期間も90日と短期間に設定されていた。

(オ) 買増し営業は,営業部所属の従業員が,過去に投資用マンションを販売した顧客の購入余力を検討した上で,1日数件ほどの電話をかけ,販売が見込める顧客に対して複数回の電話営業や訪問営業を行うとともに,見込み帳や営業報告書等を作成しながら,追加契約の成立を目指すというものであった。購入余力の検討は,営業部所属の従業員において,新規契約の成立後も,顧客からの問い合わせに迅速に対応する必要があるため,契約内容報告書の写しを手元に保管しており,これに記載された借入状況等を参照し,買増しが見込める顧客を大まかに絞り込んだ上で,営業本部に対して源泉徴収票住宅ローン償還表等の借入関係書類等を複写申請するなどし,買増しが見込める顧客を詳細に絞り込む方法で行われていた。

イ 1審原告らにおける情報管理体制の構築と運用等
証拠(甲24,28,32,33の1~3,甲34の1~4,甲42~49,50の1・2,甲51,52,59,66,68,70~74,77の1~3,原審証人 H )によれば,次の事実が認められ,この認定を覆すに足りる証拠はない。(ア) 1審原告ネクストは,平成17年4月1日の個人情報保護法の完全実施を受け,同年6月29日,情報セキュリティ実施手順を定め,以後,定期的な内部監査を行ったり,1審原告コミュニティや関連会社を含めた全従業員に対する研修や試験を毎年実施したり,情報セキュリティに関する意思決定機関である情報セキュリティ委員会を毎月開催したりして改善を進めていった結果,登録審査を経て,同年11月18日,情報セキュリティマネジメントシステムの国内規格であるISMS認証を取得した。
また,1審原告ネクストは,移行審査を経て,平成18年11月2日,1審原告コミュニティや他の関連会社と共に,上記システムの国際規格であるISO/IEC27001認証を取得し,その後も,各種の情報セキュリティを継続して実施し,毎年行われる審査に合格していた。

(イ) 1審原告ネクストは,平成19年1月15日以降,1審原告コミュニティや関連会社を含めた全従業員に対して「ISO27001ハンドブック」を配布し,同年6月末から同年7月初めにかけて実施した試験では,上記ハンドブックを基にした出題がされ,1審被告 Y1 及び同 Y2 の各正答率は,それぞれ9割又は8割であった。上記研修で配布されたレジュメには,脅威から守るべき情報資産として「業務上知り得たお客様の情報(携帯電話番号…)」と記載されているとともに,しなければいけないこととして「情報の外部流出を防止する。」,してはいけないこととして「重要書類を机の上などに放置しない。」などと記載されている。また,上記ハンドブックには,情報記録書面の社外持ち出し申請手順が記載されているとともに,携帯電話の取扱いルールとして「携帯電話からの情報漏洩を防止するため…不要になった情報については速やかに削除すること」,してはいけないこととして「重要書類を机上等に放置しない。」などと記載されている。また,本件就業規則は,1審原告ネクストの各部内に常備されていた。


(2) 検討

ア 顧客情報の帰属先について

(ア) 前記認定の事実によれば,1審原告ネクストから投資用マンションを購入して1審原告コミュニティに賃貸管理を委託した顧客の氏名,年齢,住所,電話番号,勤務先名・所在地,年収,所有物件,借入状況,賃貸状況等から構成される情報(以下「本件顧客情報」という。)は,いずれも1審原告らの従業員が業務上取得した情報であるから,これを従業員が自己の所有する携帯電話や記憶に残したか否かにかかわらず,勤務先の1審原告らに当然に帰属するというべきである。そして,前記第2の1(2)及び第4の1(1)ア(ウ)に認定のとおり,1審原告コミュニティは,1審原告ネクストの完全子会社であって,1審原告ネクストが顧客に販売した投資用マンションについて,1審原告ネクストの従業員が1審原告コミュニティの代理人又は使者として賃貸管理委託契約を締結し,以後の管理を受託することを主たる業務としており,1審原告ネクストも,1審原告コミュニティが賃貸管理する投資用マンションを適宜買い取ることもあるから,1審原告らは,互いに一致協力することで投資用マンションにより投資の実を挙げようとする顧客の需要に応じているものであって,1審原告ネクストの有する本件顧客情報は,当然に1審原告コミュニティの業務にも必要なものであって,かつ,投資用マンションの売買契約及び賃貸管理委託契約の一方の当事者である顧客も,これを当然了解しているものである。以上のような1審原告らの関係によれば,1審原告らは,本件顧客情報を相互に提供することで顧客の需要に応じているものと認められ,本件顧客情報は,1審原告らのうちのいずれの従業員が取得したかを問わず ,1審原告ら双方に帰属するものといえる。そして,1審被告 Y1 及び同 Y2 の各陳述書(乙62,63)によれば,1審被告 Y1 及び同 Y2 の携帯電話や記憶に残っていた本件顧客情報は,いずれも1審原告ネクストでの投資用マンションの販売業務に関連して取得されたことが認められるから,勤務先の1審原告ネクストに帰属するとともに,上記のとおり,1審原告コミュニティにも帰属するものといえる。したがって,本件顧客情報は,1審被告 Y1 や同 Y2 の携帯電話や記憶に残っていたものを含めて,いずれも1審原告らに帰属するというべきである。


(イ) 以上に対して,1審被告らは,1審原告ネクストの従業員が全ての営業先の連絡先を得ていたわけではなく,独自の経済的負担で営業活動をしていたばかりか,業務上知り得た情報が全て勤務先に帰属すると解することが職業選択の自由を著しく制限するから,1審原告ネクストの顧客情報がその元従業員であった1審被告 Y1 及び同 Y2 にも帰属する旨を主張する。しかしながら,1審原告ネクストの従業員は,いずれも本件顧客情報の一部を1審原告ネクストの業務を遂行する上で取得したものであるばかりか,前記(1)ア(ウ)及び(エ)に認定の事実に照らせば,他の従業員が取得した顧客に関する情報について容易に知り得る立場にあったわけではない。また,その業務遂行に当たって独自の経済的負担があったからといって,1審原告ネクストの従業員は,直ちに本件顧客情報の帰属主体となるものではないし,1審原告らの事業内容及びそこにおける本件顧客情報の重要性に照らすと,本件において1審原告ネクストの従業員が業務上知り得た情報が1審原告らのみに帰属したとしても,憲法の規定を踏まえた私法秩序に照らして1審原告ネクストの従業員の職業選択の自由を看過し難い程度に著しく制限するものとまでは評価できない。よって,1審被告らの上記主張は,採用できない。

イ 秘密管理性について
(ア) 不正競争防止法における「営業秘密」とは,秘密として管理されている生産方法,販売方法その他の事業活動に有用な技術上又は営業上の情報であって,公然と知られていないものをいい,①秘密管理性,②有用性,③非公知性が要件とされている(同法2条6項)。


(イ) このうち,本件における秘密管理性についてみると,前記第2の1(1)及び(2)に認定のとおり,1審原告ネクストは,資本金の額が18億円を超える東京証券取引所市場第2部の上場企業であり,1審原告コミュニティも,資本金の額が5000万円の株式会社ではあるものの,1審原告らは,前記アに認定のとおり,本件顧客情報を共同して保有するものである以上,両者併せて相応の情報管理体制が求められるというべきである。

そして,前記(1)ア(ウ)及び(エ)に認定のとおり,本件顧客情報は,1審原告ネクストの営業部を統括する営業本部により,顧客ファイルや顧客管理システムに保管された電子データとして一元管理されており,顧客ファイルや顧客管理システムは,いずれも入室が制限された施錠付きの部屋に保管されている上,その利用も,前者は営業本部所属の従業員と所定の申請手続を経た営業部所属の従業員に限定され,後者も所定のログイン操作を経た営業本部所属の従業員に限定されている。なお,本件顧客情報は,前記(1)ア(オ)に認定のとおり,営業部所属の従業員によって契約内容報告書の写しとして保管されてはいるものの,これは,顧客からの問い合わせに迅速に対応したり買増し営業が見込める顧客を絞り込んだりするという営業上の必要性に基づくものである上,1審原告らは,前記第2の4(1)及び(2)並びに前記第4の1(1)イに認定のとおり,各部内に常備された本件就業規則で秘密保持義務を規定するとともに退職時に秘密保持に関する誓約書を提出させたり,各種の情報セキュリティを実施してISMS認証やISO/IEC27001認証を取得し,毎年行われる審査に合格したり,従業員に対する「ISO27001ハンドブック」の配布やこれに基づく研修・試験といった周知・教育のための措置を実施したりしていたのであるから,1審原告らは,従業員に対して,本件顧客情報が秘密であると容易に認識し得るようにしていたものといえる。

(ウ) 以上を総合すれば,1審原告らは,本件顧客情報に接し得る者を制限し,本件顧客情報に接した者に本件顧客情報が秘密であると認識し得るようにしていたといえるから,本件顧客情報は,1審原告らの秘密として管理されていたということができる。

(エ) 以上に対して,1審被告らは,本件顧客情報について,関係書類が机上に放置されていたり,写しが上司等に配布されたり,上司の指導で休日等における営業のために自宅に持ち帰られたり,手帳等で管理されて成約後も破棄されなかったり,本件就業規則が周知されていなかったりするなど,ずさんな方法で管理されていたことから,本件顧客情報は秘密管理性を欠く旨主張する。しかしながら,上記関係書類が上司等に配布されたり自宅に持ち帰られたり手帳等で管理されて成約後も破棄されなかったりしていたとしても,それは営業上の必要性に基づくものである上,1審原告らの営業関係部署に所属する従業員以外の者が上記関係書類や手帳等に接し得たことを窺わせる事情も見当たらず,1審原告らがその従業員に本件顧客情報を秘密であると容易に認識し得るようにしていたことは前記(イ)に認定のとおりである。また,本件顧客情報の関係書類が机上に放置されていたことは,これを認めるに足りる証拠がないしたがって,本件顧客情報が秘密管理性を欠くとの1審被告らの上記主張は,採用することができな い。


(オ) また,1審被告らは,1審原告ネクストの顧客情報である氏名,連絡先又は住所等が単独でも営業秘密として明示されている必要があるのに,そのような明示がされていないとして,当該顧客情報には秘密管理性が認められない旨を主張する。しかしながら,1審原告ネクストは,前記(1)ア(ウ)及び(エ)に認定のとおり,本件顧客情報について厳格に管理を行い,かつ,前記(1)ア(オ)及びイに認定のとおり,従業員に対して,本件顧客情報が秘密であると容易に認識し得るようにしていたから,本件顧客情報の個別の情報について秘密であることを明示するまでもなく,優に秘密管理性を認めることができる。よって,1審被告らの上記主張は,採用できない。



つづく