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著作権の買い取りと、黙示の合意 2 (典型的なトラブル)

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つづき。
納得の論理展開か。

被告の主張にどんな欠点があるか、着目したい。


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3 争点に関する当事者の主張

(1) 争点1(被告は,原告らから本件原画の著作権を譲渡されたか)について

[被告の主張]

被告は,本件原画の引渡しを受けた際,原告らから,本件原画の著作権及び同原画の所有権を黙示的に譲り受けたものであり,原告らは,本件書籍の増刷については被告の随意に委ねていた。本件画料は,上記譲渡の対価として,被告から原告らに対して支払われたものである。原告らと被告との間に上記黙示の合意があったと解するのが合理的であることは,以下の事実から明らかである。

ア 一般的に,絵本の原画は,出版社の買取りとなり,その版権(再版権)は当該出版社に帰属するものとして取り扱われる慣行がある。仮に,再版について別途印税が発生するのであれば,原画の作者と出版社との間で再版に関する取決めが存在しなければならない。本件では,原告らと被告との間で印税について一切取決めがないまま,本件画料が支払われただけで本件書籍が出版されている。

イ 本件書籍の出版に際し,原告らと被告との間で本件書籍の増刷に関する取決めはされていない。しかしながら,本件書籍については,被告と取引のある幼稚園等に対して配本することを予定しており,その発行当初から,年間2000冊程度の配本の目途があった。これに,被告の営業活動等に伴い配本されるものを加えれば,本件第1書籍の初版の1万冊については,その出版・配本を開始した平成17年から4年が経過する平成20年には,当然に増刷が行われるはずであったものであり,このことは,原告らも承知していた。実際,平成20年4月には,本件第1書籍の一部の増刷が開始されている。

また,原告A10及び原告A13は,平成20年6月ころに本件第2原画の制作を依頼された際,被告から,これらの書籍の挿絵は,顧客から特に不評なので,増刷をせずに描き直す必要があると考えている旨を説明されている。したがって,少なくとも原告A10及び原告A13は,他の書籍(原告第1書籍)が増刷となることを知っていたはずである。仮に,同原告らが増刷について異議があったのであれば,この時に,増刷について印税を含めた話になるはずであるのに,同原告らは,増刷について何らの異議も述べなかった。

ウ 被告は,本件第1書籍を発行した後,平成18年から平成21年までの間,被告において本件原画の中から適宜選定した絵を題材としたカレンダーを制作しており,同カレンダーの制作に当たって,事前に原告らの承諾を得ることはなかった。また,被告は,上記のとおり選定された原画の作者である原告らに対して上記カレンダーを配布していたところ,原告らから,上記カレンダーの制作について抗議を受けたことはなく,むしろ,一部の原告らからは,選定についてのお礼やカレンダーの追加配布の注文を受けている。

エ 絵の相場については,画一的な価格は存在せず,画家たちの知名度・人気度等,様々な要素によって定められる。本件では,原告らが制作する絵について,原告ら全員が芸術的に高い評価を受け,その絵が高額で多数取引されているわけではなく,本件のように,絵が10枚分まとめて購入される機会は,それほど多くない。本件書籍は,1冊当たり430円で幼稚園に販売されているため,本件書籍1万冊が販売された場合の被告の売上げは430万円であり,本件画料の金額(50万円)は,上記売上げの1割を超えている。

また,本件書籍は,幼稚園に相当する年齢の子どもたちに漢字仮名交じりによる日本語教育を実践させる理念の下に制作されており,同理念に共感した幼稚園等が本件書籍を教材として採用している。このように,本件書籍は,絵の部分も重要な要素ではあるものの,実は,絵本の字の部分こそが,石井式教育の理念を表象した重要な構成要素である。これらの事情を考慮すると,本件画料の金額は,本件原画に係る著作権譲渡の対価として全く低廉ではない。

オ 原告A2は,前記1(5)のとおり,平成22年7月に被告に対して本件第1書籍の増刷を禁じる旨の警告書を送っている。しかし,これは,被告が本件増刷を開始してから約2年後のことである。また,同原告が,本件第1書籍は平成20年に増刷される予定である旨を承知していたことについては,上記イのとおりである。
原告A2が,本件増刷を承知していたにもかかわらず,本件増刷の開始から約2年も経過した時期に上記警告書を送ったのは,本件書籍の制作の際の被告における担当者であり,同原告と懇意の関係にあったBが,上記警告書が送付されたのとほぼ同時期に被告から解雇されて追放されたため,これに対する意趣返しとして,Bの扇動を受けたことによるものである。

[原告らの主張]被告の主張を否認する。

原告らは,本件原画を被告に引き渡すに当たり,被告に対し,初版として本件書籍を1万部印刷し,これを販売することを許諾したにすぎず,本件画料は,上記許諾の対価として原告らに支払われたものである。原告らと被告との間で,本件書籍に係る著作権の帰属や,将来の増刷の有無に関する話合いがされたことはない。また,原告らは,被告の取引先である幼稚園及び各幼稚園への本件書籍の配本数等を把握していないので,本件書籍の在庫及び増刷の有無を認識しているはずはなく,原告A10及び原告A13も,被告から本件第2原画の制作を依頼された際,原告第1書籍が増刷されるという話は聞いていない。絵本出版業界において,一般的に絵本の原画は出版社の買取りとなるという慣行も存在しない。

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(2) 争点2(原告らの損害)について

[原告らの主張]

ア 著作権侵害による損害
(ア) 原告らは,本件原画を制作する際,初版として本件書籍を1万部印刷し,これを販売することを許諾することの対価として,被告から本件画料(50万円)を受領した。したがって,本件書籍を増刷する際の許諾料についても,上記金額を基礎として増刷数に対応する金額とすること,すなわち,書籍1冊当たり50円とするのが相当である。

本件原画1冊当たり430円程度で販売される本件書籍において,同書籍の極めて重要な構成要素である本件原画の使用料を1冊当たり50円として算定することは,一般的な使用料である定価の10%と比較しても,合理的な金額である。なお,本件書籍における文章の部分は,いずれも有名な童話ばかりであって独創性が認められないため,本件原画の使用料を低下させる要素とはなり得ない。(イ) よって,被告による上記著作権侵害行為によって,原告らは,別紙第2損害金計算表の「著作権侵害による損害」欄記載のとおり,その著作権の行使により受けるべき金銭の額に相当する額の損害を被ったといえる(著作権法114条3項)。

イ 弁護士費用本件訴訟における弁護士費用は,別紙第2損害金計算表の「弁護士費用」欄記載の金額(同表における各原告の「著作権侵害による損害」欄記載の損害額の1割に相当する金額)を下らない。

ウ 遅延損害金被告の著作権侵害に基づく原告らの損害については,別紙第2遅延損害金目録記載のとおり,本件第1書籍が不法に増刷された時から遅滞に陥る。

[被告の主張]
原告らの主張を争う。

絵本の原画を制作した際の画料と,その後の増刷の際に原画の作者に対して支払われる金額とが,同額ということはあり得ない。また,本件書籍は,本件原画のみで構成されているものではなく,前記(1)[被告らの主張]のとおり,絵本の字の部分こそが,石井式教育(幼児への国語漢字教育)の理念を表象した重要な構成要素である。

これらの事情を考慮すると,原告らの主張する金額は過大である。


第3 当裁判所の判断

1 争点1(被告は,原告らから本件原画の著作権を譲渡されたか)について(1)
認定事実
ア 前記争いのない事実等に加え,証拠(甲31の1,2,甲32~37,39,42~45,乙1~4,8~10,16~18,証人B,同C,原告A2本人,同A10本人,被告代表者)及び弁論の全趣旨によれば,次の事実が認められる。

(ア) 被告は,石井式漢字教育指導法の創始者である教育学者の故D博士(平成16年11月に死亡)が創設した,教育教材の製造販売等を目的とする会社である。石井式漢字教育は,幼稚園に相当する年齢の子どもたちに対し,漢字とひらがなを交えた文章による日本語教育を実践するという理念を有している。

被告は,株式会社登龍館(以下「登龍館」という。)との間で業務提携契約を締結
し,登龍館において,漢字とひらがなを交えた幼児向けの絵本(以下「漢字仮名交じり絵本」という。)を制作し,同絵本を,石井式漢字教育の理念に共感する,被告の取引先である幼稚園等に対し,教材として販売していたが,その後,被告と登龍館との間で紛争が生じて訴訟となり,平成16年9月ころ,登龍館との間で裁判上の和解が成立したことにより,登龍館との業務提携は解消された。
このため,被告は,これ以降,被告自ら漢字仮名交じり絵本を制作し,幼稚園等の取引先に販売することとした。

(イ) 被告は,登龍館との間で上記訴訟が継続中であった平成16年の夏ころから,上記の漢字仮名交じり絵本の制作の企画を始め,絵本の名称を「石井式青い鳥文庫シリーズ」とし,2歳ないし4歳の幼児向けを「赤い実シリーズ」,3歳ないし5歳の幼児向けを「白い実シリーズ」,4歳ないし6歳の幼児向けを「青い実シリーズ」と題して,それぞれ10タイトル(合計30タイトル)の書籍を,平成17年4月から平成18年2月までの間,平成17年8月を除き,毎月出版することとした。また,絵本の挿絵には,子どもにおもねるような,小ぎれいでかわいいだけの絵ではなく,画家が本気で描いた,美術作品の手触りを感じてもらえるような原画を用いることとした。

(ウ) 一方,当時,被告の社内には,絵本の制作に関与した経験がある者がほとんどいなかった。そこで,被告は,被告代表者の知人であり,以前出版社に編集者として勤務した経験を有し,画家の知り合いも多いBに依頼し,上記絵本の制作に協力してもらうこととした(なお,Bは,平成17年1月に,上記絵本の企画,編集等を担当するため,被告に入社した。)。

Bは,被告の上記依頼を受けて,印刷会社に対して絵本の印刷費用の見積もりを依頼し,Bの知り合いの画家である原告A2らに連絡して,上記絵本の挿絵の制作を依頼するなどした。また,Bは,登龍館の元社員で当時被告の社員であったEから,登龍館において漢字仮名交じり絵本を制作していた際の原画料(絵本の挿絵を制作した画家に対して支払う画料)が1書籍当たりおおむね50万円程度であったことを聞いた。(エ) Bは,上記見積額等を踏まえて,絵本の印刷数を1万冊とし,絵本1冊(1タイトル)につき10枚の挿絵を用い,画家に支払う画料は絵本1タイトルにつき50万円程度とするのが適当ではないかと考え,その旨を原告A2ら画家たちに伝えた。また,Bは,画家たちに対し,この絵本のシリーズが成功するようであれば,将来被告において新たに絵本を制作する機会もあるだろうから,その際には新たな挿絵の制作を依頼したいと考えている旨を伝えた。

原告A2は,大学の芸術学部の教授も務めている画家であり,それまで絵本の挿絵を制作した経験はなかったが,Bから上記(イ)のような絵本の制作意図を説明され,この仕事を挑戦のしがいのあるものであると感じ,同企画に前向きに取り組むこととした。そこで,原告A2は,同企画における画家 側の窓口となり,同原告の知り合いの画家に声をかけ,上記絵本の挿絵の制作を依頼するなどした。

(オ) Bは,平成16年11月ころ,原告A2から,絵本の挿絵(原画)を制作するに当たって,石井式漢字絵本の基本的な理念や原画制作のスケジュール等について,画家側と出版社(被告)側とで,一度話合いの機会を持ちたいとの希望を伝えられたため,これを被告に伝えた。その結果,平成16年12月20日,被告の事務所において,画家側と被告側との会合(以下「本件会合」という。)が行われた。同会合には,画家側から原告A2,同A1,同A3,同A4及び同A11が出席し,被告側から被告代表者,営業本部長のF,指導部長のC及びBらが出席した。また,同絵本の印刷を担当する印刷会社(INP社)の担当者(G)も同席した。
本件会合では,被告側から画家側に対し,石井式漢字教育及び石井式漢字絵本による指導方法についての説明や,原画制作に当たっての意見,要望等が伝えられ,被告側と原告側との間で,絵本原画制作の基本的な方針(原画の大きさ(サイズ),1書籍当たりの原画の枚数,絵本の中の文章部分の位置等)が確認されるなどした。なお,本件会合では,絵本の原画の著作権がどのように取り扱われるのか(著作権は画家が保持するのか,それとも画家から被告に譲渡されるのか)という問題や,被告において本件書籍を将来(数年後に)増刷する予定があるのか,増刷する際に本件原画の著作者(画家)に対して被告から別途画料が支払われるのかという問題については,特段話題に上らなかった。

(カ) 被告は,遅くとも平成17年1月ころまでには,上記絵本の印刷数を1万冊とし,絵本1冊(1タイトル)につき10枚の挿絵を用い,画家に支払う画料を絵本1タイトルにつき50万円とすることを了承し,Bを通じて,その旨を原告ら画家たちにも伝えた。なお,Bは,原告らに対し,本件会合の以前にも,本件会合の後にも,本件原画の著作権の取扱いや,本件書籍の増刷予定の有無,増刷する際の画料の追加支払の有無等について,特段説明することはなかった。被告は,平成17年3月ころまでには,「石井式青い鳥文庫シリーズ」の「赤い実シリーズ」,「白い実シリーズ」及び「青い実シリーズ」の合計30タイトルについて,原告らほか数名の画家に対し,その挿絵(原画)の制作の依頼を終え,同年中に挿絵の原画(本件第1原画等)の引渡しを受け,その画料として書籍1タイトルにつき50万円を支払った。なお,上記原画を制作した画家たちは,原告A2と同様,本件以前に絵本の挿絵を制作した経験はなかった。

(キ) 被告は,上記のとおり,平成17年に「石井式 青い鳥文庫」シリーズを発行し
たところ,その中の一部の書籍の挿絵については,顧客である幼稚園等の評判が良くなかった。そのため,被告は,これらの書籍については,原文及び文字のレイアウトを当初に発行したものと同じとしたまま,挿絵だけを差し替えて新たな書籍を制作することとし,平成19年ころ,被告の社内において本件第1原画の評価が高かった原告A10及び原告A13に対し,上記書籍の挿絵とするための絵画(1書籍(1タイトル)につき10枚)の制作を依頼した。上記依頼はBが行い,Bは,原告A10及び原告A13に対し,画料については本件第1原画の時と同じ条件でお願いしたいと伝え,同原告らはこれを承諾した。なお,上記依頼の際,Bから原告A10及び原告A13に対し,上記書籍の挿絵の差替えと同時期に本件第1書籍の増刷が行われる旨の説明がされたことはなかった。

(ク) 被告は,平成20年4月から平成22年12月までの間に,別紙書籍増刷表記載のとおり本件第1書籍を増刷し(本件増刷),これらを幼稚園等向けに販売した。被告は,本件増刷に当たって,原告らから増刷について改めて許諾を受けることも,追加の画料を支払うこともしなかった。そのため,原告らは,本件増刷がされた当時は増刷の事実を認識していなかった。

(ケ) 原告A2は,平成22年3月ころ,Bから,被告が本件第1書籍を増刷していることを聞き,驚いて印刷会社(INP社)に対して事実関係を確認し,原告らに無断で本件増刷がされたことを知った。そこで,同原告は,代理人弁護士に依頼し,被告に対して,本件増刷は原告らが有する本件第1原画の著作権を侵害するものであるから,今後原告らの許諾なく本件第1書籍の増刷をすることを禁じる旨を通告した。また,原告A2及び代理人弁護士は,被告から本件第1書籍の新たな増刷の依頼を受けて本件原画を所持していたINP社に対し,本件第1原画を印刷することは原告らの著作権を侵害することとなる旨を通告し,被告から受注した印刷をしないよう警告した。上記警告を受けたINP社は,被告からの本件第1書籍の増刷の注文に応じず,本件原画を被告に返還することにも応じない態度をとった。そのため,被告は,株式会社広英社(以下「広英社」という。)に依頼して,別紙書籍増刷表記載13及び14の書籍(タイトル「兎と亀」及び「鼠の嫁入り」)の現物に基づいて,別紙書籍増刷表記載のとおり,同書籍を2000冊ずつ印刷(複製)した。イ 被告は,本件第1書籍の初版の1万冊については,その出版・配本を開始した平成17年から4年が経過する平成20年には当然に増刷が行われるはずであったものであり,このことは原告らも承知していたと主張し,被告代表者の供述(乙第8号証の陳述書を含む。以下同じ)中には,これに沿う部分がある。

しかしながら,被告において「石井式青い鳥文庫シリーズ」を制作するに当たって,画家との間で挿絵の制作依頼の交渉を行っていたのは,前記認定のとおりBであり,被告代表者が画家と直接交渉した事実はない。そして,B及び同人と交渉した画家たち(原告A2,原告A10)は,いずれも,Bは,上記絵本の制作依頼を行った当時,絵本の印刷部数は1万冊であること,及び,この絵本のシリーズが成功するようであれば,将来被告において新たに絵本を制作する際に画家たちに対して新たな挿絵の制作を依頼したいと考えている旨を話しただけで,絵本の増刷予定の有無等の話はせず,画家たちからも絵本の増刷予定の有無等を確認することはなかったと供述している(甲42,43,証人B,原告A2本人,原告A10本人)。

また,「石井式青い鳥文庫シリーズ」は,前記認定のとおり,被告が,登龍館との業務提携の解消後に自社において初めて絵本を制作するという企画であり,当時,被告の社内には,絵本の制作に関与しだŸçµŒé¨“を有するものがほとんどおらず,それ故に,被告の従業員ではないBに対して上記企画への協力を依頼せざるを得ない状況にあったものである。このような事情に照らすと,Bが平成16年から平成17年にかけて画家たちと交渉していた当時は,そもそも,被告において,当初の計画どおり平成17年4月までに上記絵本を無事制作することができるかどうかということについてすら,確実な見通しが立っていない時期であり,印刷費用の見積もり等を考慮して絵本の印刷部数(1書籍当たり1万冊)こそ決めたものの,この絵本がどの程度売れるのか,販売先の幼稚園等は次年度以後も継続して絵本を購入してくれるのかという点について,これを予測することは困難な状況にあったことがうかがえる。このような本件第1書籍の制作に至る経緯や,原告らは本件以前に絵本の挿絵を制作した経験がなかったことなどの事情を考慮すると,Bが原告らに本件第1原画の制作を依頼した当時,Bから絵本の増刷の有無等の話がされず,画家たちからも絵本の増刷予定の有無等について特段確認をしなかったとしても,格別不自然であるとはいえない。

したがって,被告代表者の上記供述は,これに反する前掲各証拠に照らし採用することができない(なお,被告代表者は,平成20年5月に被告代表者の経営する幼稚園の新園舎の落成式があり,原告A2がそのお祝いに訪れた際,Bから,本件第1書籍をようやく増刷することができるようになった旨の話があり,同原告もこれを喜んでいたとも供述するものの,B及び原告A2は,この事実を否定しており,他に同事実を認めるに足りる証拠はないので,同供述を採用することもできない。また,被告代表者は,Bは本件増刷に関与しており,本件増刷の事実を当初から認識していたとも供述するが,仮に,Bが本件増刷に関与していたとしても,本件増刷が行われたのは本件第1書籍の出版から3年以上後のことであり,Bが本件増刷をするに当たって,原告らにその事実をあらかじめ伝えていたことなどを認めるに足る証拠もない以上,上記事実は,原告らが被告に対して本件原画の著作権を黙示的に譲渡した事実を推認するに足るものとはいえず,上記認定を左右するものではない。)。

ウ 被告は,原告A10及び原告A13は,本件第2原画の制作を依頼された際,これらの書籍の挿絵は顧客から特に不評なので,増刷をせずに描き直す必要がある旨,被告から説明を受けていたものであるから,少なくとも同原告らは,他の書籍(原告第1書籍)が増刷となることを知っていたはずであるとも主張する。また,被告代表者の供述及びCの供述(乙第1号証の陳述書を含む。以下同じ。)中には,これに沿う部分がある。

しかしながら,原告A10及び原告A13に対して本件第2原画の制作を依頼した際の被告側の担当者はBであるところ,B及び原告A10は,いずれも,上記依頼の際に他の書籍の増刷の話などはされなかったと供述する(甲43,証人B,原告A10本人)。また,被告が原告A10及び原告A13に対して本件第2原画の制作を依頼した経緯は,前記認定のとおり,原告第1書籍と同時期に発行された一部の書籍の挿絵が顧客に不評であるため,挿絵を差し替える必要が生じたというものであるから,Bから上記依頼をするに当たってその理由を説明するにしても,他の書籍の増刷予定等の話をしなければならない必然性は認められない。

したがって,被告代表者及びCの上記供述は,これに反する前掲各証拠に照らし採用することができない。

エ 被告は,さらに,一般的に絵本の原画は出版社の買取りとなり,その版権(再版権)は当該出版社に帰属するものとして取り扱われる慣行があると主張し,被告代表者の供述及び登龍館の元従業員であるHの陳述書(乙7)中には,これに沿う部分がある。

しかしながら,被告代表者の上記供述等については,これを裏付けるに足りる客観的な証拠はなく,かえって,証拠(甲45)及び弁論の全趣旨によれば,他の出版社の制作した絵本の中には,原画の著作権が画家(著作者)に帰属するものとして取り扱われているものが少なからず存在することがうかがえる。したがって,被告代表者等の上記供述を採用することはできない。

(2) 上記(1)アの事実関係によれば,本件第1原画の制作に当たって,原告らが被告に対して上記原画の著作権を黙示的に譲渡したと認めることはできない。
なお,証拠(乙2~6,8)及び弁論の全趣旨によれば,被告は,本件第1書籍を発行した後,平成18年から平成21年までの間,被告において本件原画の中から適宜選定した絵を題材としたカレンダーを制作しており,同カレンダーの制作に当たって,事前に原告らの承諾を得ることはなかったこと,被告は,上記のとおり選定された原画の作者である原告らに対して上記カレンダーを配布していたものの,原告らから,上記カレンダーの制作について抗議を受けたことはなく,むしろ,原告A10ら一部の原告からは,選定についてのお礼やカレンダーの追加配布の注文を受けていること,が認められる。

他方,原告A2及び原告A10は,同原告らが上記カレンダーの制作について被告に特段抗議をしなかったのは,上記カレンダーは取引先等の関係者に配布するために制作されたものであって,販売目的のものではないと認識していたためであると供述し,また,原告A10は,同原告が被告に礼を述べたのは,数ある原画の中から自己の作品を選んでもらったこと及びカレンダーを送ってきたことに対して感謝の意を表したものにすぎないと供述している。そして,上記カレンダーの体裁(乙2~4)や,同カレンダーが原告らに配布された当時,原告らと被告との間で本件増刷の問題は顕在化しておらず,両者の間に特段の問題はみられなかったことなどに照らすと,原告A10らの上記説明は,あながち不自然であるとはいえない。

したがって,被告が原告らに対して上記カレンダーを配布していたなどの事実は,原告らが被告に対して本件原画の著作権を黙示的に譲渡した事実を推認するに足るものではなく,同事実は,上記(1)アの認定を左右するものではない。

また,被告は,本件画料の金額(50万円)は本件書籍の初版1万冊が販売された場合の被告の売上げの1割を超えるものであることなどから,同金額は本件原画に係る著作権譲渡の対価として低廉とはいえないと主張する。しかしながら,前記認定のとおり,
① 本件原画は,画家で㠁‚る原告らが,被告の依頼を受けて,本件書籍のために,書籍1タイトル当たり10枚の原画を新たに制作したものであること,
② 本件書籍は,幼児向けの絵本であり,かつ,そのすべてのページに本件原画が使用されているものであって,絵の重要性は高いといえること,
③ 本件書籍の構成は,見開きのページの全面に本件原画を用い,見開きの右側のページの一部分に文章を挿入するというものであり,本件書籍の大部分を本件原画が占めていること,
④ 本件書籍の単価は430円であり,初版として1万冊が印刷され,幼稚園等向けに販売が予定されていたこと,

などの諸事情を考慮すると,本件画料を,原告らの主張するとおり本件書籍の初版1万冊の印刷及び販売に当たっての許諾料であると考えたとしても,特段不合理であるとはいえない。したがって,本件画料の金額等の事実は,上記(1)アの認定を左右するものではない。

(3) 以上のとおり,被告は,本件第1原画の著作権者である原告らの許諾を得ることなく本件第1書籍を増刷し,これを販売したものであるから,本件第1原画に係る原告らの著作権(複製権及び譲渡権)を侵害したものと認められる。また,被告は,原告A2から本件第1書籍を増刷しないよう警告を受けた後も,広英社に依頼して本件第1書籍の一部の増刷を行ったほか,原告らから本件訴えが提起された後も,増刷された本件第1書籍の販売を継続し,本件訴訟においても,被告は原告らから本件第1原画に係る著作権の譲渡を受けたものであるなどと主張して,著作権侵害の有無を争っていることが認められる。

したがって,被告において,今後も,本件第1書籍を増刷して同書籍を販売するおそれがあると認められる。また,このような被告の行動に照らすと,被告において,今後,本件第2書籍を原告らに無断で増刷するおそれがあるものと認められる。

よって,原告らは,被告に対し,著作権法112条1項に基づき,本件第1書籍の印刷,出版,販売又は頒布の差止め及び本件第2書籍の印刷又は出版の差止めを求めることができる。

2 争点2(原告らの損害)について

(1) 著作権侵害による損害について- 23 -ア 前記1(1)で認定した事実関係によれば,被告は,原告らの許諾を得ることなく本件第1書籍を合計26万9000冊増刷したものであり,これにより,原告らは,本件第1原画に係る原告らの著作権(複製権)を侵害され,損害を被ったものといえる。

また,被告は,書籍の出版事業等を業とする者として,本件第1書籍の増刷に当たり,本件第1原画の著作権の帰属について十分な検討をするとともに,本件第1原画の著作者である原告らの認識を確認するなどの調査を行えば,本件第1原画の著作権が原告らにあること(原告らから被告に著作権が譲渡されていないこと)を認識することが可能であったにもかかわらず,必要な検討及び調査を行うことなく,上記侵害行為を行ったものである。したがって,被告は,本件増刷を行ったことにつき,少なくとも過失があったというべきである。

イ 前記1(1)で認定ないし説示した,本件第1原画の制作に至るまでの経緯,石井式漢字教育における絵本(漢字仮名交じり絵本)の役割(絵本の文章部分の重要性),本件第1書籍の販売価格,本件第1書籍における本件第1原画の重要性,本件画料には原画の制作料の意味合いも含まれているとうかがえること,などの事情を総合的に考慮すると,本件第1書籍を1冊増刷するに当たって原告らが受けるべき著作権料相当額は,30円と認めるのが相当である。

ウ したがって,本件第1原画の著作権(複製権)の行使につき原告らが受けるべき金銭の額に相当する額は,別紙第1損害金計算表の「著作権侵害による損害」欄記載のとおりであると認められる。

(2) 弁護士費用について原告らは,弁護士を選任して本件訴訟を追行しており,本件事案の内容,認容額及び本件訴訟の経過等を総合すると,上記著作権侵害行為と相当因果関係のある弁護士費用の額は,別紙第1損害金計算表の「弁護士費用」欄記載のとおり,上記(1)の損害額の1割に相当する金額と認められる。

(3) 小括以上のとおり,被告による本件第1書籍の増刷と相当因果関係がある原告の損害額は,別紙第1損害金計算表の「損害金合計」欄記載の金額及びこれに対する不法行為の日(本件第1書籍が増刷された日)から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金(別紙第1遅延損害金目録記載のとおり)であると認められる。

3 よって,原告らの請求は,主文第1項ないし第16項の限度で理由があるからこれを認容し,その余の請求はいずれも理由がないからこれを棄却することとし,主文のとおり判決する。

東京地方裁判所民事第47部裁判長裁判官 阿 部 正 幸裁判官 山 門 優裁判官 志 賀 勝(別紙は掲載を省略)

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おしまい。

特に理解に苦しむ点もなく、
非常に参考になる判例だったと思う。

しかしこのたぐいの問題が、
訴訟にまで発展せずに済む方法はないものかという気もする。

結局、
著作権法という法律のわかりにくさというか、
イメージや感覚とのズレが、
そもそもこういうトラブルにつながっているようなきもしなくもない。

やはり、
画をかいてもらって、代金を払うと、
それが自分のものになったような気がしてしまうもんですね。


また
画家さんなど、
作り手からすると、
作品への愛着といった、感情的な側面もあいまって、
金銭だけではなく心意気の問題もでてきて大きな争い
になってしまうこともあるような気がする。

結局、
最初から間にたって契約書を作成するという手間をとるしか
ないのかもしれないが、

往々にしてビジネス取引のスピード感と
それらの手続の面倒さは、
相容れないのもまた事実かもしれない。