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雑誌のタイトルはマネしてよいか? 面白い判例 3

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いよいよ裁判所の判断がくだされる。




第4 当裁判所の判断

1 争点1(原告標章は,原告の商品表示として需要者の間に広く認識されているか)について

以下のとおり,原告標章は,原告の商品表示として需要者の間に広く認識さ
れているものと認めることができる。

(1)原告標章の商品等表示性
証拠(甲3の1~280)及び弁論の全趣旨によれば,原告雑誌の題号は,
「ハートナーシング」ないし「HEΛRT nursing」であることが認められる。
原告の主張は,要するに,原告標章が独立して商品表示性を獲得するに至っ
ていると主張するものと解される。

そこで検討すると,証拠(甲3の191~280)によれば,原告は,原告雑誌の平成16年4月号から現在に至るまで,原告雑誌の表紙に原告標章を付して使用してきたことが認められる。具体的には,原告雑誌の表紙上段の誌名が記載される部分に,大きく目立つ態様で,以下の記載がされていることが認められる。

なお,上記「nursing」の部分の上方には,何月号であるかを示す各号表示が記載されており,「nursing」の部分の下部には,より小さい文字で「ハートナーシング」と記載されている。

このように,原告標章である「HEΛRT」の文字の部分が,「nursing」ないし「ハートナーシング」の部分よりも,格段に大きな文字で記載されていることからすれば,原告雑誌の表紙を見る取引者,需要者にとっては,原告標章が特に注意を引く部分であると認められる。

被告は,「HEART」が普通名詞である又は原告雑誌の内容を説明する単語
にすぎないから,商品表示とはなりえないとか,出版業界において,このような普通名詞を出版元の異なる複数の雑誌が使用するのは,通常のことである旨主張する。しかしながら,「HEART」とは,一般に,「心臓,胸」「思い
やりの心,愛情」「興味,関心,勇気」「中心,核心」を意味する英単語であり,循環器疾患に係る医療やそれに関連する事項を直ちに連想させるものではない。また,循環器疾患に係る医療やそれに関連する事項を題材とした雑誌を刊行するに当たり,「HEART」の文字を使用することが必須であるとか,これを用いない誌名を創作することが困難であるなどといえないことは,多言を要しない。

したがって,原告標章について,商品内容を普通に用いられる方法で説明
したにすぎないものであるとか,他の同種商品と識別することができないも
のであるなどということはできないから,上記被告の主張は採用できない。
後述する後記(2)の事実を併せ考えると,原告標章は,原告雑誌の題号の
うち他の部分から独立して,商品表示として機能するものであるということ
ができる。

(2)原告標章が,原告の商品表示として需要者の間に広く認識されているものであること

上記(1)に加え,以下のとおり,原告標章が,長期間にわたり,継続的か
つ独占的に使用されてきたものであることなどからすれば,原告標章は,原
告の商品表示として需要者の間に広く認識されているものであると認めるこ
とができる。

ア 前提事実に加え,後掲各証拠によれば,以下の事実が認められる。

(ア) 原告標章及び原告旧標章の使用
原告は,昭和62年11月号(創刊号)から平成16年3月号までの
間,原告雑誌の表紙に原告旧標章を付して使用してきた。
その具体的な使用態様は,原告雑誌の平成11年12月号までは,原告雑誌の表紙上段の誌名が記載される部分に,大きく目立つ態様で,原告旧標章が記載され,その下部に小さく「ハートナーシング」と記載され,その右横に,同様の小さい文字で「nursing」と併記されていた(甲3の1~139)。

その後,平成12年1月号から平成16年3月号までの間は,前記(1)
の原告標章と同様の構成で,原告旧標章が記載されていた(甲3の14
0~190)。

平成16年4月号以降は,前記(1)のとおり,原告標章が記載されて
いる。

原告標章は,原告旧標章の「A」の文字を「Λ」と替え,「R」の文字
の右下の部分をやや右下に延ばしている点で原告旧標章と相違する。し
かしながら,これらの相違点は,表示全体の構成から見ると些細な相違
というべきであり,原告標章は,原告旧標章と実質的に同一のものであ
る。

したがって,原告標章は,それと実質的に同一の表示である原告旧標
章が用いられた期間を含め,被告雑誌が刊行される前の20年間以上に
もわたり使用されてきたものである。しかも,この間,原告標章ないし
原告旧標章と同一又は類似する標章を使用した看護雑誌は存在しな
かったから,原告は,原告標章を長期間にわたり継続的かつ独占的に使
用してきた。

(イ) 原告雑誌の販売実績等及び広告・宣伝

原告雑誌の発行部数は,各号につき概ね4000部を超えており,平
成3年から平成23年までの1年当たりの発行部数は合計5万部ない
し8万部である(甲5,22及び23)。
また,原告雑誌の読者は,主として,心臓血管外科,循環器科及び集
中治療室(ICU)に勤務する看護師であるところ,これらの診療科に
所属する看護師の総数は,平成21年11月時点において,全国で合計
約6万4500人と推定される(甲26)。

原告雑誌は,病院・医療センター・専門学校などによって定期購読を
されており,これらの施設に所属する看護師も読者となるものであるか
ら,原告雑誌は,全国で想定される読者のうち相当程度の割合の者に
よって閲覧されてきたものである。

原告は,これまで看護学会のプログラムや学会誌等において,原告標
章ないし原告旧標章を付した原告雑誌の表紙を掲載し又は原告標章な
いし原告旧標章をそのまま掲載した広告を繰り返しており(甲6〔枝番
省略〕~9),これらの広告・宣伝も,需要者に対する原告標章の知名
度を高めたものである。

イ 上記アの各事実に加え,原告社員の陳述書(甲21)並びに医師及び看
護師の陳述書(甲27,67ないし73)によれば,原告雑誌は,循環器
疾患に係る医療に従事する看護師を読者とする看護雑誌として,医師,看
護師の間に広く認識されていたものであること,原告雑誌の取次会社,書
店,定期購読者や読者である医師及び看護師は,一般に原告雑誌を「ハー
ト」と呼称してきたことも認められる。

なお,被告は,書店担当者(乙39,40)並びに医師及び看護師に対
するアンケート調査の回答書(乙41ないし49)を提出しており,これ
らの書面には原告雑誌を「ハート」と呼称することはない旨の記載がある。
しかしながら,原告提出の上記各陳述書が,前記(1)及び上記アの各事実
により客観的に裏付けられているのに対し,被告提出の上記各回答書は,
これらの事実と整合するものではない。

(3)小括
前記(1)のとおり,原告標章は,原告雑誌の題号のうち他の部分から独立
して,商品表示として機能するものであるということができ,少なくとも原
å‘ Šé›‘誌の題号のうちの要部であることに加え,前記(2)のとおり,原告標章
が,長期間にわたり,継続的かつ独占的に使用されてきたものであることな
どからすれば,原告標章は,原告の商品表示として需要者の間に広く認識さ
れているものと認めるのが相当である。

2 争点2(被告標章は,原告標章と同一又は類似の商品表示であるか)について

以下のとおり,被告標章は,原告標章と類似の商品表示であると認められる。

(1)特定の商品表示が法2条1項1号にいう他人の商品表示と類似のものか否
かを判断するに当たっては,取引の実情の下において,取引者,需要者が,両者の外観,称呼,又は観念に基づく印象,記憶,連想等から両者を全体的に類似のものとして受け取るおそれがあるか否かを基準として判断するのが相当である。

原告標章は,別紙原告標章目録記載のとおり,アルファベットの大文字で
「HEΛRT」と横書きしてなる標章であり,書体は,いわゆる「Times New
Roman」と同等のものが用いられている。被告標章も,別紙被告標章目録記
載のとおり,アルファベットの大文字で「HEART」と横書きしてなる標章
であり,書体は,いわゆる「Times New Roman」と同等のものが用いられ
ている。

そうすると,少なくとも,いずれの標章からも「ハート」の称呼が生じ,
観念においても共通のものであると認めることができる。なお,外観において,原告標章は,「A」の文字を「Λ」と表記している点及び「R」の文字の右下の部分がやや右下に延ばされている点において被告標章と相違する。

しかしながら,他の文字については共通であり,後記の原
告雑誌及び被告雑誌における各標章の使用態様も考慮すると,各標章を全体としてみる限りにおいて,上記相違点はいずれも些細な違いにすぎないものというべきであって,全体としてみた場合には外観においても類似すると認められる。

取引の実情についてみると,証拠(甲3の191~280,甲11の1・
2,甲18,乙17~24,27)によれば,原告標章及び被告標章は,そ
れぞれ,原告雑誌及び被告雑誌の表紙上段の誌名が記載される部分に,大き
く目立つ態様で記載され,原告雑誌及び被告雑誌は,書店等において,いわ
ゆる面出しの状態で陳列されるときもあることが認められる。

これらのことに加え,前記1のとおり,原告標章が,原告の商品表示とし
て需要者の間に広く認識されていることも考慮すると,需要者である購読者
が書店において原告雑誌又は被告雑誌を購入する際には,表紙上段に大きく
目立つ態様で記載された原告標章又は被告標章に注目することが認められる。

そして,上記のとおり,原告標章と被告標章が外観,称呼及び観念において
共通ないし類似することからすれば,購読者が両者を全体的に類似のものと
して受け取るおそれがあるというべきである。

(2)なお,被告は,原告標章について,原告の商品表示としては使用されておらず,原告の商品表示は,原告雑誌の題号である「ハートナーシング」ないし「HEΛRT nursing」であり,これと被告標章とは類似しない旨主張する。

しかしながら,前記1のとおり,原告標章は,他の部分から独立した商品
表示として機能するものであるということができるし,少なくとも原告雑誌
の題号のうちの要部であるということができるから,上記被告の主張は前提
となる事実を誤るものであり,採用することができない。

3 争点3(被告の行為は,原告の商品(原告雑誌)と混同を生じさせるもので
あるか)について

以下のとおり,被告の行為は,原告の商品と混同を生じさせるものであると
認められる。

(1)被告雑誌の需要者
被告雑誌に掲載された「創刊の辞」と題する編集主幹名義の記事(甲62)
には,被告雑誌が,循環器看護に従事する看護師のための雑誌として創刊さ
れた旨の記載があること,被告も読者として循環器疾患に係る医療に従事す
る看護師を読者としていること自体は認めていることからすれば,被告雑誌
の主たる需要者(購読者)は,原告雑誌と同様に,循環器疾患に係る医療に
従事する看護師であることが認められる。

(2)取引の実情
前記2のとおり,書店等において,需要者(購読者)が原告雑誌又は被告
雑誌を購入する際には,原告標章又は被告標章に注目することが認められる。
(3)混同のおそれについて
上記(1)のとおり,原告雑誌と被告雑誌の需要者(購読者)が共通である
こと,上記(2)のとおり,取引の実情においては,需要者が原告標章又は被
告標章に注目すること,前記2のとおり,被告標章が,原告標章と類似の商
品表示であることに加え,前記1のとおり,原告標章が,原告の商品表示と
して需要者の間に広く認識されているものであることからすれば,需要者が
原告商品と被告商品とを混同するおそれがあると認めるのが相当である。なお,被告は,誌面の大きさの相違(前記第3の3【被告の主張】(3)ウ(ア)),

原告標章と被告標章の色の相違(同(イ)),頁数及び記事の着色の有無に係る
相違(同(ウ)),価格の相違(同(エ)),出版社名の相違(同(オ)),陳列方法の相違(同(カ))並びに対象読者の相違(同(キ))からすれば,購読者が原告雑誌と被告雑誌を混同するおそれはない旨主張する。

しかしながら,誌面の大きさの相違(同(ア)),原告標章と被告標章の色の
相違(同(イ)),頁数及び記事の着色の有無に係る相違(同(ウ))並びに価格
の相違(同(エ))は,同一の出版社から発行される定期刊行物においても,
これらの点について変更されることがありうるものであり,需要者において,これらの些細な相違点により,商品を混同するおそれがないとはいえない。

また,前記のとおり,原告標章が,原告の商品表示として需要者の間に広
く認識されていること,需要者が購入する際には原告標章ないし被告標章に
注目することなどからすれば,出版社名(同(オ))の相違にもかかわらず原
告雑誌と被告雑誌を混同するおそれは十分にあるといえる。

陳列方法の相違(同(カ))については,被告が提出した証拠(乙22,23及び27)によっても,原告雑誌及び被告雑誌がともに書店で面出しの状態で陳列されるときがあることが明らかであり,対象読者の相違(同(キ))についても,前記(1)のとおり,主たる需要者(購読者)は共通であるから,これらの点に関する被告の主張はいずれも前提を欠いている。したがって,被告の上記主張を採用することはできない。

4 争点4(損害額)について
本件事案の内容及び本件訴訟の経過等一切の事情を総合考慮すると,弁護士
費用については50万円の限度で本件と相当因果関係のある損害であると認める。


5 結論

よって,主文のとおり判決する。
大阪地方裁判所第26民事部
裁 判 長 裁 判 官 山 田 陽 三
裁 判 官 松 川 充 康
裁 判 官 西 田 昌 吾


おわり。

まあ
読めばなるほどという判決でしたね。