契約書業務マニュアル

平成15年から契約書だけをつくり続けてきた契約書専門の行政書士

判例) 行政文書不開示決定取消請求事件

事件番号 平成21(行ウ)198 事件名 行政文書不開示決定取消請求事件 裁判所 大阪地方裁判所 第7民事部 裁判年月日 平成23年11月10日 脳血管疾患及び虚血性心疾患等に係る労災補償給付の支給請求に対して支給決定がされた事案の処理状況を把握するために作成された処理経過簿に記載された情報のうち,被災労働者が所属していた事業場名欄中の法人名記載部分が情報公開法5条1号,2号イ,6号の各号所定の不開示情報のいずれにも当たらないとされた事例 主 文 1 処分行政庁が,原告に対し,平成21年4月30日付けでした行政文書の一 部を開示しない旨の決定(ただし,平成23年3月18日付け裁決によって変 更された後のもの。)のうち,大阪労働局管内の各労働基準監督署長が平成1 4年4月1日から同21年3月5日までの間に,脳血管疾患及び虚血性心疾患 等(負傷に起因するものを除く。)に係る労働者災害補償保険給付の支給請求 に対して支給決定を下した事案につき,その処理状況を把握するために作成し ている処理経過簿(ただし,平成16年4月1日から平成17年3月31日ま での間に作成されたものを除く。)のうち被災労働者が所属していた事業場名 欄中の法人名記載部分を不開示とした部分を取り消す。 2 原告のその余の請求を棄却する。 3 訴訟費用は被告の負担とする。 事 実 及 び 理 由 第1 請求 処分行政庁が,原告に対し,平成21年4月30日付けでした行政文書の一 部を開示しない旨の決定(以下「本件一部不開示決定」という。ただし,平成 23年3月18日付け裁決によって変更された後のもの。)のうち,大阪労働 局管内の各労働基準監督署長が平成14年4月1日から同21年3月5日ま での間に,脳血管疾患及び虚血性心疾患等(負傷に起因するものを除く。以下 同じ。)に係る労働者災害補償保険給付(以下「労災補償給付」という。)の支 給請求に対して支給決定を下した事案につき,その処理状況を把握するために 作成している処理経過簿(以下「本件文書」という。)のうち被災労働者が所 属していた事業場名欄中の法人名記載部分を不開示とした部分を取り消す。 第2 事案の概要 本件は,原告が処分行政庁に対し,行政機関の保有する情報の公開に関する 法律(平成21年法律第66号による改正前のもの。以下「情報公開法」とい う。)に基づき,大阪労働局管内の各労働基準監督署長が平成14年4月1日 から同21年3月5日までの間に,脳血管疾患及び虚血性心疾患等に係る労災 補償給付の支給請求に対して支給決定を下した事案につき,その処理状況を把 握するために作成している処理経過簿(本件文書)のうち,Ⅰ被災労働者が所 属していた事業場名欄のうち法人名が記載されている部分,Ⅱ労災補償給付の 支給決定年月日の開示を請求した(以下「本件開示請求」という。)ところ, 処分行政庁が,本件文書の一部は情報公開法5条1号所定の不開示情報に該当 するとして,開示請求に係る行政文書の一部を開示しない旨の決定(本件一部 不開示決定)をしたため,原告が,同決定のうち被災労働者が所属していた事 業場名欄のうち法人名記載部分を不開示とした部分(ただし,後記2(5)ウの裁 決により一部を開示する旨の変更がされた後のもの。)は違法であるとして, その取消しを求めた事案である。 1 情報公開法の定め (1) 情報公開法1条は,国民主権の理念にのっとり,行政文書の開示を請求す る権利につき定めること等により,行政機関の保有する情報の一層の公開を 図り,もって政府の有するその諸活動を国民に説明する責務が全うされるよ うにするとともに,国民の的確な理解と批判の下にある公正で民主的な行政 の推進に資することを目的とする旨定めている。 (2) 情報公開法3条は,何人も,同法の定めるところにより,行政機関の長に 対し,当該行政機関の保有する行政文書の開示を請求することができる旨定 めている。 (3) 情報公開法5条は,行政機関の長は,上記の開示請求があったときは,開 示請求に係る行政文書に同条各号に掲げる情報(以下「不開示情報」という。) のいずれかが記録されている場合を除き,開示請求者に対し,当該行政文書 を開示しなければならない旨定めている。 同条が定める不開示情報で,本件に関係するものは以下のとおりである。 Ⅰ 1号 個人に関する情報(事業を営む個人の当該事業に関する情報を除く。)で あって,当該情報に含まれる氏名,生年月日その他の記述等により特定の 個人を識別することができるもの(他の情報と照合することにより,特定 の個人を識別することができることとなるものを含む。)又は特定の個人を 識別することはできないが,公にすることにより,なお個人の権利利益を 害するおそれがあるもの。ただし,次に掲げる情報を除く。 ロ 人の生命,健康,生活又は財産を保護するため,公にすることが必 要であると認められる情報 Ⅱ 2号 法人その他の団体(国,独立行政法人等,地方公共団体及び地方独立行 政法人を除く。以下「法人等」という。)に関する情報又は事業を営む個人 の当該事業に関する情報であって,次に掲げるもの。ただし,人の生命, 健康,生活又は財産を保護するため,公にすることが必要であると認めら れる情報を除く。 イ 公にすることにより,当該法人等又は当該個人の権利,競争上の地 位その他正当な利益を害するおそれがあるもの Ⅲ 6号 国の機関,独立行政法人等,地方公共団体又は地方独立行政法人が行う 事務又は事業に関する情報であって,公にすることにより,次に掲げるお それその他当該事務又は事業の性質上,当該事務又は事業の適正な遂行に 支障を及ぼすおそれがあるもの。 イ 監査,検査,取締り,試験又は租税の賦課若しくは徴収に係る事務 に関し,正確な事実の把握を困難にするおそれ又は違法若しくは不当 な行為を容易にし,若しくはその発見を困難にするおそれ ロ 契約,交渉又は争訟に係る事務に関し,国,独立行政法人等,地方 公共団体又は地方独立行政法人の財産上の利益又は当事者としての地 位を不当に害するおそれ ハ 調査研究に係る事務に関し,その公正かつ能率的な遂行を不当に阻 害するおそれ ニ 人事管理に係る事務に関し,公正かつ円滑な人事の確保に支障を及 ぼすおそれ ホ 国若しくは地方公共団体が経営する企業,独立行政法人等又は地方 独立行政法人に係る事業に関し,その企業経営上の正当な利益を害す るおそれ (4) 情報公開法6条1項は,行政機関の長は,開示請求に係る行政文書の一部 に不開示情報が記録されている場合において,不開示情報が記録されている 部分を容易に区分して除くことができるときは,開示請求者に対し,当該部 分を除いた部分につき開示しなければならない旨定めているところ,当該部 分を除いた部分に有意の情報が記録されていないと認められるときは,この 限りでないとされている(同項ただし書)。 また,同条2項は,開示請求に係る行政文書に同法5条1号の情報(特定 の個人を識別することができるものに限る。)が記録されている場合において, 当該情報のうち,氏名,生年月日その他の特定の個人を識別することができ ることとなる記述等の部分を除くことにより,公にしても,個人の権利利益 が害されるおそれがないと認められるときは,当該部分を除いた部分は,同 号の情報に含まれないものとみなして,同法6条1項の規定を適用する旨定 めている。 2 前提事実(当事者間に争いがないか,掲記の証拠及び弁論の全趣旨により容 易に認められる事実等。なお,証拠番号は特記しない限り枝番を含む。) (1) 処理経過簿の概要 ア 処理経過簿は,各都道府県労働局において,各労働基準監督署の事務処 理の進捗状況を把握し,労働局と労働基準監督署間の連携を図ることによ り,適正迅速な事務処理を行うことを目的として作成される文書である。 処理経過簿の様式は平成16年に変更され,その後も項目の順序等につい ては変更されているが,「処理経過簿種別」,「地方労働局」,「労働基準監督 署名」,「労働者氏名」,「生年月日」,「性別」,「発症年月日」,「発症時年齢」, 「(請求時の)生死」,「死亡年月日」,「事業場名」,「労働保険番号」,「業種」, 「(標準)業種」,「職種」,「(標準)職種」,「請求年月日」,「請求号」,「(請 求内容)療養・休業・傷害・遺族」,「速報受付」,「決定年月日」,「(処分結 果)支給・不支給・取下等」,「処分号」,「認定要件」,「評価期間」,「平均 時間外労働時間数(時間・分)」,「疾患名(請求時)」,「脳・虚血疾患区分」, 「疾患名(決定時)」,「〈標準疾患名〉(決定時)」,「審査請求」,「裁量労働 制適用有無」,「処理期間」,「未処理状況」,「備考」,「〈標準〉業種(中)」, 「〈標準〉業種(小)」,「〈標準〉職種(中)」,「〈標準〉職種(小)」の各欄 がある。(甲5,乙2から8まで,20,弁論の全趣旨) イ 処理経過簿は,Ⅰ脳血管疾患及び虚血性心疾患等に基づく労災補償給付 請求の請求書を受け付けた労働基準監督署からの報告を受けた労働局監察 官が請求についてその段階で一度入力し,Ⅱ労災補償給付の支給・不支給 決定がされた後,労働基準監督署から決定内容の報告を受けた労働局監察 官がその結果を入力するという手順で作成される(弁論の全趣旨)。 ウ 処理経過簿の事業場名欄には,労働局監察官が,労災補償給付請求書の 事業主証明欄の事業場名称,又は一括適用の取扱いをしている支店,工場 などであれば所属事業場名称・所在地欄に記載された名称,建設事業の場 合は元請け事業場の名称を移記する(弁論の全趣旨)。 (2) 本件開示請求 原告は,平成21年3月5日,処分行政庁に対し,情報公開法3条,4条 1項に基づき,本件文書のうち,Ⅰ被災労働者が所属していた事業場名(法 人名のみ),Ⅱ労災補償給付の支給決定年月日を対象として,行政文書の開示 請求をした(本件開示請求)。なお,原告は当初,本件文書のうち大阪府内に 本社を置く企業13社に関するものに限定して開示請求をしたが,開示請求 書提出後に,当該限定部分を削除する補正をした。(甲3,4,乙1) (3) 本件一部不開示決定 処分行政庁は,本件開示請求について,本件文書は,個人に関する情報で あって,当該情報に含まれる氏名,生年月日その他の記述等により特定の個 人を識別することができる情報又は特定の個人を識別することはできないが, 公にすることにより,なお個人の権利利益を害するおそれがある情報が記載 されており,情報公開法5条1号に該当し,かつ,同号ただし書イないしハ のいずれにも該当しないとして,以下の部分を不開示とし,その余の部分は 開示する旨の決定をし(本件一部不開示決定。なお,原告が開示請求した部 分の関係では,事業場名(法人名のみ)は不開示とし,支給決定年月日は開 示としたことになる。),原告に対し,平成21年4月30日付け行政文書開 示決定通知書(大開第○-△号)により,その旨通知した(甲1,5,乙2 から8まで)。 Ⅰ 労働者氏名,生年月日,性別 Ⅱ 発症年月日,発症時年齢,請求時の生死,死亡年月日 Ⅲ 事業場名,労働保険番号,業種,職種(標準業種,標準職種は除く) Ⅳ 請求年月日,請求内容,速報受付 Ⅴ 評価期間 Ⅵ 平均時間外労働時間数 Ⅶ 疾患名(認定基準に示されていない疾患) Ⅷ 審査請求 Ⅸ 裁量労働制適用有無 Ⅹ 処理期間,未処理状況 ⅩⅠ 備考 (4) 大阪労働局の文書管理規定により,処理経過簿の保存期間は1年とされて いるところ,本件文書のうち,平成16年度以前の処理経過簿については, 大阪労働局において本件開示請求に係る文書の特定を行った時点ですでに廃 棄されていたため,処分行政庁は,厚生労働省において報道発表資料作成の ために利用した後に残されていた処理経過簿の電子データを同省から入手し, これを印刷した上で本件一部不開示決定を行った(弁論の全趣旨)。 本件文書のうち,平成16年度の処理経過簿については,事業場名欄は存 在しない(乙4)。 (5) 審査請求及び本訴の提起 ア 原告は,平成21年6月29日,本件一部不開示決定につき不服がある として厚生労働大臣に対して審査請求をした(甲2)。 イ 原告は,平成21年11月18日,本件一部不開示決定のうち,事業場 名欄中の法人名記載部分を不開示とした部分の取消しを求めて,本訴を提 起した(顕著な事実)。 ウ 厚生労働大臣は,本訴訟係属中の平成23年3月18日,本件一部不開 示決定を変更し,平成19年度及び平成20年度の各処理経過簿中の一部 の特定事業場(合計4か所)の名称を開示する旨の裁決(厚生労働省発基 労▽第□号。以下「本件裁決」という。)をした。同裁決を受けた処分行政 庁は,平成23年4月11日付けで,本件一部不開示決定を変更し,上記 各特定事業場名を開示することとした。(乙20から23まで) エ 原告は,本件訴え中,本件裁決により新たに開示された部分に対応する 請求に係る部分を取り下げた(顕著な事実)。